売れ筋No.1はミニトマトの先駆け
――貴社で扱う最も売れ筋のトマトは何でしょう?
一番量が出るのは、赤くて丸く小さい一般的なミニトマトの「サンチェリー・シリーズ」。1980年代に日本のミニトマトの先駆けとして流通した「サンチェリー」という品種のシリーズです。当時の野菜売り場に並んでいたのは、ほとんどこの品種だったとも聞いています。
この品種を開発した当時は、トマトといえば大玉トマトでした。ミニトマトは、お弁当にそのまま切らずに入れられて、汁も出ず、彩りもいいということで広まりました。
サンチェリーはおいしくて、日持ち、粒ぞろいがいいです。全国の産地の気候の違いに対応できるよう、いくつもの種類を作り、農家に選んでもらっています。例えば、「サンチェリー519」は、パイプハウスでの越冬作に適しています。「サンチェリー720」は、樹勢が強く節間が長いので、高軒高ハウスでの密植栽培に向くといった具合です。2品種とも、トマト栽培で問題になる多くの病気への抵抗性や耐病性を持っています。
一般的なトマト、ミニトマトといわれて思い浮かぶような品種は、生産性を重視した育種をしています。大玉トマトだと、「豊作祈願」という品種がそうで、病気への抵抗性があり、味と着果(※1)が良好です。食味がよく、より栽培しやすい「豊作祈願1102」は、家庭菜園にも向く品種として販売しています。
※1 実が付くこと
イチ押しは「トマトベリー」
――特徴のある、おすすめのトマトはありますか?
イチゴのような形で甘い「トマトベリー」シリーズです。トマト嫌いになる理由に、特有の青臭さや酸っぱさがあります。トマトベリーはそうした青臭さがなく、糖度と酸味のバランスがいい。トマト嫌いの子でも、可愛らしい形で思わず食べてしまって、おいしかったので、それをきっかけにトマトが好きになったということも聞きます。
2006年の発売以来、赤色だけだったんですが、2024年にオレンジ色の「トマトベリー・オレンジ」(冒頭写真)を新たに出しました。こちらは夏でも着果がよく、トマトベリー譲りのおいしい味です。
色違いを混ぜて売り場を華やかに
――見栄えの点で、色違いがある方が売りやすいですか?
そうですね。色違いを混ぜると、それだけで華やかな感じになりますから。
トマトベリーは発売当初から、色違いがほしいと言われていたんですが、なかなか形と色と食味がそろったものができなくて……。ようやくオレンジ色を世に出せました。
色違いがあるミニトマトであっても、単色で売る農家もいます。オレンジだと混ぜなくても、単色で売れますね。
――パプリカだと赤、黄、オレンジとあるなかで、赤が一番売れると聞きました。ミニトマトはどうなのでしょう?
やはり、なじみのある色の方が売れますが、オレンジは単色でも比較的手に取られやすくなっている印象があります。
カラフルなミニトマトのシリーズでは、「サプリガールズ」や「サンカラフルコレクション」があります。
変わった色だと、白に近いクリームイエローの「サンシトロン」があります。メインとなる色のミニトマトがあって、差し色のような感じで同じ袋やパックに入っているときれいです。
サプリガールズのなかで最も人気があるのが、緑色の「ミドリちゃん」。単色でもきれいなんですが、8個に対して2個くらい入っている方が、サラダといった料理で盛り合わせたときに引き立つ印象があります。見た目と味のギャップが大きく、緑色で硬くて酸っぱいと思いきや、甘くてジューシー、酸味とのバランスもいいので、驚かれることも多いです。
地域でほかにない品種は固定客につながり得る
――当サイトの読者には直売所に出す農家も多いのですが、販売でこんな方法もありますよ……というのがあれば、教えてください。
「この地域ではこの人しか作っていない」といった強みのある品種を作ると、固定客が付きやすいところはありますね。特徴のある品種をおいしく作りこなせれば、固定客が付いて安定した収益源となる可能性はあります。
特に、通常と形が違う品種は、手に取る消費者も覚えやすいです。トマトベリーがそうですし、「フラガール」もそうですね。
フラガールは、実の中央がウェストのようにキュッと細くなっていて、ほかにはない形です。甘くて躍り出したくなる食感ということで、フラガールという名前を付けました。色違いでオレンジ色の「フラガール・オランジェ」もあるので、2色を組み合わせて販売することもできます。
ヘタ離れがいいので、ヘタなしで出荷する生産者もいます。
ヘタがない方が売れやすい?
――ヘタが付いている方がいいわけではないんですか?
そういうわけでもないんです。
鮮度を見極める参考になるということで、日本ではミニトマトはずっとヘタ付きで流通してきました。ただ、ヘタがついていると、実を保つためにヘタからも微妙に養分の転流(※2)が起きるんだと思うんです。ヘタの方が実よりも早くしおれるので、実の鮮度は十分なのに、ヘタを見るとフレッシュじゃない感じがすることが、ままあります。
ですから実際には、ヘタがない方が見た目の変化もないし、販売のうえでいいと思うんです。
※2 養分が移動して他の部位に送られること
欧米だと房どりして、ヘタだけでなく茎まで付いた状態で流通することもあります。長距離の輸送に対応するのと、収穫作業の省力化によるところもあるようです。
国内に話を戻すと、ヘタなしに適性のある品種の青果も流通し始めていますから、これから変わっていく感じはしますね。直売所に出荷する場合に、あえてヘタなしで出荷していますというようなメッセージをつけて出荷したら、固定客をつかむ一助にもなるのではないでしょうか。
次回の記事では、おすすめの栽培方法から省力化が可能な品種まで、近年のトレンドを踏まえた解説をお届けします。