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農家に出会ってビビッときた! 非農家出身の女子大生が、一般企業の内定を辞退して小田原でレモン農家になるまで【農垢の素顔#9 はれやか農園】

連載企画:農垢の素顔

農家に出会ってビビッときた! 非農家出身の女子大生が、一般企業の内定を辞退して小田原でレモン農家になるまで【農垢の素顔#9 はれやか農園】

2023年5月、農業系アカウント(農垢)の新芽が吹いた。神奈川県小田原市に「はれやか農園」を開業したレモン農家の槇紗加(まき・さやか)さんは、非農家出身の24歳。学生時代にベンチャー企業の就職内定を辞退し、「私の進むべき道はこれ」と、新卒で柑橘(かんきつ)農家に弟子入り。耕作放棄地を引き継いで独立就農への道を切り開いた。農垢の素顔に迫る本連載、今回は決して平坦ではなかった農園を開くまでの道のりを紹介する。

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槇 紗加|レモン農家 はれやか農園(@maru_nougyo

【プロフィール画像】 1998年生まれの24歳。神奈川県出身。日本女子大学在学中にインターンとして、株式会社ビビッドガーデンでマーケティングを担当したほか、広告営業、アウトドア系ライターなどを経験。卒業後は小田原市の柑橘農家「矢郷農園」で2年間の研修を積み、2023年5月に「はれやか農園」を開園した。レモン、オレンジ、ミカン、キウイフルーツを生産しながら、若者の就農課題の解決に取り組む。

大学生最後の夏、農業へかじを切る

温暖な気候に恵まれた小田原市は柑橘類の宝庫。神奈川県で開発された湘南ゴールドをはじめ、レモン、オレンジ、ミカンなどの柑橘が種類豊富に栽培されています。相模湾に面した山の斜面に点在する柑橘畑の中でも、担い手のいない耕作放棄地を引き継いだ槇さんの畑は、小田原市片浦地区の端と端を結ぶ3カ所の飛び地にあります。

学生時代、小学校の教員を目指していたという槇さん。大学卒業後は内定先の都内のベンチャー企業に就職する予定でした。しかし、内定者インターンシップで仕事をするうち、自分には会社員としての働き方は合わないと感じ始めました。そんな悩みを抱えていた大学4年の夏、農業用ドローンの研究をする友人から「ドローンを農家さんの所へ運びたいが、車の免許を持ってないから代わりに運転してほしい」との相談が。

友人と一緒に農家を回るようになった槇さんは、行く先々で業界の課題を聞くうち、農業に関心を持つようになったといいます。「農業は魅力的な職業なのに若手がいなくて、畑がどんどん荒廃していることを知り、私にできることは何だろうと考えるようになりました」

槇さんは、まず一般企業に勤める働き方はしないことを決めて企業の内定を辞退。「もしかすると自分が農家になってもいいのかも」という考えが、ふんわりと浮かんできました。

柑橘をやろうと決めた、師匠との出会い

もっと農業について知りたいと思った槇さんは、産直EC「食べチョク」を運営するビビッドガーデンにインターンとして参加。マーケティングの仕事経験を積みながら、引き続き友人のドローン研究に運転手として付いて行き、農家の話を聞く日々を重ねてきました。そこで、ついに就農を決意したのです。

食べチョクインターン時代

インターン時代の槇さん

背中を押したのは、耕作放棄地の存在でした。中山間地に耕作放棄地が多く、特に機械が入りにくく作業が困難な傾斜地でジャングル化しているのを目の当たりにしました。槇さんの出身地である神奈川県で、中山間地の斜面で栽培されている作物こそ、柑橘だったのです。

「のちに師匠となる矢郷史郎(やごう・しろう)さんとの出会いでビビッときて、耕作放棄地の柑橘は私がやると決めました」と槇さん。矢郷さんは、小田原の柑橘農家「矢郷農園」の3代目。槇さんは、特に人材募集をしていない同園に「私を研修生として雇ってください」と頼み込みました。

矢郷さんらと槙さん

槇さん(左)と矢郷さん(中央)

「普通に考えたら絶対に受け入れないけど、受け入れてもいいと思った」という矢郷さんは、何か感じるものがあったらしく、農の雇用事業を活用して槇さんを研修生として迎え入れてくれました。槇さんいわく、「矢郷さんは、農家のイメージを覆す、おちゃらけていて、面白くて、芸人みたいな人」。研修中のつらい作業でも、笑いを取って場を和ませてくれました。

教わったのは柑橘栽培とユーモアだけではありません。コミュニティーの作り方も学びました。「矢郷さんは人的ネットワークを活用して農業をする形を作っていて、私もその方法をまねしようと思いました」と槇さん。矢郷さんが連れて行ってくれる地域の交流会などで人脈を広げてきました。こうして2年間の研修を終え、独立へと踏み出したのです。

実現したい社会があるから頑張れる

独立就農した当時について槇さんは、「何から話していいかわからないぐらい、くじけそうなことはありました」と振り返ります。夏は暑く、収穫物は重く、蜂に刺されたり、就農して1カ月で軽トラを廃車にして原付バイクで物資を運んだことも。

「農業はトラブルだらけで、デスクワークよりはるかに身の危険を伴います。身の危険を冒してまで頑張っている農家さんにもうちょっと還元されてもいいですよね」と話す槇さんが考えているのは、自分のことだけでなく農家全体のことでした。「もう農業やめる」と思うことがあっても、それは一瞬。「作りたいものや実現したいことがあるから、それをかなえずにやめたら悔しいじゃないですか」と槇さんは、すぐに前へ向き直ります。

実現したいことの一つは、耕作放棄地をなくすこと。そのためには、「若手の担い手を増やしていきたい」と槇さんは言います。急な傾斜地など条件が厳しい農地が新規就農者に回ってくることが多いので、農業のやり方も変える必要があると感じています。

農業に興味を持つ人を増やすことも、槇さんが農業をする目的です。気軽に畑に行けるような農家の知り合いを持つ人は少ないのが実情。槇さんのSNSには「農業をしてみたい」という声がたくさん届きます。誰もが遊びに来てリフレッシュできる観光農園をつくることを目標にしています。また、レモンをもっとおいしく楽しんでもらうために、レモンサワーのリキュールを酒造会社と共同開発中。ただ、味に譲れないこだわりがあるため、開発期間は2年を見込んでいるそう。

「海を一望できる場所なので、仕事に疲れたときはここでリフレッシュして、農業っていいなと思っていただいて、あわよくば農家になりたいと思う人が現れるといいですね」と槇さんは、まだ見ぬ就農希望者に思いをはせます。

情報発信からの人的ネットワーク

「はれやか農園」のスタッフは代表の槇さん1人。3カ所の畑の管理、ネット直販、イベント出店などをこなしています。師匠の矢郷さんに陰に日向に支えられ、収穫は友人の手を借りるなどして、目まぐるしい日々を乗り切っています。6月の甘夏の収穫には、インターンをしていた食べチョクのメンバーも応援に駆けつけてくれました。「甘夏をどっさり収穫したのはいいけれど、卸先はないので自分で売っていかないといけませんね」と槇さん。目下の課題は販売です。

収穫した甘夏

収穫した甘夏

槇さんは、神奈川西部エリアでスタートアップ支援をする八三(はちさん)財団の1期生でもあり、財団創設者が経営する会社のコワーキングスペースをオフィスとして利用しています。そこに集う猟師や料理人など職業もさまざまな財団生との交流から、新たな企画が生まれることもあります。

SNSでもいろいろな人とつながっています。昨年のゴールデンウイークには瀬戸内のレモン農家に行って勉強させてもらったそうです。また独立した際には、アマゾンのウィッシュリスト(ほしいものリスト)を投稿すると、一般の人からも応援のメッセージと共に品物が届きました。

「本当にありがたいことです」と感謝の気持ちでいっぱいの槇さん。耕作放棄地と若者の就農課題の解決を胸に、非農家から自分の道を切り開いてレモン農家として独立した槇さんは、農業に関わる人たちを元気にするビタミンのような存在。みんなが応援しています。

はれやか農園開園イベント

大勢の仲間に囲まれてはれやか農園がスタート

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