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俳優と農業経営の両立に挑む 都市型の持続可能な農業のかたち

俳優と農業経営の両立に挑む 都市型の持続可能な農業のかたち

循環型農業は限りある資源を有効活用する一つの方法だろう。この循環型農業を都市部でもできないかと検討を重ね実践に至っている株式会社AGRIKO。代表の小林涼子(こばやし・りょうこ)さんは俳優として活躍する一方で2014年から農業に携わっている。農業が持続可能なものであるために何ができるか。マイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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小林涼子さんプロフィール

株式会社AGRIKO代表取締役
1989年生まれ、東京都出身。俳優としてドラマ、映画などに多数出演。2014年より俳優業のかたわら、農業に携わる。家族の体調不良をきっかけに株式会社AGRIKOを設立。農林水産省「農福連携技術支援者」を取得し、自然環境と人に優しい循環型農福連携ファーム「AGRIKO FARM」を開設。

■横山拓哉プロフィール

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

水稲農家の手伝いから農業へ

横山:小林さんはAGRIKOを設立される前から新潟の棚田を手伝っていたそうですね。どんなお手伝いをされていたのですか。

小林:苗箱を洗ったり、稲が倒れたところに挿し穂をしていったりですね。これから収穫なので、農機に乗って収穫のお手伝いもします。

横山:農機にも乗るのですね。

小林:ようやく自走できるようになりまして。“一筆書き”で稲を倒したりせず、自分が出ていくのって本当に難しいじゃないですか。しかも棚田で。

横山:まさか、俳優の小林さんの口から農機の“一筆書き”という言葉が出てくるとは! そこからAGRIKOを設立した経緯を教えてもらえますか。

小林:お手伝いをしながら、山の雪解け水で育ったお米のおいしさを感じたり、農業の楽しさを感じたりしていたんです。けれど、その矢先に、家族の体調不良がありまして。「農作物を食べられていることは当たり前じゃない。農家さんの汗水の上に成り立ってる」と危機感みたいなものを感じました。
「私たちが高齢になっても、障がいを持っても続けられる、持続可能でバリアフリーな農業はないのかな」と。けれど、一人でできることがそう多くないことは、お手伝いを通じて知っていましたから、みんなの力で解決を目指せる、会社というシステムを取ろうと思い、起業しました。

AGRIKO FARM 白金のアクアポニックス(写真提供:AGRIKO)

地球に合わせたシステムを構築する

横山:農業を通じてSDGsにフルコミットされていますよね。その舞台となっているのが都市の屋上です。屋上農園は、どんな発想から生まれたのでしょうか。

小林:新潟でお手伝いする中で、広い農地や高い技術といった、農家さんのすごさがよくわかりました。私にはできないなと感じつつも「では、できることは何か」と考えたんです。そこで、普段、生活をしている都市部で「ビルの屋上ならできるな」と感じて。海外の友人にもいろいろ聞いていくうちに、アクアポニックスという農法を知ったんです。そこで海外の文献などから学び、幸いにも、家族が建築に詳しかったので、実際に自宅ベランダに初号機を作ってシステムを組んでみたんです。その後、株式会社アクポニさんのアカデミーでも学びました。

横山:「小さな地球のような循環システム」とうたっているものですね。

小林:そうですね。ポンプで水を循環させるだけでなく、上から下へ自然落下で流れていくシステムにしたいと思ったので、独自で基礎設計を行いつつ、明治大学の建築学科の学生さんたちにもお手伝いいただきました。その後、自社で「どう組めば、水が自然に流れ落ちるか」「角度によって水量の違いはあるか」など、いろいろと試行錯誤を繰り返し今の形になっています。
屋上なので、しっかり太陽を当て、雨水も利用するという自然環境に近い状態で育てることも意識しています。また、プラスチックでない自然素材を探していたら、丸い塩ビ管の形と近しいのは竹だった。調べると竹害の問題もあって。竹は伸びるスピードが早いので管理がとても大変なんですよね。特に高齢化が進んでいくと、なかなか管理しきれないところもあります。 そこから実際に、地域の掲示板みたいなものを使って、竹害に悩まれている方を探して、お会いして、お話して、そこの竹を買わせてもらって。

横山:直接連絡したんですね。相手もびっくりされたんじゃないですか。

小林:「何に使うの?」みたいなところから始まったんですけど、今では毎年一回、竹を買わせてもらう形で、竹害対策を支援しています。

“ビル産ビル消”の中にある三つの循環

横山:そのシステムを使った都市型の屋上農園は“ビル産ビル消”を実現していると。地産地消はよくありますが、ビル産ビル消は面白いですね。小林さん自ら作った言葉なのですよね。

小林:そうですね、造語です。ビル産ビル消には三つの循環があります。一つ目は、魚から野菜に対するアクアポニックスでの循環ですね。二つ目は野菜のロスの循環です。どうしてもロスは出ますので、これをたい肥にして、低木のハーブを育てています。三つ目が、ビル内での消費という循環ですね。屋上で育てたものを階下のレストランで提供します。特に一大消費地の東京のビルの屋上で育てることでフード・マイレージ(食料の総輸送量・距離) も削減できますし、パッケージも省けてSDGsにもコミットできると考えています。

横山:アメリカなどは、都会の屋上で作った野菜を、近くで消費しているというのも、よく見かけますが、東京ではなかなかないですよね。

小林:ニューヨークだと、有名レストランの地下で作った野菜をシェフ同士が自転車で運んでいるとも聞きました。地下だと水耕栽培に向いているそうです。それもヒントにしています。屋上なら、太陽光によって少しですがコスト削減できますしね。今はシェフが望むものを、少量多品目で作っています。

農水省に自ら履歴書を送る!本気の農福連携

横山:さらに農福連携まで、取り組まれているそうですね。

小林:やはり棚田のお手伝いをしている中で、高齢者が重い物を運ぶ姿などを見ていて。少しでも楽に続けられる農業の仕組みづくりを考えていた時に、農福連携に出会いました。調べるうちに「農福連携技術支援者 」という農林水産省の資格を知って、すぐに履歴書を書き、エントリーをし、農林水産省の講習に行って、実際に現場で勉強してきたんです。
細かな作業も素早くやっているすごさを感じながらも、工賃が低いという課題も知りました。AGRIKO FARMは、その才能を生かしてもらいながら、雇用環境を整えられるように、企業で働く障がい者の方といっしょに運営しています。障害者にとって働いていて楽しく、かつ、企業のメリットにもなるようにSDGsの17項目にもフルコミットしています。今後はマーケットの開拓にも取り組んでいきたいですね。

横山:小林さんが事業の全体像をここまで描いているとは……!しかも自ら調べて履歴書も書いて農林水産省に送っていたというのには非常に驚きました。

小林:ははは(笑)。農林水産省の方も驚いたと思います。

横山:実際、もう少し多くの方が携って事業を進めているのかなと思っていました。

小林:スタッフは、近隣の子育て世代のお母様方に働いていただいています。女性の活躍の場も作りたくて。私、すごい欲張りで、もしかしたら中途半端に見えることもあると思います。「何で役者が農業をやるんだ?」と見られることもあるだろうと思いましたし。農業はやはりすごく大変。農作業自体も大変ですけど、作付けとか、頭を使うことも多く、とても専門的な知識が必要です。「中途半端にできるわけない」って、やっぱり私も思ったんです。だからこそ、何かできる形を探して、今のアクアポニックスにチャレンジしました。

横山:自身が地に足をつけてできることを、本気で模索する姿が非常に素敵だなと思います。

小林:ちょっとでも先輩方に近づけるように、本物になっていけるように私も頑張りたいなと思う日々です。

横山:AGRIKOとして約1年半。小林さんとしても、農業に携わって9年目。農業界全体を見る機会も増えてきてるのかなと思います。今後の日本の農業についてお聞かせください。

小林:まだ新参者なので、「農業について」語るなんて先輩方に申し訳ない気持ちもあります。やっぱり農家の皆さんの技術は繊細でスペシャルで本当に尊敬すべきことばかりだと、日々勉強する中で感じています。だからこそ、きちんと販売できるマーケットが整って、それが評価される世の中になっていくといいなと。
農家さんが作ってくださっているから、私たちは食べられるんだということを、消費者の皆さんがもっと気づいてくれるといいなと。農業者としても、消費者としても、皆でできることをしながら、少しでも長く、おいしいものを食べ続けられる未来のためにできることを、皆さんにも考えていただけたらいいなと思っています。

AGRIKO FARM 白金の屋上農園にて

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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