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憩いの場をイノシシから守れ! 約87ヘクタールの公園を舞台にした鳥獣被害対策の全貌

憩いの場をイノシシから守れ! 約87ヘクタールの公園を舞台にした鳥獣被害対策の全貌

芝生や植木、畑などを荒らす鳥獣被害が各地で問題視されている。特に手を焼くのが、夜間に畑などへ忍び寄るイノシシの対策だろう。多くの生産者や自治体が対策に苦心する中、ドローンなどのデジタルテクノロジーを活用し、こうしたイノシシの侵入を軽減することに成功した県立公園が広島県にある。どのような手立てで対策を行ってきたのか。同公園を管轄する広島県と、指定管理者であるイズミテクノ・RCC文化センター・シンコースポーツ共同企業体(以下、イズミテクノ)の担当者らに話を聞いた。

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イノシシの掘り起こしが悩みのタネ

広島県尾道市にある「こざかなくんスポーツパークびんご(以下、県立びんご運動公園)」は、子供たちの遊び場、地域住民の憩いの場として親しまれてきた。園内には大型遊具が置かれた広場「冒険の森」のほか、野球場やテニスコート、陸上競技場やキャンプ場などを備えており、連日多くの来訪者が行き交っている。

一方で、2019年頃から住民や公園関係者を悩ませてきたことがある。イノシシによる土の掘り返し被害だ。同公園内は尾道市郊外の山中に位置することもあり、閉園後の夜間には度々イノシシが園内に侵入し、芝生や木々を荒らす事案が相次いでいた。

イノシシは登坂可能な傾斜を好む傾向があり、野球場にほど近い坂でも頻繁に掘り返し被害が確認された

イノシシが土を掘り返す理由は諸説あるが、公園を管理運営するイズミテクノの総括責任者である小野進士(おの・しんじ)さんは「エサとなる土中の虫を探すために掘り起こしが発生していたとみています。また、園内に侵入するイノシシの多くは親子で行動をともにしており、親イノシシの掘り返しを子供のイノシシが模倣することで、さらに掘り返しの範囲が広がっているようでした」と話す。

公園内でのイノシシ被害について説明する小野さん

同公園を管轄する広島県は、イノシシの嫌がる臭いを発する忌避テープや超音波を発する装置などを使った対策を2018年頃から行ったが、いずれも効果はいまひとつ。県都市環境整備課の担当者は「電気柵やフェンス等を全面的に設置し、イノシシの侵入を防ぐことができればよいのですが、公園利用者の動線の確保や費用面などから、局所的に忌避テープや超音波を発する装置など設置することで対策を行ってきました。設置した当初はある程度の侵入を抑えられていましたが、時間がたつにつれて別の場所から侵入されてしまうなど、効果的な対策には至らなかったのが現状でした」と振り返る。

イノシシの行動を予測して先回りの対策をしようにも、公園の敷地面積は東京ドーム19個分に相当する約87ヘクタールと広大であり、侵入経路を特定することも難しかったのが実情だった。

「被害対策に苦戦する中、2020年頃には被害がさらにひどくなりました。特に『冒険の森』や、シニアの方々が早朝にグランドゴルフを楽しんでいた多目的広場での掘り返し被害が甚大でした。多目的広場では毎朝のように被害が確認され、ひどいときには芝や土がめくれるなど、すぐに整備できないほど荒らされていたことも。そうした状況を見て、(グラウンドの利用を)あきらめて帰ってしまう方もいました。また、年々被害の領域も広がっていきました」と小野さん。

イノシシにはマダニなどの寄生虫がついている場合も多く、掘り起こし現場にこうした寄生虫が残留している危険もあったという。

そこで広島県は、本格的に園内のイノシシ被害を軽減しようと、獣害対策支援業務の公募として、企業や大学などから被害対策のアイデアを募った。名乗りを上げた企業の一つが、鳥獣害対策事業を手掛ける株式会社DMM Agri Innovation(以下、DMMアグリイノベーション)だ。

テクノロジーを駆使した行動分析と侵入防止策

DMMアグリイノベーションが、株式会社アポロ販売、一般社団法人CEFIC研究所と共同で講じた獣害対策の構図は、まず公園のエリアを三つに分け、年度ごとに一エリアずつ、周辺の現地調査と、調査結果に基づいた防除を行うというものだ。

プロセスとしてはまず、環境省の植生マップを参考に、地形や植栽などの状況をもとにした現地の状況把握にあたった。ここではドローンやセンサーカメラなどのデジタルテクノロジーを活用し、イノシシの頭数や生息域、公園への侵入ルートを特定。調査によって、公園の周辺には至るところにイノシシが生息しており、四方から侵入できる状態であることが確認された。

DMMアグリイノベーションの原田幸顕(はらだ・こうけん)さんはこれらの調査結果を受けて、2019年以降イノシシ被害が増えた背景について、こう見解を語る。「年々イノシシの頭数が増えていることに加え、公園内は動物を捕獲できるような場所ではなかったため、隠れ場所、逃げ場所のような形になっていました。イノシシにとっては楽園のような状態になっていたために、侵入されるケースが相次いだのではないかとみています」

そこで、公園の一区画に電気柵を設置してイノシシの侵入ルートを制限し、ここでシミュレーションされたイノシシの新たな侵入経路予測地点へ忌避効果の高いグレーチング材を設置した。

この他、侵入リスクの高い場所に除草剤を散布し、臭いを発する忌避剤を電気柵付近に設置。これらの対策をサイクルしながら、他の2エリアにおけるイノシシの侵入対策にも応用している。

「臭いを発する忌避剤も、断続的に臭いを発するタイプを採用しており、雨などで効果が薄れる心配もない」と原田さん。このほか2021年度からは、人が往来しないエリアに3カ所ほど罠を設置した。捕獲したイノシシは地域の猟友会に引き渡している。

公園の外に設置された罠

こうした取り組みが実を結び、公園内へのイノシシの侵入は着実に減少していったと県の担当者は振り返る。

「昨年度、対策したエリアの集計をしましたが、これまでイノシシ被害が顕著だった場所では被害がほぼなくなっていたことが確認できました。ほぼ毎朝確認されてきた多目的広場での掘り起こしの被害もほとんどなくなっています。これまでやってきたことを生かし、今後も引き続き対策を実施していくほか、県が管轄する他の公園でも展開できるか検討していきたい」。

「冒険の森」で確認されていた深刻な掘り返し被害(左)が、現在はほとんどなくなっている

官民一体となった鳥獣害対策事業は2023年度で最終年度を迎える。これまでの対策が今後、どのように波及していくかにも注目だ。

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