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半年で応募30人!農家が実践した目からウロコの採用戦略

半年で応募30人!農家が実践した目からウロコの採用戦略

多くの農家が働き手の確保に頭を悩ませるなか、宮城県北西部に位置する加美町で半年に30人もの応募を集めた農家がいる。株式会社宮城フラワーパートナーズの代表取締役、今野高(こんの・たかし)さんだ。採用手法を聞くと、受入れ準備から求人票の書き方、面接方法や入社後の育成に至るまで、目からウロコの戦略があった。

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■今野高さんプロフィール

担当を9年間務めたのち独立。2012年に株式会社宮城フラワーパートナーズを設立。東北を中心に100%市場外流通で花苗を供給している。また現在は、企業へのアドバイザーとしても活動する。その他、講習会やセミナーなど、経験と知識を掛け合わせた事業を展開している。

■横山拓哉プロフィール

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで、数多くの企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より「マイナビ農業」を運営する地域活性CSV事業部長就任。「農業をもっと近く、もっと楽しく」を身上に、農業振興に寄与すべく奔走している。

「経営者の育成」が目的・「採用」は手段

横山:宮城フラワーパートナーズの今野社長にお越しいただきました。お父様も農家ですが、作っている作物が違うのですね。

今野:はい。私は花卉で父はコメと畜産でした。父を見ながら、農家を継ぐなら父ができない事をした方がこの家のためになると幼少期に考えました。

もう一つ、「農家の長男だから家業を継がねば」という使命感で思春期に苦しみ、私の
次の世代には、今野家の人間じゃなくてもいいのでやりたい人に継がせる農業をした
い、と高校時代に思うようになったことが、今採用活動をしている私のベースになって
います。

横山:花卉を選んだ理由はなんでしょうか。

今野:次世代の経営者を育てるためには、人を雇用して毎月お給料を払わなければいけません。そこで売り上げ予測ができるよう、100%市場外流通をしようと心に誓いました。独立当時、ホームセンター花苗業界が市場外流通がしやすかったので、やった事もない花卉を選びました。流通ありきです。

横山:心に誓ったことを実現されたのですね。

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「採用」とは、相手の人生を背負うこと

横山:現在スタッフは何名いらっしゃいますか。

今野:27名ですね。正社員が6名とパートさん、インターンも5名ほど入れています。

横山:最初に正社員を雇ったのはいつでしょうか。

今野:1人目は15年ほど前です。ただ、この時は福利厚生を整備できず、知り合いの会社に入社させてもらい、出向という形をとりました。他にも“黒歴史”のような苦い経験もあって、さらに以前に採用した方もいたのですが、給料が払えなくなって退職になってしまった事もありました。

横山:断腸の思いで決断したのですよね。

今野:採用育成の準備不足で、相手の人生を背負うということが、気構えがあってもできていなかった期間は確かにありました。今は採用にあたって「路頭に迷わせない」という思いがすごく強くなっています。

「採用」の準備をして「採用のプロ」を目指す

横山:2020年に初めての新卒採用に踏み切る前に準備されたことはありますか

今野:準備ができていないと改めて思ったのが2017年、50歳の頃です。最初の準備は、自社の育成や研修方針について自分の考えをまとめました

横山:採用自体が目的ではなく、次世代の経営者を育てることが目的だからですね。

今野:採用後に社員がやりたいことを実現できるよう、ビジネスも大きくしなければならない。パートさんだけで仕事を回せる仕組みは作れていたので、自分自身と会社の名前を売り始めました。ビジネスの拡大と知名度をあげて応募に結びつく準備を行いました。年間で、多い年は90泊180日くらい外に出て、色んな活動を行いました。

横山:そうして採用に至って、いかがでしたか。

今野:ちょうど採用活動の勉強をしていた準備段階で、新卒の女子学生さんから応募の連絡がありました。まだ就業規則も不十分だし、完全週休2日制にもなっていなかったので、彼女のドアノックから急速に環境整備を整えていきましたね。一方では“採用のプロ”になるべく勉強も並行していました。

横山:“採用のプロ”とは、今野さんにとってどのような人でしょう。

今野:一つは「応募者の気持ちをくみ取れること」。もう一つは「自分たちの魅力をちゃんと伝えられること」。そして一番大事なのは「お互いが思い描いているところの重なり合いを見つけられること」。この三つだと思っています。

横山:シンプルですね。そこで採用した方は今も働いているとおっしゃっていましたね。

今野:はい。頑張っています。本人は将来、独立したいと言っています。

横山:「せっかく採用して教育してきたのに、独立志向があると出てしまって会社の力が流出してしまう」という考え方もあると思います。(今野さんは)それでもいいという考え方なんですよね。

今野:基本はOKです。大事なのは自分で選択することだと思っています。「経営者になりたい」というときに、それが宮城フラワーパートナーズでも、他社でも、自分で立ち上げてもいい。もちろん、そこからうちを選んでくれたら最高です。

「採用面」で農業界が一般企業にも勝てるポイント

横山:採用の具体的なテクニックなどの工夫を教えていただけますか。

今野:準備段階では、面接したこともなければ、求人の募集をかけたこともない。やっていないことだらけでした。そこで、他の会社はどのようにしているのかを知ろうと考えました。「農業に関心はないけれど経営には関心がある」という人からの応募もあり得ると想定していましたので。そこでマイナビさんで、一般企業の新卒採用研修を見つけて、飛び込んでみました。

横山:ありがとうございます!競合として一般企業も視野に入れたことが特徴的ですね。

今野:研修に参加して気づいたことが二つあります。一つは参加している人事担当者が暗いこと。「ここは勝てる!」と思いましたね(笑)
もう一つが、グループワークで他社の人事担当から言われたこと。
「経営者の言葉は全然違いますね。今野さんの会社に応募したいと思っちゃいました」
これを聞いて、農業界は一般企業にも勝てると感じました。人事担当ではなく経営者が
自分の考えを熱く、そして明るく未来を語る。採用活動では重要かと思います。

「選ばれる」求人票の考え方と書き方

横山:求人情報を出すときに工夫したことはありますか。

今野:求人のポイントは二つ。一つは条件面、一つはやりがい面です。求職者は求人サイトの条件面を選択して絞り込み検索をするので、まずは、検索で残らなければならない。そこで「休日120日以上」を強く打ち出しました。
絞り込み検索に残ってようやく詳細を読んでもらう段階になるのですが、ここでも他  社と同じ様な内容だと、読み飛ばされる。 そこで私も他社の求人を読みあさって、構成と内容に独自性を出すようにしました。
一番気を付けたのは「〇〇の仕事をしてもらいます」ではなく、「あなたのやりたいこ
とが当社でできます」ということ。求職者に裁量があることを前面に押し出すことで、
やりがいを伝えていました。

横山:本質も表現も両輪になって進めることが上手な採用活動かもしれませんね。

「相手への関心」と「ポジティブな言動」に人が集まる

横山:実際に採用できて良かったことは何でしょうか。

今野:後輩社員が入ると先輩社員が成長すること。これは連続採用するまでわからなかったですが、とても強く感じますね。何かを教える行為こそ、実は一番の学びですよね。

横山:うれしいことですね。2年目以降の新卒採用はどうですか。

今野:1人2時間の面接を3回やるようにしました。面接のなかで条件提示もして内定を伝えたうえで、本人にもう一度考えてもらう時間も作りました。それでもミスマッチが起きたので、今は面接後+給与付きの2週間体験をしてもらったうえでお互いで最終判断をするようにしています。

横山:採用を経れば経るほど、改善していくのですね。
農業界は人手不足・担い手不足が深刻だといわれています。採用に困らないためにはどんなことが必要だと思いますか。

今野:もっと農業界以外のことを知るべきだと思っています。「農業界は人手不足」といわれますが、全産業も同じです。「人が来ない」などネガティブな言葉を発する人に、人は寄ってこないと僕は思ってます。

横山:「次世代の経営者を育てたい」という思いの実現化に向けて進んでいるのですね。

今野:自社がやっていることや、やりたいことの打ち出しは明確にする。一方で「あなたたちのことも私は考えます」という空気を、求人情報や面接などの随所で出していかないと伝わりませんし、そこが伝われば人が集まってくれるのかなと思います。

横山:農業界も従事者が減っていく中、多くの方が活躍できるフィールドを農業法人は作っていかないといけないのだと思います。今日はさまざまな角度からお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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