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無人直売をスタートするも、すぐさま盗難が発生! おそらく犯人は……【転生レベル14】

平松 ケン

ライター:

連載企画:就農≒異世界転生?

無人直売をスタートするも、すぐさま盗難が発生! おそらく犯人は……【転生レベル14】

農村という″異世界”のしきたりに順応し、徐々に農業の規模拡大を進めてきた僕・平松ケン。生産量に比例して規格外野菜も増えてきた。これを無料でご近所さんに譲ることはトラブルのもととなることがわかり、断念することに。そこで畑の脇に無人直売所を構えることにしたのだが、案の定というべきか、新たな問題に直面することになるのであった……

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本記事は筆者の実体験に基づく半分フィクションの物語だ。モデルとなった方々に迷惑をかけないため、文中に登場する人物は全員仮名、エピソードの詳細については多少調整してお届けする。
読者の皆さんには、以上を念頭に読み進めていただければ幸いだ。

前回までのあらすじ

農村はまるで“異世界”。これまで暮らしてきた都会とはまるでルールの違うゲームストーリーの展開に驚く日々が続く。それでも農村ならではの人間関係の迷宮を攻略。周囲の農家と良好な関係を築いて協力も得られるようになった僕は、少しずつ農地と収穫量を増やしていった。
そんなある時、大量に取れた規格外のダイコンをご近所さんにお裾分けしたのだが……

前回の記事
規格外の野菜をお裾分け。すると思わぬクレームが発生!【転生レベル13】
規格外の野菜をお裾分け。すると思わぬクレームが発生!【転生レベル13】
農村という異世界のしきたりに順応し、徐々に農業の規模拡大を進めてきた僕・平松ケン。最近では栽培技術も向上し、思うような収量をあげられるようになってきた。と同時に、規格外野菜も出るように。 そんなある日、ご近所さんが規格…

良かれと思っての行動だったが、無料でダイコンがもらえるといううわさが広まり、大勢の人が押し掛ける事態が発生。さらには先輩農家から「勝手に野菜を無料で配られたら迷惑だ!」とお叱りを受ける羽目に。
しかし、規格外の野菜はこれからもたくさん出てしまうだろう。そこで僕はこの事態を打開するために考え、行動を始めたのである。

農産物直売所に出品してみたものの……

規格外の野菜をご近所にタダで譲ったことを、この地域のラスボス・徳川さんに注意されて以来、僕は規格外の野菜をどうすればいいか考えていた。タダだと問題が起こるので、お金をいただいて売ることにしたのだが、その方法に悩んでいたのだ。
もちろん、販売を諦めて畑にすき込むことも選択肢の一つだが、一度ご近所さんに喜んでもらうという経験をしたせいで、やめたくないな、という気持ちも生まれてしまったのだ。

そこで、規格外の野菜をうちから一番近い農産物直売所で売ることにした。

直売所の様子

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この直売所Aに野菜を並べてもらえるようお願いしに行ったところ、担当者からは、
「平松さん、売り場に並べた野菜は、傷む前に持って帰ってくださいね」
と説明された。僕は、
「そうですか。毎回引き取りに来るのは結構手間でして……」
と正直に答えたのだが、担当者の反応は冷たかった。

「そう言われても、皆さんこのルールを守ってもらっていますから」
「はあ、分かりました……」
僕は担当者の言葉にそのまま従うしかなく、しばらくの間そこで販売をした。もちろん売れるのだが、正直、農作業の手を止めてまで直売所に持っていくのは「割に合わない」と感じた。

そこで、Aでの販売はやめ、別の直売所Bで販売することにした。
直売所Bでは、一定期間を過ぎて古くなったものは、スタッフが代わりに廃棄する仕組みになっている。引き取りにいく手間はないのだが、売り上げはそこまで上がらず、結局たくさんの野菜が廃棄されることになった。
「野菜を詰める袋なども無駄になるし、むしろエコじゃないよね?」
そう感じて、この直売所Bに野菜を出すこともやめた。

ほかの販売先を検討しようと直売所Cにも相談したのだが、手数料が30%ほど掛かるとのことだった。これでは利益を上げるのは難しい。
さらに別の直売所Dでは、地域で家庭菜園をする高齢者が安価で大量に露地野菜を出品していた。まるで投げ売り状態である。「捨てるくらいなら」と考えて販売しているようだが、お小遣い程度の稼ぎがあればいい年金受給者と価格で勝負するのは至難の業である。

「うーん、どうすればいいんだろう……」
僕は直売所の探索プレイにほとほと疲れてしまった。

農作業をしながらいろいろと考えているうちに、妙案を思いついた。
「そうだ!畑の脇で無人直売を始めてみてはどうだろう?」
ちょうどテレビで無人販売のギョーザ店がはやっているという情報を目にしたところだった。そういえば、野菜の無人販売をしているところは昔からある……。
「古くて新しいスタイルが逆に受けるんじゃないか」
なんだかうまくいく気がしてきた。

こうして僕は、もうじき収穫を迎えるタマネギの規格外品を、畑の脇で売ろうと決めた。

無人直売所を開設し、好スタートを切る!

「こんな感じでどうだろう? 意外と良い感じにできたな!」

案の定たくさんの規格外品が出たタマネギを販売するため、僕は人通りが多い道路に面した畑の脇に、小さな直売所を作り上げた。

といっても、即席の直売所である。直売所に出品した経験から「農作業に支障が出ないこと」「コストを掛けないこと」が大事だと学んでいたので、大掛かりな小屋を建てるのではなく、収穫用のカゴを置いて値札を付けただけのシンプルなものにした。

無人販売

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「少しは売れてくれるといいな!」
そんな期待を込めながら小さな直売所にタマネギを並べていると、早速、通りがかりの高齢女性が声を掛けてきた。

「へえー、ここで取れたタマネギを販売しているの?」
どうやら散歩途中に見かけて気になったらしい。狙い通りだ。

「そうですね。5個で100円なんで、良かったらぜひ!」
と僕が返すと、驚いた様子で
「5個で100円? ものすごく安いじゃない!」
とその場で財布を取り出し、購入してくれたのである。

「これは幸先のいいスタートだな!」
僕はうれしくなって、さらにたくさんのタマネギを売り場に並べていった。

タマネギ5個セット

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近所のスーパーに足を運んでみると、タマネギが3個198円で販売されていた。うちのタマネギの価格は激安である。しかも、畑の脇で販売しているのだから鮮度は抜群。売れないわけがない。売り場に並べる時間、包装などのコストを考えれば、この値段でも直売所に持参するよりは「割がいい」と感じた。

その後は、作業のついでに小さな直売所の売り上げを確認した。ホームセンターで購入した鍵付きの貯金箱には、毎回のように小銭がジャラジャラと入っていた。多い日には1日2000~3000円になることも。バカにならない金額である。

「この調子で別の畑にも直売所を構えようかな?」
貯金箱の小銭を確認しながらほくそ笑む僕。だが、そんなに話がうまく進むわけではなかった。

当初から懸念していた「盗難事件」が発生したのである。

タマネギの数と売上金額が合わない!

「あれ、何だか売り上げのわりに売れ残ったタマネギの数が少なくないか?」

直売所で販売をはじめて2週間くらいが過ぎた頃、貯金箱に入っていた金額が明らかに少ないことに気付いた。規格外品を大量に山積みし、好きなものを自分で選んでもらっているので、それまで気づいていなかった。

きちんと計算してみると、明らかに数百円足りない。

100円玉

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「うーん、当初から予想はしていたけれど、やっぱり商品が盗まれるのか……」
そう思いながら、僕は先輩農家の話を思い出していた。

実は無人直売所を開設する前、地域で同様の販売方法をとっている数少ない農家の1人である大友さんに相談していたのだ。大友さんは数年前から自分の畑のすぐ脇で季節の野菜を販売している。
その相談の際、大友さんは
「まあ、お金が入っているのは8割くらいかな」
と内情を明かしてくれた。そのため、ある程度の盗難があることは想定済みではあった。
それでも、「あんまり気持ちがいいものではないな……」というのが率直な気持ちだった。

いまや最低賃金はうちの地域でも時給1000円を突破しようとしている。
働き口が少ない田舎でも、車で20~30分走れば1000円を超えるアルバイト先がたくさんある。そんな中で、無人販売を有人に切り替えるのは、僕のような規模では到底無理だ。そもそも規格外品を販売するためにそこまで手間をかけることはできない。

いつもより少ない小銭を握りしめながら「人件費が掛からない分、多少のことは仕方がないんだけど……」と自分を納得させていた。ただ、モヤモヤとした気持ちは晴れなかった。

だが、問題は、これだけでは済まなかったのである。

中学生が犯罪に手を染めるまさかの事態に……

「ねえ、ちょっとお話があるんですけど……」

無人直売所がある畑で作業をしていると、近所に住む女性が声を掛けてきた。

またクレームか何かだろうか?と心配しながら、
「こんにちは。なんでしょう?」
と僕が返すと、その女性は少し険しい顔つきで話し始めた。
「どうやら中学生の子が、おたくのお店のお金をあさっているみたいなんですよ」
を話し始めたのである。僕は驚きのあまり返す言葉を失ってしまった。

その女性が言うには、「犯行」は昨日の夕方ごろだったらしい。

制服を来た大柄の中学生が自転車を置き、直売所に近づいていくのを見て、「なんで中学生がタマネギを買っていくんだろう?」と不審に思い、遠くから様子を観察していたそうだ。

「お金を入れる貯金箱があるでしょ? あれをこじ開けようとしていたみたいなの」
「え? そうなんですか?」

そういえば、今日は作業に夢中でまだ中身を確認していなかった。女性の話を聞いて貯金箱を手に取ると、金属の箱の表面にキズがあり、鍵をこじ開けようとした形跡があった。

「無人販売はいいけど、怖いし、心配で……。何とかしてもらえないかしら?」
「そうですね。何か対策を考えてみることにします……」

規格外品がもったいないし、少しは稼ぎの足しになるかもしれないと始めた無人直売が、こんなことになるなんて……。僕のせいで中学生が犯罪に手を染めているとしたら、見過ごすわけにはいかない。

そして僕は、無人直売をやめることにした。

レベル14の獲得スキル「無人販売は簡単だけどよくよく考えて始めるべし!」

野菜を栽培していると、どうしても出てくる規格外品。せっかくだからこれを販売し、収入の足しにと考える人は多いはずだ。だが、意外にハードルは高い。

直売所などに出品すれば確かに売れるものの、高値で売るのはなかなか難しい。出品の手間やコストを考えると割に合わないケースが大半だろう。同様にネットでの販売も、昨今の送料高騰で利益を出すのは徐々に大変になってきている。そこで注目したいのが「古くて新しい」手法である無人販売。ただ、ここにもいろいろな落とし穴がある。

無人販売であれば人件費が浮く。これは非常に大きい。普段から作業する畑や自宅の近くであれば出品の手間も省けるし、販売手数料も掛からない。その分価格を抑えられるため、消費者からも喜ばれるだろう。だが、良いことばかりではない。

一番のネックは「盗難」だ。野菜が盗難被害に遭うだけでなく、時には売り上げを盗もうとする人もいる。「人件費が掛からない分、多少の被害は仕方がない」と考えることもできそうだが、実際に当事者になってみるとすんなりと割り切れないもの。結果として犯罪を誘発しかねないとなればなおさらだ。無人販売に取り組むのであれば、そのあたりも十分考慮して検討する必要がある。

幸先の良いスタートに気を良くしたものの、結果的には「撤退」という決断を下した無人販売。仕方ないとは思いつつも何だかやるせない気持ちになった僕は、さらにモヤモヤした気持ちを抱える新たな出来事に遭遇するのであった……。【つづく】

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