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京都の食と伝統支えるクマザサに危機。猛威振るう食害に立ち上がった、老舗和菓子店らの取り組み

京都の食と伝統支えるクマザサに危機。猛威振るう食害に立ち上がった、老舗和菓子店らの取り組み

日本の伝統的な和菓子である「麩(ふ)まんじゅう」。生麩(なまふ)でまとったこしあんを、香りや艶に富んだ京都市左京区花脊別所町産のクマザサで包んだ銘菓だ。このクマザサが近年、シカの食害などによって絶滅の危機に瀕(ひん)していた。京菓子の伝統と未来を守るため、江戸中期創業の老舗生麩専門店・株式会社麩嘉(ふうか)など地域の事業らが立ち上がった。

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麩まんじゅうに欠かせないクマザサが、シカの餌食に

生麩の生地であんを包み、香りに富んだクマザサでくるんだ和菓子「麩まんじゅう」。麩の専門店で、創業200年の歴史を持つ麩嘉が起源だとされ、それゆえ麩嘉饅頭(ふうかまんじゅう)と呼ばれることもある。

つるんとした口当たりのお麩は、暑い日本の夏にひと時の清涼感を与えてくれる。創業以来、こだわって使っているという京都市花脊別所産のクマザサの清涼な香りも相まって、手土産などでも人気の一品だ。

「花脊別所産のクマザサは、香り高く葉も大きい特徴があります。通常のクマザサと比べて、葉の表面に産毛が生えていないため、食品を包むのにももってこい。全国各地のクマザサの産地へ足を運んだこともありましたが、はやり花脊別所産のクマザサは特別だと思います」。こう解説してくれたのは、麩嘉の7代目である小堀周一郎(こぼり・しゅいちろう)さんだ。

麩まんじゅう以外にも、「熊笹もち」や「ちまき」などの京菓子や京料理にも伝統的に使われ続けてきた花脊別所産のクマザサ。京都の三大祭の一つである祇園(ぎおん)祭で厄よけ粽に利用されるなど、その需要は京都市内だけで年間約1000万枚にものぼるという。クマザサは、京都の食や伝統の屋台骨を支えてきた、重要なピースというわけだ。

祇園祭で使われる厄よけ粽

そんなクマザサが2000年代以降、危機的状況に陥っていたと、小堀さんは言葉を続ける。

「今からおよそ15年前、山間部に群生していたササが一斉に枯れてしまったんです。もともとクマザサは60~70年周期で一斉に開花し、同じく一斉に枯死(こし)する生態を持っており、通常は枯れた後に1年ほどで再び咲き始めます。そのため、この時は使えるクマザサが育つまで待っていたのですが、3年以上たっても、いっこうに芽が出てきませんでした」

原因を探るため、山の環境保全に詳しい京都大学大学院の貫名諒(ぬきな・りょう)助教に意見を仰いだ小堀さん。同大学生のレポートなどを総合すると、山に生息するニホンジカがクマザサの新芽を食べつくしていたことが判明したという。

京都の伝統を守るべく、地域一体で対策に乗り出す

以前から同地域ではシカの生息が確認されてきたというが、食害が顕在化し始めた2000年代中頃から、その個体数は目に見えて増えていたと、小堀さんは振り返る。

ニホンジカは生息エリアにエサとなる食べ物がなくなると、木の皮やクマザサを食べる習性がある。仮に栽培エリア周辺に生息するニホンジカを一掃できたとしても、別のエリアから移動してきた群れが住み着く可能性もあったため、現環境下ではクマザサの再生は望めない状況となっていた。

そこで、貫名助教を中心に、麩嘉をはじめとした和菓子店や料理店などが連携。クマザサの再生を期すべく、地域を上げてのシカの対策が始まった。

まずは、クマザサが植生するエリアにシカの侵入を防ぐ防鹿柵(ぼうろくさく)を設けた。これにより、シカの侵入はなくなり、柵で囲まれたクマザサは、近年ようやく人の胸の高さほどまで育ち、見事に再生を遂げた。食害以降、供給が途絶えていた花脊別所産のクマザサは今年ようやく出荷され、産地復活ののろしを上げた。

また、地域内ではシカの捕獲・駆除にも当たっており、捕獲頭数は年間50~70頭ほどに上る。捕獲した個体は解体小屋などで可食部を枝肉にし、猟友会や地域の人たちに分けていたというが、やはり地域でさばける量には限界があったほか、食べられない個体の埋設処理や内臓や骨などの残渣(ざんさ)物を廃棄処分するにも労力がかかっていた。

そこで、鳥獣被害対策を手掛ける株式会社DMM Agri Innovation(アグリイノベーション)に依頼し、シカの食肉処理や残渣(ざんさ)物の焼却までを一貫して行う施設をこのほど完成させた。今秋から本格的に稼働を開始する予定だという。「通常であれば、こうした施設を建てるためにかかってくるお金は、1億円はくだらないところですが、今回DMMさんに相談したところ、必要な機能のみ実装したことで、初期投資を半額ほどに抑えることができました」(小堀さん)

施設は今年11月に本格稼働する見込み。地域の猟友会らと連携して、シカの駆除・捕獲に当たる方針だ。

ゆくゆくは、市内の飲食店へ販売

地域一体となった取り組みの末、クマザサの再生はもとより、食害に苦しめられてきたニホンジカを地域資源として活用する道筋が出来上がった。小堀さんに、これからの展望を伺った。

「京都にはたくさんのお店やレストランがありますが、鹿肉などを扱うジビエのお店はあまりない。京都の山々で育った動物を、京都の人々が口にすることは、ごく自然なことだと思うんです。ゆくゆくは、京都市内のいろんなお店で、シカなどのジビエを多くの方々に楽しんでもらえる形を作りたい。そうすることで、京の食文化やその歴史に対する興味関心や食への意識が醸成されるのではと考えています」

施設で加工した鹿肉は今後、お麩を卸している取引先などへ営業していく予定。先人たちによって紡がれてきた食の歴史に、新たなページが加わる日は近い。

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