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国産ヨモギのニーズは高い! 脱サラ・移住で新規就農、営農型発電でヨモギを地域の特産物に

国産ヨモギのニーズは高い! 脱サラ・移住で新規就農、営農型発電でヨモギを地域の特産物に

日本で古くから薬用や食用として活用され、身近な野草であるヨモギ。しかし今は「どこにでもある雑草で、栽培するものではない」というイメージを持っている農家が多いに違いない。そんなヨモギにビジネスチャンスを感じ、都会での暮らしを捨てて徳島に移住、ヨモギ農家となった清水雅文(しみず・まさふみ)さん。借りた農地は元田んぼの耕作放棄地、しかも太陽光発電パネルの下だ。農業経験ゼロから手探りでヨモギの栽培を始めた清水さんの悪戦苦闘を取材した。

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新規就農者がヨモギ栽培!

新規就農者にとって「どの品目を栽培するか」はとても重要だ。選ぶ基準は人それぞれだが、就農する地域での成功事例が多くあり、栽培技術が確立された品目であれば、経営の見通しが立てやすい。
一方、徳島県三好市で新規就農した清水雅文さんの品目の選び方は、それとは一線を画す。ポイントは「需要が高く、競合が少ない」こと。その条件を満たす作物として「ヨモギ」を選んだ。

清水さんプロフィール

清水雅文さん

「たいていのスーパーやコンビニではヨモギ団子やヨモギまんじゅうが売られています。最近ではヨモギ蒸し(※)のサービスを提供するエステサロンなども増えていますし、ヨモギを使った化粧品などもありますよね。でも、使われているのはほとんどが輸入されたヨモギ。国産のヨモギは全国的に供給不足なんです」
食用に美容にと用途も多様でニーズが高いにもかかわらず、日本国内での生産量が少ないヨモギに可能性を見いだした清水さん。しかし、ヨモギ農家としての道のりは苦難の連続だったと振り返る。

※ 韓国や中国に伝わる民間療法の一つ。ヨモギを煎じた蒸気で下半身を温めることで、冷え性などの不調を改善する効果があるとされる。

徳島に移住し、太陽光パネルの下で新規就農

清水さんは大阪生まれ。大阪の大学を卒業して商社に就職し、ずっと営業職として働いてきた。しかし、自分で事業をやってみたいという思いがあり、そんな中で農業にも興味を持ったという。就農した三好市は母の出身地で、自身が暮らした経験はなかったが、とある縁でこの土地で農業を始めることになった。
「高校時代の友人が三好市で太陽光発電施設の管理会社を始め、パネルの下で農業をする営農型発電をするから手伝ってほしいと言われて。就農前の3年間は、大阪で会社員をしながらこちらに通っていました」(清水さん)

清水さんパネル下

三好市には日本三大暴れ川の一つ、吉野川が流れ、その流域には田畑が広がっている。しかし今は農家の高齢化に伴い耕作放棄地が増え、その活用のために太陽光発電パネルを設置する土地所有者も増えているという。
「高齢で農業ができなくなった土地の所有者にとっては売電収入が得られる上、土地の管理もしてもらえるというメリットもあります。農地は一度荒らしてしまうと元に戻すのが大変ですからね。管理と同時にここで農業をやれば、地域貢献にもなるとも考えました」(清水さん)
そこで清水さんは、太陽光パネルの下など日陰でも育ち、一定のニーズがあるヨモギを栽培しようと決めた。2021年春に長年勤めた会社を退職、三好市に移住して専業農家になった。

手作業で排水溝を掘って水はけ改善

三好市はもともとヨモギの産地というわけではない。そのため、清水さんの周りにヨモギの栽培方法について知る人はいなかった。しかも清水さんの農業経験はほぼゼロ。「最初はヨモギと雑草の違いもわからなかった」と話すほど、農業に関して何も知らなかったという。農業の基礎を農業大学校の短期講座で学んだが、ヨモギ栽培の技術はほぼ試行錯誤で得た。
栽培の最大の壁は、土地の条件だった。「ここはもともと田んぼで水はけが悪いんですが、ヨモギは水はけの良い土地のほうが合うんです。だから、とにかく畑の周りに明渠(めいきょ:上部を開け放した地上の排水溝)を掘って、水はけを改善しました。畑が接する道が狭いし、太陽光パネルもあるから重機はほとんど使えなかったので、ほぼ手掘りです」と清水さんは振り返る。

明渠

清水さんが手で掘った明渠

現在の営農面積は全部で5ヘクタール。どの土地も同じような悪条件だが、清水さんの努力もあって、農薬や肥料を使わずに栽培しているにもかかわらず、今では生の葉の収穫量は10アールあたり400キロほど。しかし清水さんは、もっと取れると見込んでいる。人手が足りなくて、収穫しきれないところもあるからだ。忙しい時期にスポット(短期)で数人のアルバイトを雇っているが、まだまだ足りないのが現状だ。

農福連携で人手不足解消と地域貢献

清水さんにとって大変だったのは農業だけではない。移住者としてやってきた清水さんが地元に受け入れられるには、ひとかたならぬ努力が必要だった。最初は周囲の農家に「雑草を生やしている」と言われるなど、ヨモギという品目への理解も得られなかった。「消防団に入ったり、地元のイベントに参加したり、資格を取ったり。移住して最初の1年はテレビも買いませんでした。見る暇もなかったので」。そんな清水さんの努力が認められ、地元の人のほうから声をかけてもらえるようになったのは、移住から1年ほどたったころだったという。

名刺裏

清水さんの名刺の裏。移住して勉強を重ね、さまざまな認定や資格を取得してきた

努力して地元とのつながりを作ったことは、人手不足の解消にも役立った。地元の福祉事業所、ワークサポートやまなみを利用している障害者に農作業を手伝ってもらえることになったのだ。太陽光パネルの下での作業なので、夏場でも直射日光を避け、比較的安全に作業できることもあり、週に2~3回、指導員も含めて4人ほどが農作業に訪れる。「最初は挨拶もしなかった人が、何度か来るうちに挨拶してくれるようになったのがうれしい」と清水さんは話す。

障がい者収獲風景

ワークサポートやまなみの利用者たちの作業の様子。夏場でも太陽光発電パネルの下は少し涼しい(画像提供:清水雅文)

また、室内での作業もある。乾燥させたヨモギの葉を不織布のパックに詰めて入浴剤にする作業だ。職業指導員の藤川千賀子(ふじかわ・ちかこ)さんは、「作業場では、出荷する野菜の袋詰めなども行っていますが、こちらは鮮度が大事なために時間に追われる作業。一方、ヨモギの作業では乾燥させた葉を扱うので納期に余裕があり、利用者の手が空いたとき、特に冬場の野菜の端境期に作業ができる。それによって利用者の工賃の安定につながっています」と話す。

農福連携_パック詰め

地元スーパーなどへ農産物を出荷するための集荷場の一角でワークサポートやまなみの利用者が作業を行っている

また、香りにリラックス効果があるのか、ヨモギに触れると利用者が落ち着く感じがしたり、冬場にヨモギの作業をしていると体がポカポカしてきたりするとも。図らずも、ヨモギのつないだ縁が清水さんにも利用者たちにも良い効果をもたらしているようだ。

ヨモギをブランディングし、地元の特産品へ

清水さんは自らが作るヨモギを「阿波みよし名産 祖谷の薬草 エメラルドよもぎ」と名付け、商標登録した。農薬や肥料を使用せず手で収穫していることなども打ち出し、ヨモギのブランディングをしたのだ。「エメラルド」はヨモギの色と、日本三大秘境の一つである祖谷(いや)渓谷の水の色を表現しているという。また、太陽光発電の下で栽培しているというのも、カーボンニュートラルへの貢献につながるとしてアピールしている。

祖谷渓谷

祖谷渓谷

さらにヨモギの持つ栄養素などさまざまな特徴を生かし、自社で製品開発を行っている。ワークサポートやまなみがパッケージ作業をしている入浴剤「よもぎのお風呂」は、地元の道の駅などで販売されているほか、三好市のふるさと納税の返礼品にもなった。

よもぎのお風呂

よもぎのお風呂(画像提供:清水雅文)

「エメラルドよもぎ」を使った新たな食品もある。三好郡東みよし町にある飲食店「うどんと創作料理くらふと」では、ヨモギうどんが食べられる。麺の淡い緑色とほんのり香るヨモギの風味がさわやかなうどんだ。

よもぎうどん

ヨモギうどん

店主の梶原良倫(かじはら・よしのり)さんは、清水さんの大阪時代からの友人。清水さんに誘われて徳島に移住し、東みよし町に貸店舗を見つけて開業した。ヨモギうどんに使うのはもちろん、「エメラルドよもぎ」だ。ペースト状にしたヨモギの葉を生地に練りこむのだが、その割合や生地の熟成の方法など、試行錯誤を繰り返して商品化した。今では地元メディアが取材に来る人気商品メニューだ。

くらふと

梶原良倫さん(写真左)

ヨモギで地域全体を盛り上げたい

清水さんの今後の目標は「仲間を増やすこと」だ。ヨモギを徳島の新たな特産品とするために、徳島県内のヨモギ生産者をもっと増やしたいと考えているのだ。徳島県内には生薬の会社がいくつかありヨモギのニーズが高いが、清水さんが生産する「エメラルドよもぎ」だけでは生産量が足らず、現状では取引が難しいのだ。

さらに、清水さんは若い人や障害のある人の働く場を作りたいという。「今の三好市の人口は約2万3000人で、その半分近くが高齢者です。この地域を守るためにも、若い人が働ける場所を作りたい。それに、こっちに来て障害のある方と関わるようになって、そういう人たちの役にも立ちたいと思うようになりました。もうけることは大事ですが、自分だけが収益を上げるのではなく、ヨモギを地域全体でやっていける産業にしたいんです」
清水さんのヨモギ畑には小学生が社会科見学にやってくるようになった。そうした取り組みの中から地域の農業に興味を持つ若者が出てくることにも期待している。

地元小学生社会見学

地元の小学生の見学の様子。農業や生物多様性について学ぶ(画像提供:清水雅文)

清水さんのヨモギによる地域おこしは、始まったばかり。まだまだ悪戦苦闘は続いている。しかし「農業はしんどいものだと思っていたけど、こんなにしんどいとは」と言いながらも、清水さんの表情はとても明るい。自分が見込んだヨモギという品目に心血を注ぎ、周りを巻き込んで取り組みを広げようと、努力を続けている。そんな清水さんの取り組みこそが、地域にとってエメラルドのような価値を持っていくのかもしれない。

制服

清水さんがほぼ毎日着ている「エメラルドよもぎ」のユニフォーム(画像提供:清水雅文)

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