生産現場だけでなく、流通現場の労働力も産地の競争力に欠かせない
JAならけん西吉野柿選果場は延べ床面積8,410.22㎡、鉄骨2階建ての選果場で、出荷量は約14,000tにもなり、220名ほどのスタッフが働いています。近隣地域にあった4つの選果場が一つになり、平成11年に設立しました。
設立当初より選果場の繁忙期である9月中旬から12月初旬までは選別作業や箱詰作業を行う地元の季節雇用者を雇い入れていましたが、5年ほど前から人材派遣会社を活用して域外からも季節雇用者の受け入れを開始しました。
JAならけん西吉野柿部会の部長を務める田中直樹さんは、
「季節雇用者の確保は以前から容易ではありませんでしたが、最近は特に厳しい状況が続いていました。コロナ禍が収束して観光や外食業界が復調し、地域内外問わず労働人材が集まりにくくなった上に、人材の高齢化による労働力の低下も課題でした。生産と流通(選果場)は柿産地の重要な要素であり、どちらで労働力が不足しても産地の競争力を失うことになりかねません。私たち地域の生産者組織とJA、行政など関係機関が連携して生産現場や共同選果場の状況を整理し、継続して雇用できる体制を構築していくことが必要だと思いました。」と話します。
田中さんたちは課題解決の取組として、国の支援事業である農業労働力確保支援事業への参画を決意。令和5年の9月より、まずは選果場の被雇用者へのアンケートを開始しました。
農繁期の産地間連携によって安定的な人材確保が可能に
取組に携わったJAならけん西吉野柿部会のメンバーは、それぞれ現役の柿農家。生産作業の傍ら、各メンバーが役割分担しながら進めていったそうです。
「事前に行っていた生産者へのアンケートでは、各生産者の労働力不足の時期や期間、作業内容について確認し、労働力確保に関する貴重な意見を吸い上げることができました。今回は被雇用者へのアンケートだったので、雇用者の属性や求職者のニーズの把握に努めました。域外から来る季節雇用者に関しては、思っていた以上に農業の業界未経験者や就労期間の空いている人が多かったので、今後募集するターゲットを広げる上で参考になりましたね。」
職場で重視するポイントとしては労働環境や人間関係等、働きやすさを選ぶ傾向があり、これらのデータを今後の環境作りに活用していきたいと話す田中さん。メンバーの一員で人事労務関係を担当していた東源明さんと岡本祥明さん、農家の青年部とのパイプ役を担った福本久晃さんも、地元の季節雇用者と域外から来る季節雇用者のどちらもが満足できる職場の環境整備の必要性を感じたといいます。
またこれまで行っていなかった新たな取組の一つが、他産地・他産業との連携による労働力の確保です。北海道や沖縄などの産地を訪問して連携協議を行い、募集チラシの配布協力などを依頼するなど、今後も連携強化に向けた取組を進める予定です。
「北海道のJAとの連携で2名の季節雇用者を確保することができました。新たな派遣会社も紹介してもらい、北海道からだけでなく長野からも11名の季節雇用者を確保しました。さらに、西吉野で就労後には沖縄の連携先へ繋ぐというリレーができたのは大きな成果ですね。沖縄で働いたあと、もう一つの柿の農繁期である春の摘蕾期に西吉野に来てもらえるように勧誘しています。農繁期の違う各産地が連携することで、より安定した人材確保が可能になると思います。」と、田中さんは産地間連携に確かな手応えを感じています。
外国人スタッフの受け入れや若い世代に向けたPR活動も
外国人スタッフの受け入れも新たな取組の一つです。今期は埼玉の青果センターで外国人労働者による野菜や果実の梱包作業を請け負っている会社と連携し、6名の外国人スタッフを確保することができました。田中さんは、
「外国人スタッフの受け入れは初めてでしたが、言葉の壁などの大きな問題もなく、上手く稼働してもらえたと思います。域外から来る季節雇用者は全体的に年齢が若く作業スピードも早いので、今後も受け入れを増やして効率的な運営を目指していきたいですね。」と人材確保の新たなチャネルに期待を寄せます。
また、今後は求人チラシやWebサイトでの募集に加え、SNS等を活用した積極的な情報発信を展開したいとしています。さらには、新たな労働者へ園地や選果場を知ってもらうための紹介動画の制作など、次年度以降の募集に向けた準備は着々と進められています。
「近隣の大学と連携して短期間アルバイト募集を行うなど、若い世代を意識したPR活動にも取り組んでいきたいです。」(田中さん)
移住につながるケースも。季節雇用者の確保を通して西吉野の魅力を全国に発信
今回一緒にお話を伺った奈良県農業協同組合の南岡秀樹さんと中嶋章喜さんは、
「西吉野柿選果場でも地元で確保できる季節雇用者の高齢化が進んでおり、より広い範囲から人材確保に取り組んでいかなければならない状況でした。柿部会の皆さんは選果場作業員の募集から採用、労働環境づくりまで中心となって取り組んでおられます。農協としては関係機関を紹介したりと、必要なサポートを通して取組を支えていきたいです」と話します。
西吉野柿選果場の全国的な認知度は高くないものの、就労したスタッフの中にはこの地を気に入って移住してきた方もいるそうです。移住者獲得のチャンスも生まれる産地間連携の取組。農繁期の人手不足にお悩みの産地は、是非取り入れてみてはいかがでしょうか。
【取材協力】
JAならけん西吉野柿部会
奈良県農業協同組合
【農業労働力産地間連携等推進事業に関するお問い合わせ】
株式会社マイファーム
農業労働力確保支援事務局
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