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コロナ契機に消費者とのつながり重視へ 全国10位の鶏卵大手のソフト戦略

山口 亮子

ライター:

コロナ契機に消費者とのつながり重視へ 全国10位の鶏卵大手のソフト戦略

採卵鶏200万羽を飼う鶏卵大手の株式会社愛鶏園では、コロナ禍を機に卵の販路が大きく変わった。自社のブランド名を冠さずOEMの商品として出荷する割合が多いものの、消費者や量販店に自社のことを知ってもらい、価値を理解したうえで卵を買ってもらいたいとブランドの強化に着手している。2020年というコロナ禍のただなかに社長職に就いた齋藤拓(さいとう・たく)さん(冒頭写真)に話を聞いた。

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コロナで量販店との取引増も課題を痛感

「需要と供給のバランスが崩れたときというのは、量販店や消費者といったお客さんに名前を知ってもらって直接つながっていないと、取引を切られてしまうんですね。じかに結びつくことがいかに大事か、肌で感じました」。齋藤さんはコロナ禍をこう振り返る。

愛鶏園は採卵鶏200万羽を飼っており、全国におよそ1800社ある採卵養鶏の業者のうち10番目の規模を誇る。本社を横浜市に置き、埼玉県深谷市で50万羽を、茨城県小美玉市で150万羽を飼う。間もなく創業から100年を迎える老舗企業であり、年商は約90億円にもなる。
そんな同社の販路は、コロナ禍の前後で次のように様変わりした。

コロナ前 量販店でのパック販売 50%
外食 25%
食品メーカー 25%
コロナ前 量販店でのパック販売 75%
外食 12.5%
食品メーカー 12.5%

外食需要が低迷し、家庭内で食べる内食の需要が高まったため、量販店での販売が大幅に増えている。

愛鶏園では2020年に外食需要が激減した際、量販店の新たな取引先を開拓。「幸い卵を余らせることはなかった」(齋藤さん)というが、新規の取引でしかも買い手市場となると、どうしても価格を抑える必要が出てくる。そのため、取引先を変えざるを得なかったことは、利益率を悪化させる結果となった。

同社の場合、「愛鶏園」といった自社のブランドを冠して販売する卵は全体の1割にとどまる。9割はOEMで、全農や商社の商品として販売される。

「OEMは需要が減ると出荷量を減らされやすい。それだけに、自社ブランドの卵や加工品といった付加価値のつく販売を増やしています」(齋藤さん)

埼玉県深谷市の養鶏場に隣接する「愛鶏園直売店」。新鮮な卵やプリンなどの加工品が並ぶ

コロナ、鳥インフルにエッグショック……変わる外部環境

コロナ禍以上に経営への影響が深刻だったのが、飼料の高騰だ。トウモロコシといった飼料の国際相場は近年、上がる傾向にあった。そこに2022年、ロシアによるウクライナ侵攻が起き、一大穀倉地帯が戦場と化したことで、飼料代が跳ね上がった。

「エサが卵の原価の6割を占めるので、飼料代が上がるとコストが大きく上がる。それなのに価格転嫁できない時期が続いていました。2022年には卵の相場が下がり、損失も出始めた」(齋藤さん)

そんな状況を一変させたのが、2022年10月以降に全国で猛威を振るった鳥インフルエンザだ。翌2023年4月までに26道県で1771万羽が殺処分された。これは国内で飼われている雌鶏(めんどり)の1割超に当たる。卵の不足で価格が上昇し、「エッグショック」と騒がれた。

コスト高による原価割れに苦しんできた養鶏業者は、このエッグショックで黒字になったところが少なくない。齋藤さんも「ようやく利益が出る状況になった」と振り返る。

「卵の不足とコロナ禍からの回復があいまって、2022年の10月ごろから外食産業も含めていろいろなところから『卵がほしい』と声がかかるようになりました」

直接顧客とつながる大切さを再認識

齋藤さんは「今回のエッグショックのように、コロナ禍と戦争、物価高騰、鳥インフルエンザが重なるということは、100年に1回起きるかどうかのことだと思います」と話す。そうではあるが、この3年で得た教訓を経営に生かさない手はないと考えている。

「今までは、商社の求めに応じて卵を出荷すればいいと、ある意味のんびりやっていたところがありました」

コロナ禍という激変期に社長職に就いた齋藤さん。行動が制限され、考える時間を十分にとれたことで、社会の変化を見据えた戦略を練ることができたという。

「愛鶏園のブランドを前面に押し出して、量販店や消費者に価値を直接伝えていく。商品と自分たちのコーポレート(企業)ブランドを高める活動をしていく。そのためにマーケティング部を新たに置いて、商品開発部隊も作りました」

愛鶏園の卵と地元・深谷市の野菜を漬け込んだピクルス。「農業で地域を盛り上げることができたら」(齋藤さん)という思いが詰まっている

エサを独自に配合、一貫した生産体制にこだわり

実は同社には、セールスポイントになるこだわりがいくつもある。代表的なのが、エサを独自の配合にしていることと、ヒヨコを生み出すところから自分たちで手掛けていること。「健康なニワトリがおいしい卵をつくる。納得のいく卵を作るには、人任せにはできない」(齋藤さん)と考えるからだ。

齋藤さんは、エサの配合を設計する会社、株式会社ジェイ・アール・シー(茨城県小美玉市)の社長という顔も持つ。愛鶏園の社員が卵の試食を重ねながら、微妙な配合の調整を続けている。
「多くの養鶏場では穀物輸入商社の系列である飼料会社が設計している既製の配合飼料を使います。弊社のように業者自身が何を配合するか指定するというしくみで作られた卵は、数%しかありません」

卵からヒナがかえって成長し、その雌鶏が生み落とした卵を出荷するまでには、次のような工程がある。

種鶏場:種卵(受精卵)を生産する
孵(ふ)化場:種卵をふ化させヒナを出荷する
育雛(いくすう)場:ヒナを40日齢ほど育てる
育成場:雌鶏を卵が産める状態まで育てる
採卵農場:卵を生産する
GPセンター:卵の洗浄や選別、包装を行う

養鶏業者の間では工程の一部のみ自前で手掛け、分業するのが一般的だ。だが、愛鶏園は種鶏場からGPセンターに至るすべてを手掛ける。種鶏場とふ化場を他の業者と共有し、育雛場からGPセンターまでを自前で運営しているのだ。

とくに種鶏場とふ化場は運営に高度な技術と多額の資金を要するため、「そもそも日本には数社しかありません」と齋藤さん。

ほかにも、鶏ふんを質の高い堆肥(たいひ)「愛鶏園のぼかし堆肥」にし、近隣の耕種農家に使ってもらっている。

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飼料用米をエサに取り入れ、鶏ふん堆肥を田んぼに施してもらうという取り組みも一部で始めた。

「飲食チェーンが、そうしてできた卵に興味を示してくれています。循環を生むことは、企業価値を上げることにもなっています」(齋藤さん)

SNSも使って顔の見える関係づくり

「良いヒナ、良いエサ、良い管理」。このすべてに責任をもって携わることが愛鶏園の特徴であり、モットーでもある。

こうした強みや魅力をもっと知ってもらうべく、同社はSNSの活用や加工品のラインナップの充実に取り組んでいる。記事コンテンツを配信できる「note」では、齋藤さん自身が自社の経営や日本の養鶏業などについて、一般の消費者にも分かりやすい解説記事を投稿している。

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