収穫後に数カ月貯蔵して楽しむミカン
貯蔵ミカンは、収穫直後に出荷される一般的なミカンと比較すると、その風味が大きく異なります。ミカンを適切な環境下で数カ月貯蔵することで、果肉中のクエン酸が分解され、酸味がまろやかになります。そして、貯蔵している間に水分が飛ぶことで、果肉がギュッと詰まり、コクがあり甘みを強く感じられる風味に仕上がるのです。
そのため、ミカンをさらにおいしくするための貯蔵はさまざまな産地で行われています。なかでも和歌山県海南市の「下津蔵出しみかんシステム」(※)は、収穫したミカンを土壁の蔵で熟成させてから出荷する技術で、2019年に日本農業遺産に認定されました。
今回はその下津蔵出しみかんシステムを実践する農家、藤原農園代表の藤原良太(ふじわら・りょうた)さんに話を聞きました。藤原農園ではさまざまなかんきつを栽培しており、特産の「蔵出しみかん」は産直ECサイトなどで販売しています。
※ 出典:農林水産省「下津蔵出しみかんシステム」
伝統のミカン貯蔵の技術
和歌山県海南市下津町では、貯蔵ミカンの貯蔵知識と技術が、400年以上も前から代々伝えられてきたそう。
昔は現代のような冷房機器や加湿器などがないため、建物の構造などを工夫することで温度と湿度の管理をしてきたのです。木造の柱やはり、扉などの建材は湿度を適切に保つ機能があります。また土壁には調湿機能に加えて断熱機能も。さらに吸排気口の開閉で換気を調節することで、温度や湿気を適切に保ちます。室温3〜6℃、湿度80〜85%。その環境を保った蔵の中に、ミカンの入った昔ながらの木の箱を積み上げ貯蔵しています。
ただし、収穫したものをすぐ蔵に入れればよいというものではないそう。「収穫後から蔵に入れるまでの1週間ほど、良いあんばいの水分量になるまで乾燥させなければいけないので、高温多雨が続くと管理も大変です」と藤原さんは話してくれました。
こうした木造建築や土壁などを利用した、古くからある技術を受け継ぐことは、ミカン栽培だけではなく持続性の高い農業システムの継承にもなっているといえるでしょう。
貯蔵することで他地域との差別化も
貯蔵ミカンは、下津以外にもいくつかの地域で作られています。藤原さんによると「出荷時期をずらすことができ、貯蔵ミカンを作っていない地域のミカンとも差別化ができる」とのこと。
しかし、まだその認知度は高いとはいえないのが現状のようです。「(下津では)400年以上受け継がれてきた蔵出しみかんですが、ここ数年で認知度が上がってきたと感じています。より多くの人たちに蔵出しみかんの魅力を伝えていきたいです」と藤原さんは話します。
蔵出しみかんは、12月までに行うミカンの収穫と蔵入れが終わり、貯蔵期間を終えたものから、順次1~3月ごろにかけて楽しめるようになります。
芳醇(ほうじゅん)でまろやか、そして甘みがギュッと詰まった貯蔵ミカンをぜひ試してみてください。
【取材協力】蔵出しみかんの藤原農園