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“1杯2000円”でも飲みたい沖縄コーヒー。農園主が追求する「本物」の味とは

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“1杯2000円”でも飲みたい沖縄コーヒー。農園主が追求する「本物」の味とは

普段日本で飲まれているコーヒーはほとんどが外国から輸入されたものだ。安価なものも多く、1杯の価格が何千円もするものは珍しい。一方、わずかに沖縄で栽培されている国産コーヒーの価格は、なんと1杯2000円。その価格の裏側には、沖縄のコーヒー栽培の課題と、生産者のたゆまぬ努力があった。独自のコーヒーを追求する農園の取り組みを取材した。

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コーヒー農園を基軸とした複合施設

又吉コーヒー園は、沖縄本島北部の「やんばる」と呼ばれる地域の中の東村(ひがしそん)にある。コーヒー農園に隣接したカフェや宿泊所に加えて、レジャー用自動車のバギーやワイヤーにぶらさがって滑走するジップラインなどのアトラクションも楽しめるため、多くの観光客がやってくる。敷地面積は合計で3万坪(9.9ヘクタール)、そのうち5000坪(1.7ヘクタール)がコーヒー畑だ。
カフェではもちろん、又吉コーヒー園でとれたコーヒーを堪能できる(時期によっては品切れのことも)。そのお値段はなんと1杯2000円。これが高いか安いかはそれぞれの人の価値観だが、「その値段でないと出せないのが現実」と話すのは、代表取締役の又吉拓之(またよし・たくゆき)さん。実はこの値段、沖縄コーヒーとしては特に高いものではない。ちなみに、東京都内では「白金台珈琲 Kuromimi Lapin(クロミミラパン)」でも又吉コーヒー園のコーヒーが飲めるが、もう少し高い。

沖縄コーヒーと又吉コーヒー園の代表取締役の又吉拓之さん

又吉コーヒー園代表取締役の又吉拓之さん

こだわりのコーヒーづくり

又吉コーヒー園でコーヒーの木を最初に植えつけたのは2014年、コーヒー園の看板を掲げたのは2016年のことだった。
かつてはバラ園。2005年にカフェや宿泊施設を整え、観光農園として運営していた。父はもともとツツジなどの植木を扱っており、育苗や挿し木の技術もある人だ。その父が植木市でカトゥアイという品種のコーヒーの苗を見つけ、100本ほど買ったのがコーヒー栽培の始まりだったのだという。

同園の特徴は、金属製の支柱と遮光ネットだ。ネットを張るための屋根の支柱となるパイプを2.5メートル間隔で立て、その根元にコーヒーの苗を植え、木をパイプに結び付けて台風の影響から守っている。又吉さんによれば、「昔、台風に遭って廃業を余儀なくされた農家さんがいたと聞きました。そうした被害を未然に防ぐために、最初からネットハウスで育てることにしたんです」とのこと。2023年の台風では大きな被害を受けたものの、全滅は免れた。もしネットハウスがなかったら破滅的な被害につながっていた可能性もある。

又吉コーヒー園のコーヒーの木は台風被害を防ぐためにネットで覆われている

又吉コーヒー園のコーヒー畑。遮光ネットが部分的に張られている

植えられているコーヒーの品種は、世界中で栽培されているブルボン種が8割以上、残りは主にブラジルで栽培されているカトゥアイ種だ。日陰はあえて作りすぎず、日差しを遮りすぎないようにしているのだという。「最初はコーヒー栽培の教科書通りに直射日光が当たらないようにしていたのですが、あまり生育が良くなかったんです。その点、世界最大の生産国ブラジルでは巨大な畑に植え付けて日光を遮らずに育てています。それを参考に直射日光もある程度は当てるようにしたら、実のなりは以前よりも良くなりました」(又吉さん)

収穫されたコーヒーの実 イエローブルボン

収穫されたコーヒーの実・コーヒーチェリー。通常は完熟すると写真右側のように真っ赤になるが、イエローブルボンという黄色く色づく品種(写真左)もある

また、収穫した後の精製にもこだわっている。精製とは、収穫したコーヒーの実から豆を取り出す工程のこと。外国では農家はコーヒーの栽培のみを担当して収穫後は業者に任せてしまうのが一般的だが、沖縄は違う。焙煎(ばいせん)できる生豆の状態まで、一気通貫で受け持つ体制を有する農家が多く、又吉コーヒー園もその一つだ。精製のやり方にもいろいろとあるが、「ウォッシュドプロセス、ナチュラルプロセスやハニープロセスなど、主要な精製方法は全て試しています」と又吉さん。精製方法ごとに気温や湿度などの条件を細かく変えていて、それによってコーヒーの味は大きく異なるそうだ。又吉さんは「おいしいコーヒーを飲んでもらうためなら何でもやる」と話してくれた。

又吉コーヒー園では様々な精製方法が試されている

さまざまな方法で精製されているコーヒー豆。精製の方法によってコーヒーの味は大きく変わる

沖縄でコーヒーを作ることは簡単ではない

沖縄は、夏場の気温が上がりすぎず、冬は比較的暖かい。コーヒーは熱帯・亜熱帯で育つ植物なので、日本国内において沖縄はコーヒー生産に最も向いている地域の一つだ。それでもいわゆるコーヒー生産国と比べると苦労することも多い様子である。

又吉コーヒー園が抱えている最大の課題は収量だ。同園においては、コーヒーの木1本あたりからとれるコーヒー生豆は100グラム程度。他の国に比べると半分にも満たない収量だと又吉さんは話す。収量が伸び悩んでいるために、園内のカフェですら季節によっては手持ちの生豆がなくなってしまうのだという。
沖縄コーヒーを育てている又吉コーヒー園の代表取締役の又吉さん

「収量を上げるためにいろいろな方法を試しました。研究者の先生方にアドバイスを何度もいただきましたが、それでも増えません。海外の情報も集めてみたものの、気候や土壌が違いすぎるためか解決策にはつながっていない。情報をうのみにするのではなく自分自身で試行錯誤することが大切だと気づいて、考えられる策は全て試してきました」(又吉さん)

いま取り組んでいるのは、栽培本数の増加だ。1本の木からとれる実に限界があるのなら、たくさん木を植えればいい。そう考えた又吉さんは、コーヒーの木を追加で植えることにした。しかし、「苗木を育てるのも簡単なことではありませんでした。まずは海外情報をまねして植えてみたものの、すぐに枯れてしまう。解決策を探している状態です」という。

コーヒーの苗木がビニルハウスの中で育てられている

又吉コーヒー園で育てているコーヒーの苗木

ただし、苗木を育てることについてはノウハウが徐々に蓄積されてきていて、成果が出つつある様子だった。コーヒーの苗木を育てているビニールハウスを実際に見学させてもらったところ、大量のポットに入った苗木が並んでいた。実は、育苗で悩んでいるコーヒー農家は多く、「苗を買いに来る方が全国からいらっしゃいます」とのこと。苗木の販売もビジネスとして回していて、又吉コーヒー園で生まれた苗が日本各地で根を張る日も近そうだ。

沖縄コーヒーの可能性を探る

又吉さんに沖縄コーヒーの魅力について聞いたところ、「一言で言うと、クリーンさです」と返ってきた。クリーンさとは、コーヒーの品質の基本となるもの。えぐみのない透明感のある液体がクリーンであるとされている。こうしたクリーンなコーヒーを実現するためには、熟しすぎた豆や未熟豆を手作業でコツコツ取り除かなければならない。要するに、手間ひまをかけて丁寧に仕上げられたものだけが「本物の」沖縄コーヒーだというのが又吉さんの考えだ。

今回、又吉コーヒー園でとれた沖縄コーヒーのテイスティングもさせてもらった。雑味やえぐみが少なく、黒糖のような甘みの中に、ライムのような酸味が立ち上がる。時間がたって冷めてくると、ワインのように熟成された深みのある香りも強く感じられるようになる。魅力的な一杯だと筆者は感じた。

コーヒーの木が育てられているネットハウスの遠景

コーヒーの木が植えられているネットハウスの遠景

又吉さんによれば、「かつての沖縄コーヒーは、瓜(ウリ)っぽい味がして飲みづらいと言われていました。時々飲みやすいものがあったとしても、『薄っぺらい』という評価を下されることも多かった」という。世界中には、コーヒーが自然に生えているような場所もあれば、コーヒー栽培の教科書に載っているような標高の高い場所もある。そうした土地に比べれば、沖縄では台風の被害など乗り越えなければならない独自の課題が多くある。

研究を重ねた又吉さんが見いだした突破口が、上述したような複数の精製の方法だった。それまで多く行われてきたウォッシュドプロセス(豆を水に浸し発酵後、洗浄し乾燥させる方法)だけでなく、ナチュラルプロセス(果肉がついたままの実を乾燥させ豆を取り出す方法)も含めて行うことで沖縄コーヒーの可能性を開花させられると又吉さんは仮説を立てた。実際にナチュラルプロセスでコーヒーを精製した結果、飲み手の評価を大きく変えることができたと又吉さんは自負している。

沖縄コーヒーの未来について、最後に聞いてみた。「沖縄コーヒーをこうしたい、といった目標はありません」と又吉さんは言い切る。その代わり、「沖縄コーヒーの味ってどこまで広がるのか、それを追い求めてみたい。嗅いだことのない香り、飲んだことのない味を、沖縄コーヒーなら表現できると期待して試行錯誤を続けています」と締めくくった。

OKINAWA CLOSE-UP FOODS
又吉コーヒー園

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