万願寺とうがらしとは?
万願寺とうがらしは、ナス科トウガラシ属の果菜類です。大正末期から昭和初期にかけて京都府舞鶴市万願寺地区にて、伏見系のトウガラシとカリフォルニア・ワンダー系のトウガラシが交雑され誕生したものとされています。
外国系トウガラシの血統を持ちますが、伝統的に生産され続けていることから、「京の伝統野菜」に準ずる野菜として、京都府が認証する「ブランド京野菜」に指定されています(1989年度認証)。また、限られた産地で栽培されたものは「万願寺甘とう」の名称で商標登録され、地理的表示(GI)保護制度にも登録されています(2017年登録)。
「万願寺とうがらし」はさまざまな地域で栽培されていますが、「万願寺甘とう」の産地は舞鶴、綾部、福知山(一部地域)の三市に限られています。
家庭菜園などで栽培する場合には、固定種の「万願寺とうがらし」を購入します。「万願寺甘とう」は商標登録されているので権利者以外は使用できません。
辛くないのが特徴
長さ10〜18センチの大型トウガラシで鮮やかな緑色をしています。収穫を遅らせて真っ赤に完熟させた「赤万願寺とうがらし」もあります。いずれも辛みはなく、果肉は肉厚でやわらかく、種が少ないことが特徴です。また、青臭さが少なくジューシーなので、子どもにも食べやすい緑黄色野菜です。
旬の時期は夏
初夏から夏が旬の夏野菜として栽培されています。収穫・出荷時期は5月中旬から9月中旬ですが、ハウス栽培ものも含めれば一年中出回っています。
全国各地で生産できる
京都府舞鶴市万願寺地区を発祥とする万願寺とうがらしは、もともと京都の限られた地域のみで栽培されていましたが、産地の縛りはありません。万願寺とうがらしを親とする栽培しやすい交配品種も次々と開発され、全国各地で生産されています。
ししとうとの違い
「万願寺とうがらし」と「ししとう」は、どちらも甘味種トウガラシの一品種ですが、その外見や食みには違いがあります。まず、その大きさ。万願寺とうがらしは長さの平均が10~18センチであるのに対して、ししとうは5~6センチと小ぶりです。万願寺とうがらしは先端がとがっていますが、ししとうはつぶれて丸みを帯びています。万願寺とうがらしが肉厚で種が少ないのに対して、ししとうは肉薄で種が多め。また、ししとうは栽培環境によって辛みを生じることがあります。
万願寺とうがらしの栽培方法
万願寺とうがらしは、苗も販売されていますが、市販の種からでも比較的育てやすい作物です。プランターでも栽培できます。寒さに弱いので、3月~5月に種をまき、気温が高くなる5月以降に植え付けをしましょう。育苗日数は種まき後65~80日です。高温に強く気温30~35℃でよく育ち、7月~11月にかけて収穫できます。
種まき・育苗
3月~5月がまきどき。育苗箱に深さ1センチの溝をつくり、種を1~2センチ間隔に筋まきし、5ミリほど土をかぶせ、たっぷり水やりをします。水やり後は夜温25~30℃で保温し、5~7日ほどで発芽するので、発芽後は夜温を25℃ぐらいに下げます。本葉が1~2枚になったら育苗ポットに移殖し、夜温20℃で管理します。
育苗ポットにじかまきする場合は、12センチポットに深さ1センチの穴をつくり2~3粒まき、5ミリほど土をかぶせ、たっぷり水やりをします。本葉が1~2枚になったら1本に間引きます。温度管理は育苗箱と同じです。
土づくりをして苗を植え付け
植え付けは霜の心配がなくなった5月ごろ。畑は定植の2週間前に苦土石灰をまいてよく耕し、1週間前に堆肥(たいひ)と元肥を入れて耕します。畝は幅70センチ、高さ15〜20センチにつくり、できれば黒マルチシートを張り、本葉が10枚ぐらいになったら植え付けます。茎が太く節間が詰まった苗を選びましょう。鉢根を崩さないように浅植えし、十分に水やりをして、倒れないように支柱を立てて誘引します。
プランターに植える場合は、市販の野菜用培養土を使います。
整枝
整枝は主枝の一番花が咲いてから、その下から出る勢いのよい側枝2~3本を残し、主枝とともに3~4本仕立てにします。
追肥・水やり
肥料切れしないように、9月までは月2~3回、液肥などの追肥を施します。乾燥を嫌うので夏場は水やりの回数を多くします。敷きワラをして保湿するのもいいでしょう。
収穫する
果実が10センチほどになったら、実が緑色の新鮮なうちに、ハサミで果梗(かこう)を切り取って収穫します。
万願寺とうがらしの調理の仕方
肉厚で柔らかく、種も食べられ、丸ごと調理できます。ボリュームがあるので主菜にもなる食材です。ピーマンのように油との相性がよく、炒め物や揚げ物に向いています。また、ししとうのようにシンプルに焼いても味わいがあります。素焼きにして、かつお節としょうゆで食べるのが、おばんざいの定番です。
種も食べられる
ピーマンやししとうのように種まで食べられます。種が苦手ならば、種とわたを取って調理します。種はへたの下についているので、へたの周囲に切り込みを入れてわたごとくり抜くか、へたを切り落として縦半分に切って取り出します。
冷凍保存がおすすめ
夏野菜の万願寺とうがらしは、寒さに弱いので、常温に置いて早く使い切るのが理想的です。すぐに使わない場合は、ラップで包んだ上から新聞紙で包んで冷蔵庫の野菜室で3~4日。
冷蔵よりも冷凍保存のほうが品質を維持できます。ヘタを残したまま冷凍用保存袋に入れて、3週間ほど日持ちします。
冷凍した万願寺とうがらしの調理の仕方
冷凍した万願寺とうがらしは、解凍すると水っぽくなるので、冷凍のまま調理します。冷凍することで、繊維がやわらかくなり、火の通りがよくなり、調味料もなじみやすくなります。実を切ったり、串を刺したりして使う場合は、水洗いをすれば半解凍になり、調理しやすくなります。
万願寺とうがらしのおすすめレシピ
万願寺とうがらしと相性のいい油で、焼く・炒める・揚げる、お手軽レシピを紹介します。しょうゆベースで甘辛く味付けするのが定番。ご飯が進みます。
万願寺とうがらし甘辛おかか炒め煮
万願寺とうがらしは、ヘタを取り、縦半分に切って米油で炒め、だし、みりん、砂糖、しょうゆを加えて炒め煮にします。煮詰まったらかつお節を混ぜ合わせます。
万願寺とうがらしの焼き浸し
フライパンにごま油をひいて熱し、万願寺とうがらしを並べて入れ、焼き色がつくまで中火で焼きます。めんつゆ(3倍希釈)、おろししょうがを合わせたタレに漬け込み、かつお節を散らしていただきます。
※万願寺とうがらしは焼く前に手で押しつぶすか、皿や鍋蓋(なべぶた)などで重しをしながら焼くと味が染みやすくなります。
万願寺とうがらしとじゃこ炒め
万願寺とうがらしは、種とわたごと食べやすい大きさに切ります。フライパンにごま油をひいてちりめんじゃこを弱火にかけ、万願寺とうがらしを入れて軽く炒めます。一旦火を止めてみりん、しょうゆ、酒(1:1:1)を加えて再び炒めて、白ごまを混ぜ合わせます。
万願寺とうがらしの肉巻き天ぷら
万願寺とうがらしはヘタを切り落とし、豚バラ薄切り肉で巻き、水で溶いた天ぷら粉をくぐらせて衣をつけ、中温(170~180℃)の油できつね色に揚げます。塩や天つゆでいただきます。
※万願寺とうがらしは切り込みを入れておくと破裂しにくくなります。
万願寺とうがらしと手羽先の甘辛炒め
手羽先は薄力粉を軽くまぶして油をひいたフライパンで炒めてごげ色をつけ、蓋をして弱火で加熱して火を通します。万願寺とうがらしを加えて、再び蓋をして弱火で4分。酒、しょうゆ、はちみつ(1:1:適量)を加えて炒め合わせて出来上がり。
※万願寺とうがらしはフォークで数カ所穴をあけておくと破裂を防げます。
生まれは京都で育ちは全国、ポピュラーな伝統野菜
万願寺とうがらしは、代表的な京野菜の一つですが、京都府では京の伝統野菜に準じるものとされています。歴史も比較的新しく、大正末期から昭和初期に誕生したとされますが、おばんさいに欠かせない夏野菜として根付いてきました。「万願寺甘とう」は、地域独自のGI産品に登録されているのに対して「万願寺とうがらし」は産地がオープン。全国各地で生産される、親しみやすい伝統野菜です。
肉厚で甘みのある食みに加えて、大型で形もユニーク。丸ごと種も食べられるので捨てる部分が少なく、いろいろな調理法で手間なくおいしく味わえることもその魅力。家庭菜園でも育苗時の温度管理と夏場の水管理ができれば、比較的育てやすいので初心者もぜひ挑戦してみてください。畑からキッチン、食卓まで、万願寺とうがらしを楽しんでみてはいかがでしょう。
編集協力:一般社団法人日本伝統野菜推進協会
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