脱サラし、いずれはやってみたかった「農業」の道へ
鳥取県西部の弓浜地区(米子市・境港市)は、昭和初期から砂畑での白ネギ栽培が盛んな地域。そんな弓浜の白ネギは、ずっしりと太く、柔らかで、甘みがあるのが特徴です。しかも、「春ネギ」・「夏ネギ」・「秋冬ネギ」と栽培品種を使い分けることで、露地での通年栽培を実現しています。
米子市で生まれ育ち、自動車販売会社で営業として16年間働いてきた来海大樹(きまちだいき)さんは、家族に「いずれは『農業』をやりたいね」と話しており、手始めに家庭菜園用の土地の借り受けについて鳥取県に相談。そこで、鳥取県農業農村担い手育成機構の担当者から「アグリスタート研修(※)」の存在を聞き、研修生を受け入れている先輩農家も訪問。話を聞くうちに「将来的に…ではなく、今、やってみよう!」という気持ちが高まり、会社を辞めて就農する決意をしたと話します。
※アグリスタート研修=(公財)鳥取県農業農村担い手育成機構が2009年にスタート。受け入れ農家で実践的な栽培技術と経営を学ぶ「実務研修」と、農業の基礎等を習得する「集合研修」で構成。研修期間中の補助金制度も整備し、修了後の就農者の定着率も安定している
研修は1年間。収穫から逆算して複数の畑で白ネギを栽培
鳥取県農業農村担い手育成機構に相談し、栽培品目は地域のブランド農作物であり、年間を通して安定して稼げる白ネギを選択。受け入れ先となる親方農家は、研修前からすでに面識のあった吉岡大輔さんに決まりました。
研修は2022年4月にスタートし、吉岡さんのもとで苗作り、土作り、定植、管理、収穫、出荷など、白ネギ栽培の一連の作業を実践的に学ぶことになりました。白ネギは、種まきから収穫まで約10カ月かかるため、常に収穫から逆算して春ネギ用、夏ネギ用、秋冬ネギ用の圃場で異なった作業を並行して行う難しさがあったと振り返ります。
また、研修当初に苦労したのは体力面。「暑さ寒さに慣れていないし、機械を使う時も力の入れ具合がつかめずに、よくバランスを崩していました。最初の2~3カ月はずっと筋肉痛でしたよ(笑)」
計画を立てて作業を進める。農業は思いのほかシステマチック
研修で白ネギ栽培を一から学び、来海さんは2023年4月に独立。現在は、吉岡さんの紹介などで借り受けた約1haの圃場で農業に取り組んでいます。未経験からスタートし、今日までを振り返ると、「農業は想像していた以上にシステマチックな仕事だな」と感じたという来海さん。ゴールから逆算し、作業を進めるところは、前職と変わらないと笑います。
弓浜の白ネギ栽培は、露地栽培ゆえに雨や風、病害虫などのリスクがありますが、来海さんは気象情報のチェックとあわせ、「ネギの状態を日々しっかりと見る」という吉岡さんの教えを徹底しています。研修ではネギの状態や天候に合わせて臨機応変に対応する吉岡さんの姿に学ぶ点が多かったと話します。
「2023年の夏は記録的な猛暑だったのですが、大きな被害は出さずに年間の売上は、計画比200%を達成しました。1年目にしてはよい経営ができたのでは」と振り返る来海さん。5年後には吉岡さんと同じ経営規模まで拡大することを目指しています。就農して良かったと思う点を伺うと「自分の判断が品質や売り上げに反映されるおもしろさがあること」と来海さん。家族と過ごす時間が圧倒的に増えたのも嬉しいそうです。
「自分ならどうする?」と問いかけて、営農に欠かせない判断力を養う
アグリスタート研修で来海さんの親方(指導者)を務めた吉岡さんは、米子市の農家の3代目。10年前に専業農家となり、現在約2haの圃場で白ネギを栽培。生産が難しい在来種のブランドネギ『伯州美人(はくしゅうびじん)』も手がけています。
そんな吉岡さんが掲げる研修生指導のモットーは、「自分で考える姿勢を身に着けてもらうこと」です。一緒に作業を行いながら白ネギ栽培に必要な知識や技術などは一通り教えるそうですが、一番重要なのはその先のこと。
弓浜の白ネギは時期によって品種や管理の方法が異なるため、「今回はなぜこの肥料だと思う?」などの質問を投げかけて、研修生自身に考えてもらうようにしています。この繰り返しが、営農に不可欠な判断力を養うことにつながると吉岡さんは考えています。研修生時の来海さんの印象を伺うと「自分の頭でしっかりと考えられる賢い人だな」と振り返るように、来海さんの成長は早かったとニッコリ。
弓浜の白ネギ栽培を一緒に盛り上げてくれる新しい仲間を!
高齢化による生産者の減少が続き、個々の農家が管理できる農地面積にも限界があることから、どうしても耕作放棄地が増えています。
そんな地元の白ネギ栽培に危機感を覚える吉岡さんは、JA鳥取西部の白ねぎ生産部会の若手グループである「若葉55会」の会長や、弓浜地区の若手生産者グループ「O-Meeting(オーミーティング)」のまとめ役、全国の若手農業者で結成された「4Hクラブ(農業青年クラブ)・鳥取県連」の会長を兼任。新規就農者のサポートはもちろん、栽培技術等の情報交換、新たな仕組み作りに向けた行政やJAなどとの交渉役を率先して引き受けています。
「農業はやる気が第一です。関係機関が連携して新規就農者をサポートするので、興味がある方はぜひ飛び込んでほしい」と吉岡さんは話します。来海さんも「就農とは起業です。お金の管理など難しいこともありますが、仕事に真剣に向き合う熱量があれば大丈夫!」と、就農を考える方にエールを送ってくれました。
鳥取県では、就農希望者を対象に産地をバスで回って先輩就農者や研修指導農家などから話を聞く「農業視察研修」を開催。今回は、県西部の「白ネギ」と「ブロッコリー」の産地を見学いただき、先輩就農者の体験談が聞ける意見交換会なども行います。鳥取県での就農に関心のある方は、ぜひ、ご参加ください。
開催日:2024年3月10日(日)10:00~16:50
参加費:無料(集合場所までの交通費及び昼食代は各自)
<スケジュール>
10:00 集合・出発:鳥取県西部総合事務所(米子市糀町1丁目160)
10:30-11:30 白ネギ(米子市弓浜地区)
12:00-13:00 昼食
14:00-15:00 ブロッコリー(大山町)
15:30-16:00 意見交換会
16:50 解散:鳥取県西部総合事務所
<お申し込み>
※お申し込みは「電話」と「E-mail」で受け付けています。以下の項目についてお知らせください。
◆氏名 ◆ご連絡先(住所、電話番号、E-mailアドレス) ◆生年月日
鳥取県農業経営・就農支援センター
(鳥取県農林水産部農業振興局経営支援課内)
TEL:0857-26-7262(担当:橋本)
E-mail:keieishien@pref.tottori.lg.jp
<大山町のブロッコリー>
大山山麓の肥沃な黒ぼく地帯ではブロッコリーの栽培が盛んです。「食味」や「鮮度」にこだわり、夏場の一時期を除き年間を通した安定供給が可能な産地として、市場から高い評価を得ています。青臭さやエグミが少なく、甘味が強いのが特徴で、2018年には地理的表示(GI)保護制度を取得するなど、「大山ブロッコリー®」としてブランディングにも力を入れています。また、少子高齢化で担い手が減少する中、生産者をサポートする出荷調製用冷蔵庫の導入や共同集出荷施設などのインフラ整備も進んでいます。
お問い合わせ
鳥取県農業経営・就農支援センター
(鳥取県農林水産部農業振興局経営支援課内)
TEL:0857-26-7262(担当:橋本・糸原)
E-mail:keieishien@pref.tottori.lg.jp