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NTTグループが農業と水産業に、そして食に本気になった!? ICTで世界を変える驚きの取り組み

NTTグループが農業と水産業に、そして食に本気になった!? ICTで世界を変える驚きの取り組み

NTTグループは、ICT(情報通信技術)を活用した様々なソリューションを幅広く提供しています。一方で、いま重点的に注力しているのが「農業や食の分野」という事実はあまり知られていないかもしれません。さらに、最新の取り組みでは「養殖」の会社を設立し、水産業にも進出しています。いったいどんなチャレンジで、どんな世界をめざしているのでしょうか。その一部をご紹介します。

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ICTで農業に付加価値を創出し、ボトムアップで「もうかる農業」の実現をめざす

NTTグループでは得意とするICT(情報通信技術)を活用した様々なソリューションを開発・提供しています。その中でも「スマートアグリ」、農業のスマート化は近年力を入れている分野のひとつです。

「スマートアグリでは、農業生産に加え、流通・販売や消費・食、環境までの領域を『食農領域』と捉えて取り組んでいます。生産では自動化・省力化に高度施設園芸やバイオ・遺伝子関連、流通販売では流通のDX化、消費・食では文化の継承、食と健康のウェルビーイングなどにICTを活用しています。現在では40社弱と多くのNTTグループ関連会社が連携する、大きな分野に成長しました」と話すのは、NTT研究開発マーケティング本部アライアンス部門にて、食農分野でのNTTグループ内外の連携促進を担当する伊勢谷岳志(いせやたけし)さん。

食農領域における主な取り組み。パートナー連携により推進しているものも多い

食農分野への取り組みはNTTグループにとって初めてのチャレンジ。そのため産学官民のあらゆる農業関連のパートナーと力を合わせて取り組みを広げてきたそうです。
「8年が経過し、一定の成果は残せたと思っています。しかし、導入にかかる費用面などから現場の生産者がスマートアグリに投資して継続利用しようというケースは少なく、『もうかる農業』の実現が不可欠と感じました」と話すNTTの伊勢谷さん。

そこで新たに注力し始めたのが「食」の分野です。
「これまでは食農ビジネスの商流の上流、生産や流通・販売に注目していました。今後は、下流にあたる消費や食にも力を入れていきます。消費者により選ばれる食品が作れれば、結果的に生産者の利益は増えるからです。その一例が、2023年10月の『第10回 国際 スマート農業EXPO』に出展した、血糖値と食物の関連性が計測できるセンサーです。このセンサーを使うと、自分がどの食物で血糖値が上昇しやすいかがわかります。個人の健康的な食生活の実現につながることはもちろん、こうしたパーソナルデータを収集・活用していくことで、将来的には生産者が売れる野菜に特化して栽培することもできると考えています」。

センサーの活用により、より健康的な食生活を実現できる

このほかにも様々な「食」の取り組みが行われていますが、中でも「料理」に関しては、全国の料理人を中心に構成された『全日本・食学会』へ協賛し、パートナーを組みながら、これまでにない画期的な視点での挑戦が始まっています。

「飲食店で味わう料理には料理人の経験や技が活かされています。そこにNTTのICT技術を活用することができれば、食事はもちろん、調理技術やそこに使われる食材に新たな価値を付加できるのでは、と考えました」。

食のデジタル化の一つの試みとして、2023年10月12日には料理の試食会ならぬ、「試触会」が行われました。一体どのような会なのか、その様子を取材しました。

手のひらで感じると、食べたくなる? “世界初”の試み「試触会」

試触会の舞台となったのは、東京・台場にある和食レストラン「鮨 玉かがり 天ぷら 玉衣」。穴子を中心に初秋の旬を集めたコース「秋の初風 ―触と食―」は、その名の通り、職人の「技」や食材の「活」を“振動”でも味わえます。「料理を五感で味わう」という言葉があるものの、その中心は味(味覚)。見た目(視覚)や匂い(嗅覚)、音(聴覚)が加えられることはありましたが、触覚は、舌触りや噛み応えなどで感じられる程度でした。そんな触覚に着目し、料理のコースのなかの一つのハイライトとしたのが、この「試触会」です。

当日の料理

先付け タコの柔らか煮
お造り ヒラメの薄造り
穴子の試触
 天ぷら 穴子の試触(活き・捌き・揚げ)
 寿司 穴子の炭焼き寿司(捌き・炭焼き)
味噌汁 わかめとなめこの味噌汁
デザート 

「試触」のメインは穴子の天ぷらと寿司です。料理長である高野竜一(たかのりゅういち)さんらの調理の様子を事前に撮影・記録しました。穴子に包丁を入れる音や天ぷらを揚げる音、炭を穴子に当てたときの音を、映像と合わせて振動データとして記録します。それらの映像をタブレットで再生し、同時に振動をタブレットに装着された振動装置で再生することで、映像にあわせて調理のプロセスで生じる繊細な触感を感じることができます。今回の「試触」では、タブレットは木枠に入れられ、参加者二人でそれを持って体験しました。

(上)「試触」の仕組み(下)撮影の様子

この「試触会」の体験を考案・デザインしたのは、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の渡邊淳司(わたなべじゅんじ)上席特別研究員と、NTT社会情報研究所の駒﨑掲(こまざきかかぐ)研究主任。これまでも様々な映像・音、そして触感が人の感覚や感情にどのような作用をもたらすかについて研究してきた二人です。試触会の参加者は、食学会副理事長の髙岡哲郎(たかおかてつろう)さんをはじめ、食や触のプロフェッショナルたち。誰もが初めての体験に興味津々の中、試触会はスタートしました。

「食と触のマリアージュ」「食体験の記憶の共有」これが食を進化させるキーワード

最初の「試触」である穴子の天ぷらでは、穴子を捌く映像からスタート。穴子がボウルの中で動く音、振動がタブレットを通じて伝わり「活きのよさ」を手のひらで実感できました。調理の過程で油に入れた直後と揚がる直前で異なる「揚げ」の音と振動に「こんなに変わるんだ」という驚きの声も。厨房の様子と熟練の職人の技を、目で見て耳で聴き、なにより「触れて」感じる初めての体験に、全員が感嘆の声をあげていました。


穴子の天ぷらの「試触」の様子

映像の中で天ぷらが揚げ終わると、その余韻が冷めやらぬうちに実際の天ぷらが運び込まれました。試触において手で感じた感覚が、そのまま口の中に広がっていくようで、参加者たちの間では「あれがこうなるのか!」と、触の会話に花が咲きました。

「試触」を経ることで、揚げたての天ぷらも一味違う味わいに

穴子の寿司の「試触」は、捌いた穴子に炭を当てる映像が特徴的。穴子の皮が焼けるパチパチ、ジュウジュウといった音と振動が伝わってきます。一方で、実際の穴子の寿司は、口の中でほろっとほどけるやわらかさ。その触感と食感の違いや組み合わせについて、議論が尽きない様子でした。

「一品ごとに異なる触感を楽しめるようコースを組み立てました。映像と振動から想像できるのとは違った食感の料理もあったと思います。驚きの声が上がる、喜んでいただけるというのは料理人にとって嬉しいこと。この技術でおもてなしの選択肢が増えたな、とワクワクしています」と、料理長の高野さんは話してくれました。

「鮨 玉かがり 天ぷら 玉衣」料理長の高野竜一さん

「コース全体として触感を想起させる構成がとてもよかったですね。特に、揚げているときの振動は、本物を口に入れたときのクリスピーな感じとぴったりでした。また、装置を隣の人と一緒に持つことで、体験が共有できたのもよかったです。『試触』が、口の中にいれたときの実体験を予見させたり、感覚を増幅させるものとして設計できてくると、新しい食のプレゼンテーションのかたちとして使えそうだと感じます」と、食学会の髙岡さんも手応えを感じた様子でした。

食学会副理事長の髙岡哲郎さん

参加者の感想

  • 「経験したことのない貴重な体験で、おいしさもひとしおに感じました」
  • 「料理人さんの技や所作など、出てきた料理だけでは気がつけないところまで感じられてよかった」
  • 「生々しさが、命をいただいていることまで感じさせる貴重な体験だった」
  • 「油に触れるなど、本来できないことまで触感として伝わってきたのはとても新鮮だった」

試触会の触覚デバイスをデザインしたNTT社会情報研究所の駒﨑さんは、
「『試触』が終わるタイミングに合わせて、実際の料理がスムーズに提供されることで、体験価値が高まったのではないかと思います。触覚体験のみで終わるのではなく、その後に食事が運ばれる体験のデザインを料理人の高野さんと一緒につくることで、触から食へのスムーズなアプローチへつながりました。手で感じた触感と、口の中で感じる食感の間に、想像した通りの触覚を提供するのか、もしくはギャップを作るのか、触と食の体験デザインには可能性を感じます」と話していました。

NTT社会情報研究所の駒﨑掲さん

自身も食学会の会員であるNTTコミュニケーション科学基礎研究所の渡邊さんは、
「調理の映像を見ながら振動を感じることで、料理に対する理解を深め、食への期待や衝動を生み出すことができると感じました。また、触覚の体験を共有する共同体験は、人が集う食の場の記憶につながりますし、食の満足度やウェルビーイングにもつながるでしょう。触体験が食体験など、他の感覚とうまく組み合わされることで、ソリューションやサービスにまで高められるのではと考えています」と振り返ります。

NTTコミュニケーション科学基礎研究所の渡邊淳司さん

“世界初”の「試触会」は大きな成果と手応えを残して終わりました。この取り組みが身近なものになれば、食のサービスに「触感」を楽しむという新たな価値が付加されることになるでしょう。

環境問題・食料不足・水産業の衰退 3つの課題の解決をめざす新しい会社が誕生

食農領域のもう一つの新しい挑戦が「魚の陸上養殖」です。日本電信電話株式会社(以下、NTT)とリージョナルフィッシュ株式会社(以下、リージョナルフィッシュ)の合弁会社としてNTTグリーン&フードが2023年に設立されました。

「めざすのは、環境問題・食料不足・水産業の衰退という課題の解決です」と意気込むのは、NTTグリーン&フード株式会社の代表取締役社長である久住嘉和(くすみよしかず)さん。
「陸上養殖は赤潮の発生など環境の影響を受けづらく、また、マイクロプラスティックの混入などのリスクも少ないことから、海面養殖より安定した生産が期待できます」と話します。

それだけなく、パートナーであるリージョナルフィッシュの持つ技術が武器になっているといいます。リージョナルフィッシュは、魚介類への品種改良技術(※)や、養殖ノウハウを持つ会社です。

※品種改良技術は、ゲノム編集技術をはじめとした育種技術。ゲノム編集技術とは生物が持つ特定の塩基配列を意図的に切断し、切断されたDNAが修復される過程で生じる塩基配列の変化によって、本来担う機能を改変させる技術です。外来からの遺伝子導入によって機能改変を行う遺伝子組換え技術と異なり、自身が持つ塩基配列のみを変化させるため、従来の品種改良と同様とみなされています。

「魚介類に品種改良技術を適用することで、成長速度を高めたり、可食部となる筋肉量を大きく増やすことができます。可食部が大きくなると加熱時に身質がふっくら柔らかくなるのですが、これを打ち出すことで消費者にもメリットを感じていただけると考えています」とNTTグリーン&フードの久住さん。

品種改良技術を適用することでさまざまなメリットが生まれる

「また、魚介類だけではなく、藻類の生産も考えています。NTTは藻類への品種改良技術を有しており、光合成を活性化させて藻類の成長速度を高めるとともに、通常よりも多くのCO2を体内に固定させることができます。生産した藻類は魚介類の餌として活用するほか、農業肥料等での活用も検討しています。NTTとリージョナルフィッシュの技術力やノウハウを合わせることで、環境問題の解決と食料の安定供給の実現をめざします」。

養殖場ではNTTグループが持つICT技術を活用し、温度・水質管理、給餌量管理等を自動で行う構想が掲げられており、実際、すでに静岡県磐田市と提携し、NTTグリーン&フードの養殖場を開設することが発表されています。
「自治体や地元企業などと協力して特産品となるような魚介類の生産をめざしています。加えて、養殖設備での雇用の創出につなげるなど、地域の活性化にも貢献していきます」とNTTグリーン&フードの久住さん。

陸上養殖を通じて地域活性をめざす

今後は日本の各地に養殖場を開設。2030年以降にはフランチャイズ含め、海外展開も視野に入れていると言います。NTTグループが水産業を、そして日本だけでなく世界の食を変える。そんな日も遠くないのかも知れません。

<取材協力>
一般社団法人 全日本・食学会
鮨 玉かがり天ぷら 玉衣

<食のデジタル化に関する関連情報>
・日本電信電話株式会社、全日本・食学会、立命館大学(2020年5月12日)「デジタルアーカイブによる食文化継承、おいしさ解明の共同研究を開始 ~アフターコロナ時代の食文化発展のために~」(ニュースリリース)

・井上、上田、駒崎、鎌谷、和田、渡邊(2023)「遠隔触覚伝送による親子間での家庭料理伝承の検討」、日本バーチャルリアリティ学会論文誌 28(1) 27-30.

<記事に関するお問合せ>
日本電信電話株式会社 
研究開発マーケティング本部アライアンス部門
HP:https://group.ntt/jp/magazine/blog/agriculture/
MAIL:ntt-agri@ntt.com

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