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異国の地から来日し、新規就農から10年で地域を代表する農家になるまで。ペルー人農家の農業経営に迫る

異国の地から来日し、新規就農から10年で地域を代表する農家になるまで。ペルー人農家の農業経営に迫る

愛知県豊川市で新規就農して、わずか10年で地域を代表する大規模農家になった方がいます。その土地に縁もゆかりもないペルー人のザンブラノ・ルマイナ・ビクトルさん。今回はビクトルさんに、これまでの半生と農業経営についてインタビューしてきました!

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ザンブラノ・ルマイナ・ビクトルさんプロフィール

ペルー出身の52歳。来日してから数々の仕事を経験、資格も多く取得。農業に興味を持ち、「豊橋のエジソン」こと柴田隆夫(しばた・たかお)さんの元で半年間の研修をして、愛知県豊川市で新規就農。露地ナス、施設栽培のミニトマト、キャベツを栽培している。

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数々の仕事で活躍するも、自営業に興味を持ち農業の道へ

ナス男:現在の栽培作物や規模を教えてください。

ビクトルさん:露地ナスが1.3反、施設栽培のミニトマトが8.5反、露地キャベツが約5町くらいですかね。全てJAひまわりに出荷しています。
労働力は、私と妻、パートさんが5人と外国人研修生が今は5人だけど12人にもうすぐ増えますね。

ナス男:農業を始める前は、何をされていたのですか?

ビクトルさん:23歳で来日してから、本当にいろいろな仕事をやりましたね。工場やとび職、ボディーガードとか、他にもいろいろ。

こう見えて、頭を使って考えることや工夫することが大好きなんですよね!
会社に言われる前から、必要な資格を取ったり現場の問題の解決策を立てたりしてました。だからどの会社でも昇格して、給料も良かったんです。

だけど、現場から管理職に昇格すると途端に飽きてしまった(笑)。
だから、もっと面白くて給料がいい仕事を探して転職して……そんなことを繰り返してました。

ナス男:すごい! バリバリ働いて出世していたのですね! そこからなぜ、農業をやろうと思われたのですか?

ビクトルさん:結婚したり子どもが生まれたりとか、他にも人生の転機がいろいろと重なって、これから先どんな仕事で生きていこうか真剣に考えるようになったんです。悩んだ中で、会社に雇われるのではなく、自分が人を雇えるような自営業をやりたいと思うようになりました。

自営業をするためには、ちゃんと日本語の読み書きを覚えないといけません。仕事を辞めて日本語学校に通ったのですが、ここで教員の方から就農を勧められたことがきっかけで、農業に興味を持ち始めました。

当時暮らしていた愛知県の東三河は全国的にも農業が盛んな地域で、ここでの助言は運命だと感じてすぐに動き出しましたね。
妻の知人に耕作放棄地だった土地を貸してもらい、豊川市で就農。普及員さんの勧めで収益が出やすいといわれた露地ナス栽培から作り始めました。ナスは栽培している所を見たことも食べたこともなかったんですけどね(笑)。

ナス男:新規就農当初は、やっぱり苦労も多かったですか?

ビクトルさん:多かったですね。最初につまづいたのは、農地がなかなか借りられなかったことです。よそ者で、しかも外国人の私が、地主さんの所に行っても簡単には貸してもらえませんでした。というか、鉄くずを勝手に持っていく外国人だと勘違いされていた(笑)。
でも、耕作放棄地を一生懸命耕している私の姿を見て、徐々に農地を貸してもらえるようになりました。

失敗もたくさんしましたね。就農1年目の露地ナスなんか、笑われるくらいひどかった。
それでも、考えて改善していって、その年の売上目標を超えましたよ。それで自信がつきましたね。

ナス男:それと、奥さまもよく農業を始めることに賛同してくれましたね。

ビクトルさん:全くのゼロからのスタートだから、やっぱり最初は嫌がられましたね(笑)。当然ながら、妻は子どもや将来のことも考えて、仕事を辞めて日本語学校に通うことから反対してました。

だけどたくさん話し合いをする中で、自分のやること(農業)を応援すると言ってくれた。
彼女も子育てをしながら農業大学校に勉強しに行ったり、最初は大変な思いをしたと思いますが、よく一緒に乗り越えてくれたと感謝しています。

そんな苦労を乗り越えて、農業の土台ができた今では時間の融通が利くようになり、妻も「もうOLには戻れない」と言ってますね。

中古の農機具やビニールハウスを軸に規模拡大

ナス男:なるほど、そこからどんどんと規模拡大していったわけですね。それにしても、新規就農から10年で急スピードで規模拡大されましたね。なぜここまで短期間で規模拡大できたのですか?

ビクトルさん:中古の農機とビニールハウスを買うことは普通はしないですよね。日本人は新品を買って始めようとするでしょ?

一方で、私は必要なものを中古で買って、自分で直せるところは直して、使えるベンチや機械はそのまま使って、あとは職人に任せることにしています。今いるこのハウスも中古ですよ!

この屋根型の広いハウスを新しく建てようとしたら1億円は余裕で超えるけど、私は2〜3000万円でできましたよ! 就農初期に比較的安い資金で規模拡大できたから、その利益と実績でまた規模拡大して……ということをしましたね。

中古のハウス内のベンチも改良して利用

とにかく、頭を使って考えたり工夫したりすることは得意でしたから、栽培や農機具に関しても普通とはちょっと違うことをしてますね。

この高所作業車もそう。妻が一般的なデモ機を使ったときに「ちょっと怖い!」という言葉でアイディアが浮かびました。

おじいさんおばあさんが使う車、これならすごく安定してるから改良して使えると直感しました。中古がたくさん出回っていますしね。

新規就農する前には「豊橋のエジソン」と呼ばれる柴田さんの所で半年間研修していましたから、こういう農機のアイディアは柴田さんのおかげでもありますね!

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電動の1人乗り乗用車を改造して、高所作業車として利用

ナス男:たしかに……ビクトルさんと中古の農機をフル活用する「豊橋のエジソン」は考え方はすごく似てますね。

外国人研修生の雇用

ナス男:外国人研修生を多く雇用していていることも、大規模の農業をしているうえで重要ですよね。

ビクトルさん:そうですね。現在はインドネシアの研修生を雇っています。
他の農家も外国人を雇用しているけど、私との違いがあるとすれば、日本で頑張りたいという彼らの気持ちも、日本で外国人が苦労することも理解できることですね。

だから私は彼らに真剣に農業を教えるし、向き合います。
それでも、私が日本人ではないことを伝えると、最初に面接する時はびっくりされますけどね(笑)。

新規就農者へのアドバイスと、今後の目標

ナス男:今後の目標を教えてください。

ビクトルさん:施設のミニトマトの栽培面積をもっと増やしたいですね。栽培のことで言えば、自分でミニトマトの苗を作ることに今は力を入れています。売上目標もあるし、法人化したいという思いももちろんあります。

ただそれよりも、昔から問題解決が好きで考えて工夫して壁を乗り越えてきたので、自分の限界を感じるところまで行ってみたいという気持ちが強いですね。

ナス男:ありがとうございます。最後に、これから就農する方や農家の方にアドバイスをお願いします。

ビクトルさん:「教科書通りにはならないから、自分の頭で考えること」でしょうかね。
日本の農業の勉強は、まずは教科書を覚えることから始めて、教科書通りの農業をさせようとしますよね?

でも、農業の現場では教科書で習った通りにはならないでしょ? だから私は、頭を使うことは好きだと言いましたけど、教科書の勉強は嫌いなんですよ(笑)。

私は「走りながら改善点を考える」タイプなんです。それで痛い失敗をする時もあるけど、その方が学べることがたくさんありますよ。もちろん、就農する時や新しい作物を始める前には、本当に利益が出るかどうかはしっかり考えますけどね。

ナス男:すごいですね……。それでもやっぱり、私は「怖い」という感情が先に出ちゃいますね。

ビクトルさん:何が怖い? 私は日本語も分からないところから、縁もゆかりもない土地でここまで農業できてますよ?

これから農業を始める皆さんは日本語が得意なはずだから、あとは現場で「走りながら改善点を考える」力をつけていけば大丈夫ですよ!

取材後記

これほどの異色の経歴で、農業で成功されている方を私は知りません。
ビクトルさんにこう言われると、「私も農業で成功できる!」と思わせてくれますね。
取材させていただき、ありがとうございました!

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