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SNSで有名な農家は、リアルでも地域を代表する農業経営者だった!【農垢の素顔#10 SITO.(シト)】

連載企画:農垢の素顔

SNSで有名な農家は、リアルでも地域を代表する農業経営者だった!【農垢の素顔#10 SITO.(シト)】

きれいな奥様のアイコンがトレードマークの、X(旧twitter)で有名な農家SITO.(シト)@IaaItoさん。実はSNSの中だけではなく、地元でも有名な地域を代表する露地野菜農家でした。今回は、愛知県豊橋市でキャベツの収穫をしているシトさんに取材し、農業系インフルエンサーとしての素顔や農業経営に迫っていきます。

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シトさんプロフィール

1 愛知県豊橋市出身の30歳。大学卒業後、JAへの入組を経て実家の農家に親元就農。
春系キャベツ、タマネギの露地栽培の農業経営をしている。
ブログやXでの情報発信も人気を博し、Xのフォロワー数は農業系アカウントでは屈指の1万3000人(2024年2月現在)超え。

一旦は就職するも、農業の可能性を感じて就農

筆者:現在の栽培作物や規模、販路を教えてください。

シトさん:およそ、タマネギを3ヘクタールと、春系キャベツを7ヘクタールですね。
出荷はJAです。キャベツ4万ケースを売りさばける販路は、JA以外にはないでしょうし。
労働力は、両親と姉、私と妻、弟と弟の妻の7人です。私の妻と弟の妻は育児をしながらなので、できる時にできる仕事をしてもらっています。

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筆者:農業を始める前は、何をされていたのですか?

シトさん:大学を卒業後に地元のJAに就職しました。そこではMA(マネーアドバイザー)として、農家のお宅を訪問し、貯金や共済、困りごとなどの相談にのることが主な仕事でしたね。

筆者:地元のJAで働いていたのですね!
そこから就農するに至ったきっかけはありますか?

シトさん:元々、農家の長男だということもあり、いずれは就農するとは考えてはいました。そんな中、JAの職員として外からいろいろな農家の畑を見せていただいたのですが、実家の農業とはやり方がまるで違ったのが印象的だったのです。

同じキャベツ農家でも、農業機械にしろ栽培技術にしろ、それぞれ考え方がまるで違うんですよ。「うちの農業の方が効率いいと思うけど、うちが特殊なのか? 実家のように効率よく農業できれば、産業としての可能性が広がるんじゃないのか?」と、農業の非効率さと同時に可能性も感じた出来事でした。

こうした経験から「自分が地域の農業をリードしていきたい」と考えるようになり、7年前にJAを辞めて、実家に就農して今に至ります。
農家としてはまだまだ半人前なので、親に追いつけ追い越せの気概で仕事に取り組んでいます。

効率化を追求した一貫した作業体系

筆者:実家では周りと違う効率的な農業をされてきたということですが、具体的にはどのような方法でしょうか?

シトさん:一言で言えば、「効率化を追求した作業体系」でしょうか。
例えばうちでは、キャベツの適したサイズのものだけを収穫する「拾い採り」はしません。
一回で全部収穫した方が、効率いいですからね。

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機械を畑に入れて、1回で収穫し切る

「1回採り」を可能にするのは、このクローラとコンテナ。
周りの農家は圃場で箱詰めするのが一般的ですが、うちではキャベツの収穫はコンテナに詰めて、倉庫で箱詰めします。
倉庫に持ち込みさえすれば、風や天候の影響で遅れることなく計画的に出荷調整ができますからね。

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効率的な倉庫内での出荷調整

筆者:この倉庫、制箱機に沿った作業ラインが出来ていますね!
すごく考え抜かれてますね……!

シトさん:ちなみに、私は栽培技術や考え方を隠さずに、むしろ惜しみなく周りの農家やブログで伝えています。自分の復習やアウトプットのためでもありますが、この技術を属人化させることなく広まってほしいからです。

親父(おやじ)の代の頃からたくさんの農家がうちに来て、栽培技術や考え方に感心して帰っていきますね。まあ部分的に参考にしてもらうことはあっても、一貫した栽培体系や効率化のノウハウまでは、そんなに簡単にはマネされませんけどね(笑)。

実は効率的な、「昔ながらの栽培技術」

シトさん:もう一つ代表的な違いということであれば、うちはタマネギもキャベツも、昔ながらの「地床苗」を使っている点ですね。

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左が地苗、右がセルトレー苗

筆者:今はセルトレーで育苗して定植するのが一般的になっていますよね?あえて地苗から変えない理由やメリットがあるのですか?

シトさん:コスト面だけ見ても、三つほどメリットがありますね。
まず、セルトレー苗は育苗ハウスが必要になるから、設備投資にお金がかかりますよね?
地苗の場合は育苗スペースを設ければいいし、そのスペースも後でキャベツを植えるから効率的です。定植機械も安い。セルトレー苗の全自動定植機は約150万円するのに対し、私が使っている地苗の半自動定植機は約80万円程度で手に入ります。

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半自動の地苗定植機

また、育苗期の農薬散布量も大きく違いが出ます。
一般的に30日たたずに圃場に定植するセルトレー苗では、まだキャベツが小さい段階でも圃場全体に農薬散布をしないといけません。
圃場への定植が遅い地苗は約30日は育苗スペースで育てるので、農薬散布もそのスペースだけでOK。散布量は歴然の差、ということは、農薬の出費も歴然の差です。

地苗で省スペース、省農薬、定植時期の弾力化

三つ目のメリットは、雨が続くなどして定植が多少遅れても問題ない点です。
セルトレー苗だと、根が回りすぎてしまう前に定植しなければいけないので、定植期の遅れは大変プレッシャーになりますよね?
地苗は長期に圃場に置けますし、苗取りを行った後は冷蔵保存しておけば、20日以上定植可能な状態を保つことができます。

まだまだ地苗のメリットはあるのですが、全部は紹介し切れないので、私のブログを見ていただければと思います。

SITOさんのブログはこちら

筆者:なるほど……。
セルトレー苗が一般的過ぎて、地床苗なんて考えもしなかったなあ。

ネットニュースにもなった情報発信力

筆者:シトさんといえば、Xやブログでの情報発信力もすごく強いですよね!
最近では、農薬に関しての発信が、ネットニュースに取り上げられていましたね。

シトさん:農薬に関しての情報は、特に多くの方に関心があり、そしてデマも散見されるテーマです。
私たちが丹精込めて作っている慣行栽培の野菜が、いわれのない批判にあった場合に「それは違うよ」とコメントしているだけです。

「そんなデマなんか、大したことないから放っておけばいいじゃん」とも言われるのですが、農薬に対する間違った事実を広めている政党があるのも事実です。そして、農薬が原因で子どもに悪影響が出るという悪質なデマによって不安を抱いているお母さまたちがいるのも事実です。

私も子育てをしている世代ですので、「農薬に関しての正しい情報を知ってほしい、後ろめたい思いを抱いている方を減らしたい」という思いで、農薬に関しての情報を発信しています。

家族経営にこだわり、ゆくゆくは耕作面積20ヘクタールへ

筆者:シトさんの今後の目標を教えてください。

シトさん:親の代から積み上げてきた栽培体系を生かしながら、キャベツとタマネギで表作裏作合わせた耕作面積20ヘクタールまでは拡大したいですね。
私の妻と弟の妻が子どもからある程度手が離れて、今のこの家族経営をもっと効率化していけば、できない規模ではありません。

筆者:そこまで大規模にするなら、雇用も視野に入れて、という感じですか?

シトさん:いや、規模を増やしても雇用するのは考えず、家族経営にはこだわりたいですね。
だって外部の方を雇ったら、その方の給料を払うために仕事を作らないといけなくなるじゃないですか。効率を追求した作業体系が崩れますし、結果自分たちの時給単価が落ちる可能性も大いにある。
家族だけであれば、みんなでスケジュールを調整して休みが取れますし、時間の融通も利きますしね。

筆者:なるほど、ありがとうございます。
最後の質問ですが、シトさんの奥様や子どもに関しての投稿が、「独身農家に対する当てつけだ!」と、しばしばX農家の間で話題になっていますが……。

シトさん:ああ、最初は狙って話題にするつもりはなかったのですが……(笑)
まあでも、自慢の嫁さんと子どもたちですし! エンタメ要素もたまには必要ということで!
愛する家族と過ごす時間を増やすためにより効率化した農業経営を目指したいですね!

【SITOさんのブログはこちら】
あるのは探究心 | Only Spirit of Inquiry

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