植木生産者、新規作物アスパラガスに挑戦。初年度の見込み収量は予想以上!?
国分寺市の田倉 弘道さんの家業は、祖父の代から続く植木・芝生農家。植木や芝生を栽培している約1ヘクタールの農地の一画に、2022年秋、新しく農業用ハウス(約173㎡)を建て、アスパラガスの栽培を始めました。
それから1年後。300株のアスパラガスが生い茂るハウスはまるで森のよう。聞けば、「アスパラガスどころか、野菜の生産は初めて」というから驚きです。このまま順調にいけば、初年度の春芽と夏芽の合計は反収3tとなり、他産地のハウス栽培平均反収約2tを大きく上回る見込みです。
アスパラガスを選んだ経緯について、田倉さんは「植木は市場での動きが鈍く価格も伸びないので、ニーズのある野菜を作ろうと考えていて、妻の出身地で産地ブランド化しているアスパラガスがずっと気になっていました」と言います。
植木・芝生の生産と両立でき、国分寺市ではまだ本格的に栽培されていないこと、高単価であることも栽培の動機になりました。
しかし、地域で先駆的に始めるにはハードルもあります。「何もわからないので一人では絶対に無理だろう」と、思いを温め続けて5、6年。JAから紹介を受けた小平市の新規生産者のハウスを訪れた際に、一からサポートしてくれるパートナー、パイオニアエコサイエンス株式会社の存在を聞き、視界が開けました。
成功のポイントは、二人三脚で進める「土壌分析」と「施肥設計」
「小平の先輩アスパラ生産者がパイオニアエコサイエンスのサポートを受けて順調にいっているので、自分も一から教わろうと思いました」と田倉さん。同社園芸種子部の川崎 智弘さん、JAの担当者らとタッグを組んでアスパラガス栽培を始めて一年。成功のポイントが見えてきました。
まずは、栽培品種の選定です。「食味と形がよく太いアスパラガス」という田倉さんの要望に応じて、川崎さんが「ゼンユウガリバー」を提案しました。形が美しく高収量、全てが雄株なので管理がしやすいのが特徴です。
そして最も肝心なのが土壌分析とそのデータに基づいた施肥設計です。
パイオニアエコサイエンスは、同社の種苗購入者や導入検討者を対象に圃場の土壌分析を行い、5大肥料に加え微量要素まで測定したうえで、塩基バランスを重視した施肥設計を提案します。
「元肥は面積当たり何を何キロと製品名まで具体的に提案してくれたので、言われた通りに入れました」と田倉さん。
「施肥設計では、肥料成分に過不足が無いかを確認しつつ塩基バランスを整えることで三つの肥料(カリウム・カルシウム・マグネシウム)の吸収をコントロールします。生産者さんにお手持ちの肥料があれば、なるべくそれを優先して施肥設計に組み込みます」と川崎さん。生産者に寄り添った提案を心がけています。
そんな中で「土づくりにはこれを」と川崎さんが特に推した資材が「三菌無双」でした。菌の働きで「土の団粒化構造でフカフカになる」というのです。
「まくだけで土がフカフカになるなんて半信半疑ですよね」と田倉さん。そう言いながらも、定植前に1回圃場全体に施用し、硬かった通路に1回追加すると約1カ月後に土がフカフカに。
点滴かん水装置の利用で効率的な肥培管理とかん水の省力化
アスパラガスは長い期間栽培することから、先行して肥料や堆肥(たいひ)を大量投入する傾向にあり、窒素過剰に起因する病害虫のリスクが高まるうえに、栽培初期に手間がかかっていました。しかし同社の勧める栽培方法では、そうとは限らないようです。
川崎さんが田倉さんに三菌無双を勧めた理由は、栽培管理の効率化という観点からでした。
「アスパラガスの根張りは1m以上になるので、それに応じた土壌体積が必要です。しかし、人間が掘るには限界があり、ショベルカーなどを使う大変な作業になります。しかも、初年度に土を耕しても年数がたてば次第に土は固まってしまいますが、アスパラガスは一度定植すると長期にわたって管理するため、定植以降は耕すことが出来ません。そこで、菌の力を使って土中に団粒化構造を作ることで、作業工数を減らしながらより長い期間土壌の良い状態を保てます」と川崎さん。
さらに、アスパラガス栽培で重要なかん水も、装置を自力で組み立て効率化したといいます。
「ハウス栽培でかん水や追肥を行うには点滴かん水チューブが適していますが、これを手動でやるのは大変です。水の出しっぱなしも防ぎたいので、タイマーを提案しました」と川崎さん。
二人でかん水装置を組み立て、タイマーと土壌水分計「pFメーター」を使って設定し、季節・収穫量に応じたきめ細かな管理を実現しました。
ところで三菌無双って? 納豆菌、乳酸菌、酵母菌の相乗効果とは
田倉さんの圃場を効率よくフカフカにした三菌無双は、三つの菌の相乗効果で土づくりを助けます。
- 納豆菌:カビの抑制と土壌中の有機物の分解
- 乳酸菌:有機酸を作ってミネラルを吸収しやすくする
- 酵母菌:アルコールを産出して他の菌の発生を抑え、炭酸ガスを発生させて土壌の団粒化を促す
「匂いも少なく、安全で使いやすい資材です」と田倉さん。またこの資材は葉面散布としても使えるので、定植後は500倍に希釈して3回ほど散布し、夏場には菌の力で害虫やカビによる病気も抑制できたといいます。土壌へは点滴かん水チューブで施用でき、かん水装置を組み立てた苦労も報われたようです。
気になる翌年の収穫秀品率について、「アスパラガスの特性として前年に育った親茎より一回り太い芽が出ます」と川崎さん。直径12㎜の太さに育っている田倉さんの木からは、来春、15㎜~20㎜の太い春芽がとれることが予想されています。しっかりと肥料コントロールをしたので秀品率も高いのではと考えられます。
種苗会社がつなぐ先輩生産者の知識。こくベジに新たな歴史を
立派に育ったアスパラガスは、これ以降かん水をしながら肥料を切って養分転流を促します。黄化後に地上部を刈り取り、冬の寒さにしっかりと当てて来春、もみ殻や堆肥で有機物マルチをして春芽の萌芽を待ちます。
「私たちは全国の生産者さんたちの勘と経験を実際に訪ねて収集し、それらをかみ砕いて技術支援しているので、先輩生産者のみなさんの知恵が詰まっているんです」と川崎さん。アスパラガス栽培の成功は、まさにパイオニアエコサイエンスを媒体とした生産者の知の共有です。
これまで月1回、田倉さんのハウスを訪れて土の状態や残存肥料を測定してフィードバックしてきたように、今後も継続的にサポートすると約束してくれました。
「川崎さんとここまでやってくる中で、土壌分析と施肥設計の大切さを実感しました。秀品がとれたら将来的にはハウスをもっと増やしたいですね」と抱負を話す田倉さん。江戸時代の新田開発にさかのぼる「国分寺三百年野菜 こくベジ」にアスパラガスで新たな歴史を刻むことでしょう。
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