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栽培、加工、輸出に直売所運営……多角経営のメリットと裏側

栽培、加工、輸出に直売所運営……多角経営のメリットと裏側

農業経営をするうえで、収益向上のために栽培以外の事業にも目を向ける農業者が増えている。その中でも加工工場や直売所の運営、輸出商社の設立など、多角経営を展開しているのが株式会社アグリ・コーポレーションの佐藤義貴(さとう・よしたか)さんだ。多角経営の大変さやメリットは何か。マイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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■佐藤義貴さんプロフィール

株式会社アグリ・コーポレーション代表取締役
会計事務所勤務の後、2013年に長崎県五島列島に移住就農。耕作放棄地を借り受けるころからスタートし、10年間で生産面積約30倍売り上げ約32倍まで伸ばし、小売会社、海外への卸・輸出商社も立ち上げるなど急成長を遂げている。

■横山拓哉プロフィール

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

みんなが作りたがらない品種を選ぶ

横山:佐藤さんは長崎県の五島市に移住されて、新規就農からスタートされたんですよね。

佐藤:はい。“完全移住・完全新規就農”ってやつですね。20代の頃は会計事務所に勤めていました。最初は農業コンサルタントをしたいと思っていたんですが「農業をやったことないのにコンサルはできひんな」と思って農地を探して、縁あって五島の競売物件で4000坪(1.3ha)の田んぼを買ったのがスタートですね。29歳の時です。

就農当時の佐藤さん

横山:最初は多品目栽培をされていたのですよね。

佐藤:最初はサツマイモがサブで、ジャガイモとカボチャがメインでした。ただ、なかなか苦しい数年間を過ごしまして。

横山:何年目ぐらいからサツマイモを中心にしていったのですか?

佐藤:4年ぐらい経った時に「おしゃぶー」というベビーフードを作ったのがきっかけでした。「サツマイモでいけるかも」と、ちょっと希望が見えて。どうせサツマイモをやるなら、みんなが作りたがらない有機栽培で、収量の少ない安納芋で勝負しようと決めたのが2015年ぐらいでした。

横山:「難しい品種」と「難しい栽培」を掛け合わせたのは非常にチャレンジングですね。

佐藤:「紅はるか」はどこで作ってもおいしく作れるのですが、安納芋は海辺や離島で作らないと味が乗りにくいかなと思って。勝負をするならみんなが作りたがらない安納芋だと思いました。

横山:誰も手を出さないところだからこそ、競争が少ないということですね。

佐藤:はい。「ブルーオーシャン(競争相手の少ない市場)」かなと思いました。今に至るまでにたくさんの課題があったのですが、ここ数年で「有機栽培の安納芋がほしい」というお客様との取引が増えてきました。課題が多いからこそ、その課題を解決していくと競争相手が少なくなると思います。

5年間の赤字を乗り越えたきっかけ

横山:佐藤さんは、はじめから農業生産法人にされていますよね。

佐藤:会計事務所に勤めていたので、法人にすることの税務的なメリットを知っていたんですよ。なので、株式会社にするのは私としては当たり前のことでした。自分で法人登記も社会保険の手続きもできましたしね。後付けですが、採用がしやすかったというのもありました。個人事業から法人化すると手続きが煩雑だということもわかっていましたし、最初から法人にしましたね。

横山:就農しても生計が立たず、苦労されている農家さんも数多く見てきていますが、佐藤さんはいかがでしたか。

佐藤:就農3年目で直売所を始めたんですが、5年間はほぼ赤字みたいな状態でした。素人考えで「新鮮な野菜を売ったらお客さん来るやろ」と思ったんですが……そんなことはなかった(苦笑)。相乗効果どころか、農業も直売所も業績が下がる一方でした。

横山:あえて3年目で直売場もやられたのは大変だと思うんですけども。

佐藤:今振り返ったら、キャッシュポイントが2つあったのが良かったと思っています。けど、そんなこと考えていたわけじゃなくて、単純に「自分で売るとこもあった方がいいよね」という、本当に安易な考えでスタートしました。

作ってすぐに売れたものは1つもない

横山:加工品「おしゃぶー」を作ったことが安納芋に品目を絞ったきっかけとのことですが、加工品を売るために気をつけたことはありますか?

佐藤:「おしゃぶー」は、食べられる歯がためで類似商品があまりなかった分、売るのに苦労しました。展示会に何回も出て。たまたま「赤ちゃん本舗」の商品部長さんに巡り合って、パッケージのアドバイスを受けたりしたことから売れるようになりました。当社は他にも加工食品は作っていますが、作ってすぐに売れた商品は何1つありません。

横山:土台のゼロイチが1番大変だったんですね。

佐藤:ゼロイチ、ニ、サン、ヨン……くらいまで大変ですね(笑)。

食べられる歯がため「おしゃぶー」

営業機能を分社化するメリット

横山:2019年にはSAMURAI SUMMITという商社も設立されていますね。

佐藤:この年に工場も作り、さらに売上や取引先が増えてくることも見えてきたところで、営業機能を分社化したほうが良いと思い、設立しました。

横山:社内にそのまま営業に特化したチームを作ることもできたと思いますが、あえての分社化のメリットはどのようなところでしょうか。

佐藤:五島という離島だと、本土に営業に行く際に営業コストがかかるんです。ならば、本土で会社を作って人材を雇ったほうが営業コストは下がり、しかも取引先に近い。

自社完結スタイルのワケ

横山:生産も直売所も加工も自社完結のスタイルだと思いますが、利益率の観点でしょうか。

佐藤:確実にそこです。外注すれば済むかもしれませんが、離島からだと輸送コストもかかります。設備投資などはあっても、中長期的に見れば内製化したほうが利益率は良いと思っています。

横山:新規就農をして、多品目から安納芋1本に切り替え、直売所や加工工場、営業会社も作って。今までを振り返ってみた上で、佐藤さんが今後描く青写真を聞いてもいいでしょうか。

佐藤:今、規模で言えば50ヘクタールくらいですが、オーガニックの世界でメガファーマーになりたいと思っています。それだけの生産規模はしっかり作っていきたい。一方で、農業だけでなく、商品開発や加工、販売にも、今以上に力を入れていきたい。輸出も今やり始めたばかりで、これから伸びる分野だと思っています。

(編集協力:三坂輝)

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