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【TOP対談】発達障害 の社長がつくる「誰ひとり取り残さない」農業のカタチ

【TOP対談】発達障害 の社長がつくる「誰ひとり取り残さない」農業のカタチ

全国各地でさまざまな「農福連携」の取り組みが行われているが、障害のある人もない人も、ともに働く場をつくるにはどんな取り組みをしていけばいいのだろうか。自身も発達障害があり、障害者の居場所づくりに取り組んできた株式会社ココトモファームの齋藤秀一(さいとう・しゅういち)さんと、マイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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■齋藤秀一さんプロフィール

株式会社ココトモファーム 代表取締役
不登校だった少年時代を過ごし、社会人になってからは自分の居場所を見つけられず転職を繰り返すも、自身の特性が特技になることに気づき、2001年にIT企業を設立。その後、放課後等デイサービスや就労移行支援の施設を開設・運営。ITと障害者支援の自社ノウハウを生かし、2019年9月農業法人株式会社ココトモファームを設立。近著に「発達障害でIT社長の僕」(幻冬舎)。

■横山拓哉プロフィール

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

IT企業の社長が農業参入

横山:齋藤さんはIT企業の社長もされているということですが、どのような経緯で立ち上げられたんですか。

齋藤:私自身ADHDで、なかなか自分の居場所を見つけられず職を転々としていました。転機になったのは、パソコンショップの店長を任された時のことです。もともとパソコンが好きだったこともあり、店の売り上げを前年度比200%にすることができました。自分の居場所が見つかって、好きなもの・得意なものに取り組めれば、自分の能力をちゃんと使えることがわかったんです。それを機に、2001年に障害福祉に特化したIT企業を立ち上げました。

横山:ココトモファームを立ち上げたきっかけは何だったのでしょう。

齋藤:福祉サービス施設も立ち上げて子供たちの支援をしていく中で、その子たちが大きくなった時の居場所をどうやったら作れるかが大きな課題だと感じていました。きっかけは農林水産省と厚生労働省が合同で開催した「農福連携推進フォーラム」 に参加したことですね。そこで農福連携という取り組みがあることを知り、2019年にココトモファームを設立しました。現在は主に水稲栽培と、6次産業化の取り組みとしてグルテンフリーバウムクーヘンの製造、販売を行っています。

横山:障害のある方は具体的にどんな働き方をされていますか。

齋藤:ココトモファームは農業法人であって、就労支援を行う事業所ではありません。働いてくれている方も障害者雇用ではなく一般雇用で、健常者と同じ賃金です。障害がある方で、ココトモファームで働きたい方の中には、一般雇用が難しい方も一定数います。その受け入れ先として、ココトモワークスという就労継続支援B型事業所を用意しています。

「農商工福」を組み合わせて持続可能なビジネスを

横山:6次化を形にしながら「農商工福」を組み合わせていったのは非常にユニークな取り組みだと思います。そもそも加工・販売を始めようと思った理由は何だったのでしょう。

齋藤:当初から6次化に取り組もうと考えていました。農業法人を立ち上げる前にも農業をやろうとした時期があったのですが、そこで痛感したのが収益性の低さ。相当大規模な面積だといいのですが、1、2ヘクタールやってるぐらいでは、とてもじゃありませんが、採算が合いません。福祉も農業も補助金頼りでは持続可能になっていかないので、社会の経済活動の中に入っていかなければという考えは根底にありました。

横山:持続可能な事業を目指そうと思えたのはどうしてですか。

齋藤:私自身も発達障害を抱えていますし、障がいのある方の家族の立場としても、預けて終わりじゃなくて「社会の一員となって働いてほしい」という思いがあります。だからこそ、障がいのある方と一緒に働ける場所が必要で、それが続けていけるように「農商工福」を組み合わせていきました。

意外なきっかけで始まったココトモファームのバウムクーヘン

横山:米粉でバウムクーヘンを作るというアイデアはどう生まれたのでしょう。

齋藤:当初は接客の必要がないビュッフェをやろうと考えていました。でもビュッフェって野菜がたくさん必要で、ご飯がいっぱいあってもしょうがない。
それで次は「ねこまんま焼きおにぎり」はどうかという話になって、発祥の地である埼玉県川越市に妻と視察に行くことにしました。道中で、ちょうど6次産業化の展示会が開催されているということで、立ち寄ってみることにしたんですが、米粉を使ってお菓子が作れることを知り、妻がパティシエだったこともあって、「お米でスイーツ」ならいけるかもと。
ねこまんま焼きおにぎりを見に行ったのに、帰る時には(アイデアが)スイーツに変わっていました(笑)。そんな経緯で作ることになった米粉のバウムクーヘンは、約3カ月で2〜3万個売れています。製造を始めてから、工場が止まったことは一日もないですね。

それぞれの得意を生かして働ける環境づくり

横山:お店は現在、自社運営が11店舗、フランチャイズが4店舗と早いスピードで展開しています。フランチャイズのお話はどんな所からいただくことが多いですか。

齋藤:基本的には障害福祉サービス事業をされている方からいただくことが多いです。やっぱりなかなか障害福祉だけで収益事業を上げるのは難しいので。名古屋市の守山にある店舗は、働いている方のほとんどが、ろうあの方なのです。オープン当初から、手話や筆談、ジェスチャーでコミュニケーションをとるお店というコンセプトで始めたのですが、そこは他の店舗よりも売り上げがあるんですよ。

横山:働く方に合わせてコンセプトを決めたんですね。

齋藤:名古屋駅のナナちゃんストリートでのイベントでバウムクーヘンを販売した時も、たくさんのお客様が足を運んでくれましたが、お客さんも誰もしゃべらずに、一生懸命手話やジェスチャー、筆談でコミュニケーションをとってくれたんです。でも、みんなニコニコしていたんですよ。その光景を見て涙ぐまれる方もいました。

横山:買い物という行為以上のものを得ていたのかもしれませんね。

愛知県犬山市にあるココトモファームの店舗

齋藤:ろうあの方だけで店舗を運用しようと思うと、もちろん難しい部分もあります。そこを裏方で我々がサポートして、みんなが働ける環境をつくっているんです。裏方の作業が得意な方もいれば、接客ができる方もいます。それぞれの得意を生かすことができて、お客様にも体験として価値ができるなら良いことだと思っています。

売上目標はあえて設定しない

横山:スタッフの教育で工夫されていることを教えてください。

齋藤:当社が1番大切にしていることは、理念とビジョンです。私たちが掲げているビジョンは「誰ひとり取り残さない居場所をつくる」。居場所のつくり方は、農業や製造、販売など多岐にわたりますが、困っている人がいたら、お互いに支え合うことはみんなに共通しています。
一般的な会社だと、売上目標を達成することを目指さないといけませんが、うちはそういう目標が全くなくて、協力し合うことが最優先事項なんです。結果、店舗の雰囲気が良くなるんですね。みんな優しいし、困っていれば助け合う。それはお客様への態度にもつながっていきます。そして店舗の人気が高まって売り上げが上がるーーちゃんとつながってくるんですよ。

横山:ココトモファームを始める前と後では、齋藤さん自身の満足度も全然違いますか。

齋藤:全然違いますね。それからもう一つ感じたのは、売上目標を設定してどれだけ頑張っても、せいぜい前年比120%〜130%が限界なんですよ。でも理念やビジョンの達成を目指すと、伸び率がグッと変わって170%になることも。数字だけだと説明できないことが起きてくるんですよね。

農業の楽しさを掘り下げていく

横山:齋藤さんの今後の展望を教えてください。

齋藤:今後、お米を有機栽培に切り替えていく予定です。またグローバルGAPも取得する予定で、今準備を進めています。食べる人にも、働く人にも、自然にも、良い環境をつくることを目指しています。来年の3月にはヤギが3匹来る予定です。ヤギは草を食べてくれるので草刈りの負担軽減につながりますし、アニマルセラピーの効果も期待しています。人間とのコミュニケーションは苦手だけど、動物だったらお世話ができる、そしてそれが好きなら仕事にしてしまえるので。1人1人の特性や長所を生かして活躍できる場所を増やしていけたらと考えています。

横山:最後に、農福連携に取り組もうと考えている方に向けてメッセージをお願いします。

齋藤:今までの「農業はこうあるべき」「福祉はこうあるべき」という視点をちょっとずらして、もっと農業の楽しい部分を掘り下げていくと、障がいのある人もない人も、いきいきと働ける場所になると思います。また、農業は生産価値のほかに体験価値など、いろんな価値の付け方ができるもの。地域を盛り上げたり、地場の伝統的な作物を守ったりと、いろんな価値を付けて、たくさんの人が関わっていくことで農業の可能性はすごく広がっていくと思っています。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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