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【TOP対談】世界が注目するリジェネラティブ農業。日本はどう変わっていくか

【TOP対談】世界が注目するリジェネラティブ農業。日本はどう変わっていくか

近年、SDGsへの取り組みや環境意識の高まりを受け、農業や園芸などのあらゆる場面で環境負荷が低い製品が求められるようになってきている。こうした中、長年、化学農薬を中心とした製品を研究・開発してきた住友化学は、2023年1月より「Natural Products」のシンボルマークの下に天然物由来製品のブランディング活動を行っている。なぜ今、天然物由来製品に力を入れているのか。住友化学の水戸信彰(みと・のぶあき)さんとマイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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■水戸信彰さんプロフィール

" 住友化学株式会社 代表取締役 専務執行役員 健康・農業関連事業部門 統括
1985年に住友化学工業(現・住友化学)に入社。農薬や防疫薬の研究開発に携わった後、健康・農業関連事業業務室部長、知的財産部長等を経験し、2020年より現職。ベーラントU.S.A.LLC会長、ベーラントバイオサイエンスLLC会長を務めている。

■横山拓哉プロフィール

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、農業振興に寄与すべく奔走している。

住友化学が天然物由来製品の認知拡大を図る理由

横山:貴社の事業領域について教えてください。

水戸:私が担当している健康・農業関連事業部門はいろいろなビジネスをしております。一番大きな割合を占めているのが殺虫剤や除草剤などの農業関連製品の開発・製造・販売事業ですね。それから家庭用の防虫剤や飼料添加物、医薬品原薬も取り扱っています。農業関連製品は大きく二つに分かれており、一つは化学農薬、もう一つはバイオラショナル(※)製品です。

※バイオラショナル……住友化学の造語。天然物由来成分を活用した低環境負荷の微生物農薬・植物成長調整剤・微生物農業資材や、それらを用いた作物保護、作物の品質・収量向上のためのソリューションを「バイオラショナル製品」と定義している。

横山:化学の歴史が長い御社がバイオラショナル事業に注力する背景はどのようなものがあるのでしょうか。

水戸:この二つは両方とも化学物質で、それほど大きな違いはありません。その化学物質が天然に存在するか、人工かの違いです。化学農薬の開発・製造で培ってきた知識・経験を生かし、今後国内でもさらに必要性が増してくるバイオラショナル製品に力を入れていこうと考えています。

住友化学が推進する天然物由来製品に用いられるシンボルマーク「Natural Products」(画像提供:住友化学)

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目指すのはリジェネラティブ農業

横山:バイオラショナル事業で目指している農業について教えてください。

水戸:
いまの農業のあり方を見直そうとする動きが世界的に出てきていますが、特に注目されているのが『リジェネラティブ・アグリカルチャー(再生可能型農業、以下リジェネラティブ農業)』です。

横山:リジェネラティブ農業の実現において、一見すると化学農薬とバイオラショナルは相反すると感じるところもありますが。

水戸:重要なポイントなのですが、リジェネラティブ農業とは、農薬を一切使わない栽培方法や有機農業などを指すものではありません。化学農薬だけではなく環境や生物に配慮した農薬などを適切な量で使用していくことが重要になります。これまで長年培ってきた化学農薬とバイオラショナル製品の提供を通して、リジェネラティブ農業の実践に貢献することが我々の目標です。

リジェネラティブ農業について語る水戸信彰さん

横山:バイオラショナル製品と化学農薬の両方を組み合わせることで、リジェネラティブ農業を実現していこうということですね。

水戸:バイオラショナル製品は化学農薬に比べると市場自体はまだそれほど大きくありません。しかし、リジェネラティブ農業に見たように、環境にやさしく、安心して使っていただける農業資材の必要性は今後ますます高まっていくと考えられます。「天然物といえば住友化学」と皆さんに言っていただけるよう、より一層力を入れていこうと思っています。

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住友化学が展開する天然物由来製品

横山:御社が展開するバイオラショナル製品について教えてください。

水戸:天然物をベースにした製品は多岐にわたりますが、大きく三つのカテゴリーに分けられます。一つ目は「Biorational crop protection(作物保護剤)」。例えばBT殺虫剤がここに該当しますが、微生物などの天然に存在するものを使って植物を害虫から守ります。二つ目は「Biorational crop enhancement(植物成長調整剤)」。ジベレリンという果樹の生育を促進するような製品があります。三つ目の「Biorational rhizosphere(根圏資材)」は、天然に存在するカビの一種、菌根菌(※)を使ったものです。
この菌は植物と共生関係を持っています。これによって植物の成長が促進されたり、その土壌が作物の成長に非常に良い状態になるなどの効果があります。
※住友化学の米国子会社が米国内で実用化。

横山:一言でバイオラショナルといっても、本当に多岐にわたりますね。具体的な商品だとどのようなものがあるのでしょうか。

水戸:2023年4月、国内で販売を開始した「アブサップ®液剤」(※)という製品があります。この製品に含まれる有効成分は、アブシシン酸という植物ホルモンです。これは植物が自ら作り出しているホルモンで、我々が日頃食べている果物や野菜にも含まれているものです。アブシシン酸にはいろいろな用途がありますが、例えば「アブサップ®液剤」をブドウに散布すると色づきが良くなります。

※アブサップ®液剤の適用作物は、ぶどう(巨峰)、ぶどう(ピオーネ)となっている。(2023年10月現在)

天然物由来の植物成長調整剤『アブサップ®液剤』を2023年4月に発売

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みどりの食料システム戦略は広がっていくか

横山:リジェネラティブ農業に向け、日本では「みどりの食料システム戦略」が掲げられています。水戸さんはこうした動きをどう見ていますか?

水戸:むしろ欧米の方がより野心的な目標を立てています。特に進んでいるのは欧州。EUは新しい食品産業政策「Farm to Fork戦略(Farm to Fork Strategy)」を掲げていますが、例えば化学農薬の使用量を2030年までに半減するなどの目標を定めています。こうした中で、日本もリジェネラティブ農業に向けた指針が出たということは、非常に良いことだと思います。

横山:バイオラショナル製品と化学農薬、この二つをうまく組み合わせていくことでリジェネラティブ農業が大きく推進していく未来が見えそうですね。

水戸:そうですね。消費者の方の意識もどんどんリジェネラティブ農業に向かっていくと思います。むしろそういう方向に変わらないと、農業だけでなく、世の中全体を持続できない状況に来ていると思うんですね。我々はそういった期待に応えるためにも、技術・製品を提供していかなければいけないと考えています。

横山:リジェネラティブ農業への取り組みは、海外ではどう行われているのでしょうか。

水戸:私が知っている中では、サプライチェーンの中で広がっている印象があります。海外の食品会社は、自社が定義するリジェネラティブ農業の基準で栽培された作物だけを原料として購入し、加工して消費者に提供するという流れが進んでいます。特に大手の食品会社がその方向に向かっているので、世の中全体も変わっていくのではないかと思います。

横山:オーガニック商品ってなんとなく世の中に貢献しているイメージがありましたが、これからは持続可能な商品かどうかが重要になりそうですね。消費者としての責務も感じています。

水戸:そう思います。リジェネラティブ農業の実現に向けて何が必要かを、みんなで議論することが肝要だと感じています。

生産者、メーカー、消費者、すべてが議論に携わっていくことの重要さを再認識した

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日本の農業は今後どう変わっていくのか

横山:最後に、今後日本の農業はどう変わっていくか、その中で御社が何を目指していくのか教えてください。

水戸:日本においても今、持続可能な社会を目指さなければならないというのは、異論がないでしょう。すると日本の農業もリジェネラティブ農業にどんどん変わっていくと思うんです。そういった方向を全面的に支援するような技術・製品を開発していきたいと考えております。

日本の生産者が持っている技術は、世界に誇れる素晴らしいものです。海外出張で現地の果樹や野菜を食べる度に、日本の食は世界一だと感じています。高い技術を持った生産者を我々が支援することによって、日本の農業はさらに発展する余地があると思います。私は、日本の農業の未来は明るいと考えています。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

住友化学株式会社の取組についてはこちら

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