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農業の多角化で中山間地に人を呼び戻す! 農福連携が地域にもたらした活気

農業の多角化で中山間地に人を呼び戻す! 農福連携が地域にもたらした活気

農産物の生産・加工、飲食店の経営まで幅広く事業を展開している農業関連企業は全国にある。しかし成功している事例ばかりではないのを見ると、そうした農業から派生した事業の多角化は、そう簡単ではないのだろう。そんな中、社会福祉法人青葉仁(あおはに)会は農福連携に早くから取り組み、地域で複数の飲食店を展開するなどして成功をおさめている。今や地域にとって欠かせない農業の担い手となり、人々が集う場所を支える同会の農福連携の取り組みを取材した。

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“あをによし”奈良の山中の社会福祉法人

「あをによし」とは和歌などで使われる枕ことばで、「奈良」を修飾する。この枕ことばからその名がつけられた社会福祉法人が「青葉仁会」だ。その畑「あおはにファーム」は奈良市の東部、三重県との県境に近い大和高原にある。茶畑や田んぼが広がる風光明媚(めいび)な場所だが、中山間地で交通の便も悪く、過疎化や高齢化も進んでいる。この地を中心に青葉仁会は就労継続支援B型事業所やグループホーム、入所施設など、さまざまな福祉事業を展開している。
その一環として同会が重視しているのが、農福連携だ。

青葉仁会の農福連携マップ

青葉仁会での農福連携の取り組みに関する場所を示すマップ(画像提供:青葉仁会)

青葉仁会は1980年、養護学校の元教員たちが発起人の任意団体として発足した。当時、養護学校を卒業していく生徒たちが働く場は少なく、社会参加の機会がなかなか得られなかったことから、その課題を解決することが目的だった。
今の法人本部がある杣ノ川(そまのかわ)町に土地を購入したのは1986年。杣ノ川町はもとは茶やコメの栽培など農業の盛んな地域だった。青葉仁会でも園芸療法のような形で農業をやってみようと、周りの農家の畑を借りてサツマイモの栽培を始め、次第にハーブなども育てるようになっていった。
社会福祉法人としての認可を得たのは1991年。その後、障害のある人たちの働く場としてカフェレストラン「ハーブクラブ」を開店し、そこで畑で作った農産物を使い始めた。

青葉仁会ハーブクラブ

現在のハーブクラブのランチ(画像提供:ハーブクラブ)

規模が急激に大きくなったのは今から20年ほど前。法人本部周辺に茶畑があったのだが、そこの農家が高齢のため農業を続けられなくなり、青葉仁会がその土地を借りたことがきっかけだった。その一部をブルーベリー畑に変え、取れた作物を加工するほか、一般客がブルーベリー狩りを楽しめる体験型の農園を開いた。

青葉仁会のブルーベリー

あおはにファームのブルーベリー(画像提供:青葉仁会)

そうした様子を周りの農家が見ていて、農地を引き受けてほしいという要望を受けるうち、どんどん農地は増えていった。今では法人全体で管理する圃場(ほじょう)は7ヘクタールほどだ。ブルーベリーだけでなく、季節の野菜やハーブ、サツマイモやコメも主力品目になっている。

青葉仁会の農作物

あおはにファームではさまざまな作物が育てられている(画像提供:青葉仁会)

農業現場で働くことが利用者の成長につながる

青葉仁会は、「働く・暮らす・余暇支援」の3つを大切にして支援を行っている。特に「働く」に関しては、農業に関連する部分が多くを占めている。

就労支援の責任者である井西正義(いにし・まさよし)さんによれば、こうした仕事の多様な選択肢があることが非常に重要なのだという。
「青葉仁会では障害の種類や程度に関わらず、『働く』ということを大切にしています。利用者さんは仕事があることで社会とつながり、使命感や責任感が持てます。また、仕事を通じて他人からの評価とか指摘などを受けることで、一人の大人として成長していける。それが合理的で効果的な障害者支援であると、私たちは考えているんです」

働く青葉仁会の利用者

コメの袋を運ぶ利用者(画像提供:青葉仁会)

たとえば、はた目から見て働くことが難しそうな人も、仕事の場に出てきて周りの利用者が働くのを見ているだけでも「働いている」とみなすそう。
「もしかしたら、働くための準備として様子をうかがっているのかもしれない。働く場にいることでほかの人がやっていることに興味を持ち、自分もやろうかなという意思が生まれるかもしれない。だから、見ているだけでも大事な仕事です」(井西さん)

農業は細かく分けるとさまざまな作業がある。作業の選択肢があることで、利用者一人一人に合った仕事が生まれる可能性がある。そして、その仕事を通じて利用者の変化もたくさん見られたと井西さんは言う。
「私たち職員は支援の必要性に応じて、利用者さんに仕事をお勧めします。ある人は他人を傷つけるような強度の行動障害があったのですが、種を植えて芽が出たところでポットに移し替える作業がすごく得意になりました。すると、これまで問題だとされていた行動障害が治まってきたんです。できる仕事を発見して一生懸命取り組み、その働きを人からあてにされ、評価される。その繰り返しが人を変えていく可能性があるのだなと感じた事例でした」

この他にも、長年引きこもっていた人が、職員の声掛けをきっかけに外に出て農作業に携わるようになり、今では毎日畑に出てくるようになったことなど、多くの利用者にとって農業が良い影響を与えた事例があることを井西さんは語ってくれた。

青葉仁会の利用者

あおはにファームで働く利用者の皆さん(画像提供:青葉仁会)

青葉仁会の利用者は全部で420人ほどで、そのうち農作業に関わっているのは100人ほど。
250人ほどは加工の業務に、残りは飲食店での接客などにあたっている。つまり、農産物を加工する現場が一番仕事を生んでいるということになる。井西さんによれば、「仕事を増やすために、ほとんどの農産物は青果の状態で売ることはなく、加工して売っている」そうだ。

青葉仁会の加工場

加工場の様子(画像提供:青葉仁会)

そんな加工の現場からは、これまで40人ほどの利用者が一般企業に就労して卒業していったそうだ。その就職先にはほとんど食品加工の会社はなく、別の仕事であることも多いというが、非常に定着率が高いという。その理由を井西さんに聞くと、とてもシンプルな取り組みの成果だとわかった。
「私たちは別に農業や加工技術の上達だけを目指しているわけではありません。それより、支援の中で“リアルな仕事の現場”を体験してもらうことを大切にしています。例えば、一般の会社と同じように、『わからないことは聞く』『きちんと報告する』『同僚と協力する』『基本的な挨拶をきちんとする』といったことができるようになることを心がけてもらっています」
もちろん、それぞれの利用者の頑張りによって就労を継続できているわけだが、その背景には、福祉現場といえども普通の会社と変わりない環境で適切な支援をしてきた青葉仁会の職員たちの頑張りもあると言えるだろう。
今後は青葉仁会の中で利用者の雇用もさらに進めていきたいと井西さんは意気込みを見せた。

加工品を通じて日本中のノウフク関係者とつながる

いま、青葉仁会で力を入れている農産物は干し芋だ。原料となるサツマイモは同会で作っているものを使用するほか、他の農家が作ったサツマイモの加工を請け負うこともある。こうした加工品を通じて、農福連携の取り組みを多くの人に広めることにつなげている。

干し芋

店頭に並ぶ干し芋(画像提供:青葉仁会)

このほか、他の農福連携事業所と一緒にイベントを開催したり、ノウフクマルシェに出店したりと、農福連携の農産物や加工品を販売する場に積極的に参加して売り上げを上げている。また、全国で農福連携に取り組む事業者の加工品を青葉仁会の店で販売したり、逆に青葉仁会の農産物を別の事業所に販売してもらったりして互いに協力をしている。
井西さんはこうした“仲間”を増やしていき、もっと農福連携を世に広めていきたいと話す。
「農福連携という取り組みを伝えるだけでなく、加工品などの製造を通じて障害のある人たちが実際に社会の一員として社会を動かす存在になっていることを伝えていきたいと思っています」

ノウフクマルシェ

ノウフクマルシェに出店(画像提供:青葉仁会)

中山間地を再生し、人を呼ぶきっかけの場所に

青葉仁会の存在は、地域に活気をもたらしている。
本部の立地がかなり不便な場所であることは冒頭に触れた。しかし、同会ではこの周辺にパン屋やカフェなどさまざまな飲食関係の店を出店しており、それらを目がけて多くの人がやってくるそう。
「奈良市内から三重・名古屋方面に向かう道沿いにも青葉仁会が経営する飲食店が3店舗あり、店舗自体やそこで働く利用者の皆さんの雰囲気を気に入ってくださった方が、何度もリピートしてくれています。おかげで週末だけでなく平日にも多くの来店客があります。私たち以外にも地域の農家さんが野菜の直売を始めるなど、この山間の地域がにぎやかになってきました。また、高齢化が進む住宅地域で廃業したスーパーマーケットを福祉施設に改装して飲食店を始めたところ、地域の人たちが集まる場所にもなりました」(井西さん)

青葉仁会が最初に幹線道路沿いに出店したカフェレストラン「ハーブクラブ」(画像提供:青葉仁会)

そして、青葉仁会で働く多くの職員も、活気のもとになっている。現在、正規職員が約120人、パート職員が約220人の大所帯。青葉仁会の理念に共感して、法人本部の近くに移住してきた職員もいるという。こうした職員たちの定着を図るため、青葉仁会では就業環境も整備し、働きやすい職場を作るようにしている。
「組織が大きいので、職場には必ず先輩がいます。その先輩から常にサポートが受けられることが若い職員の安心感につながっているようです。一方で、職員の創意工夫が反映される体制になっています。そうした自由度とサポートのバランスで、人が育つ環境が作れているのでは」と井西さんは自信を見せた。

また、青葉仁会に農地を貸したり売ったりした農家が、パート職員として同会で農業の指導にあたることもある。そのおかげで農業生産の技術が向上するというメリットがあるが、それ以上に地域の人と利用者が触れ合うというのも、互いにとってとても良い影響を与え合っているようだ。

ノウフクで障害のある人の働く場をもっと作れる

青葉仁会は長い歴史があるだけに、本稿ではとてもその取り組みを全て紹介しきれない。ただ、これまでのさまざまな取り組みが評価され、農福連携の優れた事例を表彰する「ノウフク・アワード2023」のグランプリとなったことには触れておきたい。このことに関して井西さんに感想を求めると、少し意外な答えが返ってきた。
「このノウフク・アワードにエントリーした事業所に社会福祉法人が少ないことが気になったんです。つまり、新しくできた株式会社などの事業所のほうが、こういう挑戦をする勢いがあるんだなと。一方で、私たちみたいな社会福祉法人は昔から地域に根差しているところが多い。だから、昔からある社会福祉法人がもっと農福連携などの地域課題の解決につながる事業に取り組めば、障害の有無に関係なく、多くの人が活躍し幸せを感じられる社会を作っていけるのではないかと思います」

地域に根差した農福連携を続けてきた結果、障害者福祉だけでなく地域活性も実現した青葉仁会。同会のような農福連携の取り組みが進めば、日本のあちこちで広がる過疎や高齢化の問題も解決に向かうのかもしれない。

青葉仁会本部

青葉仁会本部(画像提供:青葉仁会)

社会福祉法人 青葉仁会
ノウフクWEB
日本基金ウェブサイト

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