農繁期の違う3つの地域を渡り歩いて農業で働き続ける! JAの連携策の効果とは?
全国の農場を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。今回やって来たのは、北海道の富良野。ここでは地元JAが他の地域との農繁期の違いを利用した産地間連携で人材を集めています。農業の現場では人材不足が問題となっていますが、その原因の一つに、通年雇用ができず、人を安定的に確保できないことがあります。しかし、農繁期が異なる地域と協力しあえば人材不足を解消できるのだとか。いったいどんな仕組みなのか、実際どんな人が働いているのか、取材してきました!
北海道、愛媛、沖縄の産地間を渡り歩く農業スタイル
「農繁期の産地を渡り歩きながら働いている人たちがいる」。そんなうわさを聞いて、北海道の富良野地方にやってきました。富良野といえば観光地としても有名ですが、農業も盛んな地域です。
ラベンダーやメロンの産地で観光地としても有名
農業はどこも人材不足が課題となっていますが、JAふらのは農繁期が異なるJAにしうわ(愛媛県)、JAおきなわ(沖縄県)との間で援農者をリレーし、技術や意識の高い労働者を安定的に確保する「産地間連携」を行っているとか。
3つの地域が連携することでどのように人を集めているのか。どんな人が働いているのか。この取り組みで人材供給サービスを行っている株式会社アグリプラン(富良野市)に話を聞いてきました。
株式会社アグリプラン 概要
1994年、ふらの農業協同組合が組合員の農作業を支援するために設立。軽作業・大型トラクターでの作業・収穫機での収穫作業などの請負のほか、農業機械のリース、機械や収穫物の運搬作業などを行っている。2019年、JAふらの、JAにしうわ、JAおきなわで農業労働力確保産地間連携協議会を設立。
コバマツ
富良野では産地間連携をして人材確保をする取り組みが行われていると聞いてやってきました! 具体的にどんな仕組みなのでしょうか?
北海道のJAふらの、愛媛のJAにしうわ、沖縄のJAおきなわと農繁期が異なる3つのJAが連携して援農者をリレーすることで、農繁期の労働力を確保できるような仕組みです。富良野は4~10月の野菜メインの作業、愛媛は11~12月のミカンの収穫作業、沖縄は1~3月のサトウキビ製糖工場・収獲作業とちょうど農繁期が異なる地域が連携しています。
アグリプラン担当者
コバマツ
3つのJAできれいに農繁期が違いますね! 北海道は冬、雪で農業の仕事がなくなっちゃうからなぁ。
そういう人に違う地域で働いてもらえるように、各産地の農繁期の人材が集まっている時期に、次の農繁期を迎える地域がPRしに行くんです。
アグリプラン担当者
コバマツ
次の働き先を探している人たちがいる地域に営業に行くんですね! ちょうど、農作業が終わる時期にPRに行ったら働きに来てくれる人多そう!
今はどれくらいの人が各産地で働いているのでしょうか?
援農者として働いているのは富良野で年間120人、愛媛で350人、沖縄県で270人ほどで、各産地を回っている人は10人ですね。富良野市へのリピーターは30人ほどになっていて、人材が定着してきています。
アグリプラン担当者
実際の仕事内容や滞在スタイル
コバマツ
富良野では地元自治体から借り上げた寮に、男女別の棟に分かれて滞在してもらいます。1泊660円で滞在することができて、食事は寮で有料で提供することも可能です。現在120人滞在していますが、部屋数はまだまだ足りませんね。
アグリプラン担当者
地元自治体から借り上げた研修施設を援農者の寮として提供している
寮は個室完備。その他シャワーや洗濯機、食堂なども共有スペースとして用意されている
コバマツ
そんなに多くの人が滞在しているのにまだ部屋数が足りないということは、富良野ではもっと援農者を必要としているんですね! 大きな滞在場所があるということも外から人材を呼び込むには必要なことですよね。ここに滞在して、援農者はどんなふうに過ごすのでしょうか?
4~11月頃までは、メロンやアスパラ、ニンジン、タマネギなどの栽培・収獲などいろいろな農作業をしてもらいます。
富良野の農繁期が終わる11月くらいになると、次は愛媛のミカンの収穫に行く人、さらに沖縄のサトウキビの作業に行く人もいますね。
アグリプラン担当者
富良野ではさまざまな野菜の栽培・収獲に人手が必要とされている
コバマツ
一つの地域で雇用している場合は、冬に仕事がなくて、また一から自分で探さなきゃいけないケースもありますよね。まさしくコバマツも農業を始めた当初は、夏は北海道で農業の仕事があったけど冬はなくなるので、自分で次の春までのつなぎの仕事を探すの、大変だったもんなぁ……。
でもJAふらのみたいに産地間連携していて次の仕事もしっかり安定的に紹介してくれるというのは働き手にとっても心強いし、安心して農作業現場で活躍できますね!
実際に働いている人の声は
コバマツ
年齢も前職もさまざまですね。女性の方が割合としては多いです。平均年齢は38歳ですけど、大学生もいれば定年退職した人もいますよ。長い人だと10年くらい働いている人もいます。
農業の経験はゼロだったけど、「寮で共同生活をする人がとても多くて心強い」とか、「未経験でもそれが当たり前で、先輩がたくさんいていろいろ教えてもらえるので安心だった」という声もあり、同じ仕事をする人たちが同じ空間で生活するのも仕事をする上での支えや楽しみになっているようです。
アグリプラン担当者
農業未経験から富良野で援農をするようになって6年目の女性。自分が生産に携わった野菜を食べるのも楽しみと語る
コバマツ
一人で知らない土地に来て未経験の農業をするのは確かに不安です。やっぱり、同じ立場で働いている仲間や先輩がいることは心強いですね。援農者の中から実際に地域に根付いて就農した人などもいるのでしょうか?
実際に独立・雇用就農をした人も数人います。
当初から農業に興味を持っていて、北海道で住み込みの仕事を探していたところ、富良野での農業ヘルパー募集を見つけていろいろな農家で作業をできたことが勉強になったという人や、いろいろな経験を積んだ仲間と農作業や共同生活をしている中で就農したいという思いが芽生えた、という人もいます。
アグリプラン担当者
富良野市で就農した夫婦。農業は直接雇用が多いが、この制度ではいろいろな生産者の所で仕事ができる点が良かったとのこと
コバマツ
援農のリピーターだけでなく、就農して地域の担い手になる人も生まれているんですね! 農業経験がある人が来てくれたら、即戦力になるし農家や地域にとってもメリットがありますね!
今後の産地間連携の可能性
コバマツ
すでに地域の農業人材の確保につながっている産地間連携の取り組みですが、今後、どのような展開を考えているのでしょうか?
今後は、新たな連携産地を開拓したり、観光業などの異業種と連携したりして新たな人材を取り込んでいくことで、通年安定して人材を確保できる体制を作っていきたいと思っています。
アグリプラン担当者
コバマツ
農業現場では、働き手は「通年の仕事がなくて一定時期になると雇用が切れてしまう」という悩みを抱えていたり、農家は「通年人を雇用することができない」という課題を感じていたりする地域が多いですよね。そんな地域同士が連携することで、まだまだ農業現場で働く人が増えていきそう!
農業現場の人材不足の問題を、他の地域との連携で乗り越えようとしているJAふらの。地域を超えて人材をリレーさせることで安定的に人が確保できるだけではなく、この取り組みをきっかけに地域の担い手も生まれています。こうした取り組みを通じて農業の不安定な雇用条件をクリアできれば、農業に従事する人はもっと増えるのではないかなと感じた取材でした。