「群馬で農業?! 農業参入セミナー」
参入企業と伴走者が法人参入のポイントを紹介
群馬県が主催し、群馬銀行、ぐんま地域共創パートナーズ(GRASP)共催により行われた「群馬で農業?! 農業参入セミナー」。セミナーでは県、高崎市、GRASP、そして日本農業が登壇し、法人による農業参入について紹介しました。
実際に市からのサポートを受け、この4月に高崎市で約10.7ヘクタールのキウイほ場を開園 した日本農業。この日は、両者がその取り組みを語る貴重な機会となりました。
群馬県の農業課題
セミナーでは冒頭、群馬県庁農政部農業構造政策課の桑原克也(くわばら・かつや)さんが、県の農業を取り巻く環境を紹介。高齢化が進む中、農業の担い手不足や遊休農地の増加が懸念され「地域農業の抱える課題解決に向けて、農業参入にチャレンジする企業が新たな担い手となることを県は期待しています」と語られました。
増え続ける法人数
さらにスクリーンに映されたのが「420倍」という数字。これは2002年と比べた2022年に農業参入した企業数(リース法人)の増加比(出典:農林水産省 )。2002年は10でしたが、2022年は4202まで増えています。リース方式による参入が全面自由化された2009年12月から比べても、およそ10倍となっており、農業参入法人が増え続けていることがデータからわかります。この日も、参入を検討する法人などが現地やオンラインで多数参加しました。
県は続いて、農地確保に関する法令や参入計画を立てる際に必要な考え方などを紹介。農業構造政策課や農業事務所への相談に役立つ「参入相談カルテ」 についても取り上げました。
課題を乗り越えるための農業参入ポイント
事例から知る事業計画策定
県からの説明後、日本農業による事例紹介に移りました。「日本の農業で、世界を驚かす」をミッションに2016年に創業し、生産から販売までを一気通貫で担う 同社。リンゴやサツマイモ、ブドウなど、さまざまな品目を手掛けています。特徴は海外輸出。輸出で得た収益により設備投資などを行い、収益向上が図れる栽培方法を導入し、さらに生産性を上げています。
そんな同社がキウイ栽培を検討したのは、国内で一定需要があるにもかかわらず、国内の生産者が減少傾向にあったためだそう。調べながら「国産地産地消のビジネスポテンシャルが高かった」ことから、同社はキウイの栽培を香川県でスタートします。
同社の新規事業開発部部長の奥山晃次(おくやま・こうじ)さんは次のように話しました。
「私たちが新しい品目を検討するときは、まずExcelベースで事業計画を作ります。例えば10ヘクタールを開園したときの売り上げ、人件費、設備費などを見ます。キウイはかん水設備を入れると、5億円ほどの初期投資が必要ですが、これを自己資金だけで賄うのはなかなか難しい。そこで補助金の活用を見据えながら集約された農地候補地を探していました」。事業を展開するうちに、高崎市と縁を持ち同市で開園するに至ったそうです。
農地検討に役立つ行政からの支援
日本農業の事例紹介に続き、セミナーは高崎市農政部農林課課長の吉岡雄一郎(よしおか・ゆういちろう)さんによる「農業参入受入支援紹介」へ。
「高崎市6次産業化等推進事業補助金 」や「高崎市ブランド商品開発事業補助金 」など、具体的な補助内容が語られました。一例として、高崎市ブランド商品開発事業補助金 は5分の4以内(上限200万円)という手厚い内容だそう。高崎市での農業参入の際には活用を検討してみるといいでしょう。
加えて「高崎市農地再生推進事業補助金 」についても紹介。同事業は、荒廃農地を再生活用する農業者を支援します。日本農業のキウイほ場も元は荒廃農地であり、この事業を活用して農地を再生させました。
また、市は農地利用における地権者交渉の難しさについても強調。未利用地だとしても利用条件や権利関係、さらには個人としての心情などから、交渉がとん挫することもあり得ます。特に地縁がない場合などは難易度が増します。そこで市は複数の候補地を示したり、地権者との接点づくりや、交渉の場をセッティングするなどの支援を行うこともあるそうです。
先の事例紹介の際に、奥山さんも「行政のサポートがあったからこそ、農業関係者や地権者にも安心していただけたと思う」との実感を語られていました。
農業参入では補助金の確認も重要
セミナーの最後に登壇したのはGRASP です。「人々と共に地域社会を創る」をコンセプトとする同社。地域活性化と経済合理性を両立させつつ、地域共創事業において「1次産業の活性化」に取り組んでいます。
10ヘクタール以上の大規模農地での営農を目指す人へ向けてファイナンス(資金調達)の重要性を話したのはGRASPの地域共創事業部マネージャーの上杉和己(うえすぎ・かずみ)さん。農業は設備投資などによる初年度の資金負担が重く、かつキャッシュフローの最大化・安定化には時間がかかります。長期・短期のキャッシュフローを見据えた、成長ステージごとの資金計画は不可欠。そこで資金計画例や、金融・行政・企業の連携スキームなどについて説明がありました。
最後に「一次産業への参入にご興味を持った方がいらっしゃいましたら、ぜひセミナー登壇者へご相談いただければと思います。未来ある地域を共に作っていきましょう」と締めくくった上杉さん。
1時間のセミナー終了後は、名刺交換の場が設けられ、会場では個別相談が行われました。
“もうかる農業”に構造転換する「ニチノウ共創プロジェクト」
法人による農業参入の具体的な事例や手法が語られたこの日のセミナー。さらに日本農業では“もうかる農業”に構造転換する「ニチノウ共創プロジェクト」の第1弾として群馬県内で法人向けに農業参入のサポートを始めています。
群馬銀行、GRASP、高崎市と連携し、高崎市の農業活性化に向けた農業参入企業の誘致などに取り組みます。農業参入を目指す企業は、事業計画の立案から農地利用やファイナンスなど複合的なサポートが得られることでしょう。
4者連携のプロジェクトにより、今後の法人による農業参入の活性化と、地域農業の課題解決が期待されます。