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やっぱり需要が高い有機農産物。地域循環型の有機肥料づくりが価値のある野菜を生む

やっぱり需要が高い有機農産物。地域循環型の有機肥料づくりが価値のある野菜を生む

全国の農場を渡り歩くフリーランス農家コバマツです。今回は沖縄県で有機JAS認証を取得して野菜の生産や販売を行い、さらには一般消費者の農業体験を受け入れている生産者のもとにやって来ました。ここでは地域に根差した独自の肥料を作って野菜を育てているのだとか! 有機JAS認証取得のメリットなど、有機農家として展開する農業の可能性についていろいろと聞いてきました。

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亜熱帯地域の沖縄で有機栽培をするわけ

今回やってきたのは、沖縄県うるま市で有機野菜を栽培している「識名(しきな)農園」です。
この農園では有機JAS認証を取得した1.5ヘクタールほどの畑でトマトを栽培しているほか、ゴーヤー、オクラ、ヘチマ、インゲン、タマネギなどさまざまな野菜を生産しています。しかし暑い沖縄では害虫や病害が発生しやすいので、有機栽培は難しいと聞きます。そんな中、どのように有機栽培を実践しているのか、販路はどうしているのかなどを、園主の識名共史(しきな・ともふみ)さんに聞いてきました。

_識名さん プロフィール

識名農園園主の識名共史さん

コバマツ

識名さんは沖縄で有機JAS認証を取得して、いろんな作物を育てていますね! 暑い沖縄で有機栽培って難しいと思うんですけど、どうして有機栽培をすることになったんですか?
もともと父の代から特別栽培の認証を取得して農業をしていたからです。僕はそういう基盤があった状態からスタートしているんです。
実は僕、農業高校や農業大学校に行ったんですが、最初はあまり農業を継ぐ気はなくて。でも長男だし、やっぱり継がなきゃいけないのかなと思い、卒業後すぐに親元就農しました。そこから父と一緒に農業をやってきて、13年前に園主を引き継ぎました。

識名さん

ハウスのトマト

識名農園の主力品目であるトマト

コバマツ

お父さんの代から、特別栽培をしていたんですね! では、現在の有機JASに切り替えたタイミングはいつなんですか?
もともと、父が体が丈夫じゃなくって。僕も子供が生まれてからますます安心安全で体に良いものをつくるということを意識するようになっていきました。
それで、僕が引き継いでから有機JASに転換していきましたね。

識名さん

身近にあるもので自家製有機肥料を作る!

コバマツ

暑い沖縄は病害虫も多く、有機栽培は難しいんじゃないかなと思うのですが……。何か特別な技術やこだわりがあるのでしょうか?
うちの農園では、自家製の有機肥料で土づくりをしているんです!

識名さん

コバマツ

自家製の有機肥料⁉ どんなものを使って作っているんですか? 見てみたいです!
これが、サトウキビの煮汁と海水、魚のアラを混ぜて発酵させたものです!

識名さん

タラと糖蜜

こちらがサトウキビの煮汁と海水、魚のアラを混ぜた肥料。いかにも効果ありそう

1年発酵させたもの

1年発酵させるとこうなる。葉面散布やかん水で活用する

識名さん 肥料かき混ぜる様子

堆肥(たいひ)や液肥は自分達で作っているものも多いそう

たい肥山

こちらは魚や農園の残さ、チップなどを山積みにした堆肥所。なるべく農園や地域のものを使って堆肥を作っている

沖縄は島なので外から入って来たものに頼って生産することが多いのですが、なるべく島外に頼らずに、自分の農園や地域にある資源で肥料も作っていければと考えています。日本も島国なので、肥料なども高騰している今、そういった考えにシフトしていかなきゃいけないと思います。

識名さん

コバマツ

物価高騰やいろいろな社会情勢も考えて、有機栽培に限らず、地域のものを使って生産するという考えはこれから必要なのかもしれませんね!

沖縄で有機JASの需要は高まっている?

コバマツ

識名さんが有機JASを取得しているのは、沖縄で有機農産物の需要があるからなのでしょうか?
沖縄県内はまだまだ有機JASの認知度は低いですが、それでも最近は少しずつ認知が広まってきていると思います。最近は県内のスーパーや市場から「野菜を出してみないか」と声をかけられて出荷する機会も増えてきました。

識名さん

かねひで売り場写真

沖縄県内のスーパーでも有機の特設コーナーが設けられている

コバマツ

県内での認知は最近なんですね!
でもまだ県外への出荷がほとんどですね。父の代から出荷している生産者団体があり、その団体として県外に出荷しているんです。父は特別栽培の野菜を出荷していたのですが、消費者も「特別栽培」の表記だと普通の農産物と何が違うのかあまりピンとこないようで。
全国的にも特別栽培の売り場の枠が狭まってきているみたいなんですよね。なので僕は7年前に完全に有機JASに切り替えました。

識名さん

コバマツ

一農家だけでは出荷量が安定しないので、なかなか県外の業者と取り引きするのは難しいのではと思っていたんですが、団体なら県外に向けて出荷できるようになるのか! やっぱり有機JASの野菜は需要があるんですね!
そして、内地の野菜が店頭で品薄になる冬に出荷できるというのは、沖縄の農家の大きな強みですよね。さらに沖縄県内で有機JASを取得している生産者はまだまだ珍しいので、内地で有機JASの農産物が少なくなる時期に沖縄から供給できるというのは強みだと思います。

識名さん

コバマツ

確かに、冬に国内産を出荷できるだけでも強みになるのに、それを有機JASで出荷できるってすごく希少性ありますね! それは需要がありそうです!
県外と県内だと現在は出荷の割合はどれくらいなのでしょうか?
いまは、9:1で県外の方が多いですね。県外の方がマーケットが大きいというのもあるのですが、出荷する量も多いので、箱詰めして大量に送ることができて手間も少ないんですよね。県内向けだと一つ一つ手作業で袋詰めをしなければいけなくて手間がかかってしまいます。県内向けももっと販売したいのですが、今はそこまで手が回らないのが現状ですね。

識名さん

コバマツ

沖縄で有機JASを取得して売り先はどうしているのだろう?と疑問でしたが、生産者団体として出荷していて、安定した売り先と需要があるからできるんですね! 納得です!
でも、有機JAS認証取得は手続きなどが面倒じゃないですか?
僕も最初は取得するのに手間も時間もかかるし、効果はあるのか、と思っていたんですが、取得したら、県内県外からますます「うちでも販売してみないか」という声がかかるようになってきたんですよね。有機JASは売り方の一つの戦略だと思っています。認証があるのとないのとでは相手の反応が全然違うので。

識名さん

コバマツ

有機JAS認証取得は一つの基準というか、有機栽培をしている証明になりますもんね! 販売する小売業者側にとっては、そういった一つの伝えやすい証しがあった方が取り扱いやすいですよね!

今後の展望は?

コバマツ

今後の取り組みとしてやっていきたいことはありますか?
農産物は商品だけど、それ以前に僕たちの家族やお客さんが食べるもの、という意識で生産をしていきたいと思っています。
そして、誰でも、僕たちがやっているような有機栽培に携われるような形を作っていきたいと思っています。

識名さん

コバマツ

といいますと?
僕の農園で有機農業の体験などもやっていきたいんです。
うちに買いに来てくれた人がタマネギなどを植え付けし、収穫をしてそれを持って帰ってもらったり。そうすれば手伝ってくれた人は体験になるし、うちは人手不足の解消になる。
「有機栽培だったらやってみたい」という人も結構いるんじゃないかなと思っています。
以前、出荷している沖縄県内のファーマーズマーケットから依頼があって、ちょっとやってみたことがあるんですよね。そしたら意外と反響があって。
家族連れで子供もいたし、40~60代の人とかで孫にもこういう野菜を食べさせたいからという理由で来た人もいて。県内のあちこちの地域からいろんな人が来ましたね。

識名さん

体験者1

GWに行った収穫体験では県内から多くの人が訪れた

コバマツ

最近いろんなところでそういうのやってますよね。観光客向けじゃなくて地域の人向けでも需要があるんですね!
そこにプラス有機栽培で、とのっかったら、また裾野が広がると思うんですよね。
まずはやりやすい作業を任せて、最終的には植え付け、収穫、パッキング、出荷と、有機栽培の出荷まで一連の流れを体験してもらえるような仕組みを作っていきたいですね。
目的としては有機JASをやっている識名農園を知ってもらって「こんなふうに有機野菜を作っているんだ」というのを知ってもらえればと思っています。

識名さん

コバマツ

生産者だけじゃなくて、消費者も農作業の手伝いなど現場に関わる機会が増えていったら、有機栽培の価値もより理解してもらえますね! 識名さんのように地域にあるものを使って肥料を作るなど、より手間をかけた有機栽培に取り組んでいる農家さんと関わることで、消費者もよりその価値を深く感じるのではと思います!

沖縄県で有機栽培に特化した農園があると聞いたときは、「沖縄県内でそんなに有機農産物の需要があるのか?」と疑問に思いました。しかし、県内で有機栽培をしている生産者が団体を組み安定的に県外に出荷できているのを見て、沖縄の農業が全国の野菜の市場の一端を支えていることを実感しました。しかも、冬に安定的に出荷できる国産の有機JASの農産物はまだまだ珍しいので、国内の農産物の供給が減る時期に生産出荷できることは、沖縄の有機農家の強みです。
また、識名農園では有機JASの認証取得を農産物の販売や農業体験、さらには情報発信をしていく際に打ち出し、消費者の信頼を得ている様子も見て取れました。戦略的に認証制度を活用して有機農業の価値を打ち出すことの大切さがわかった取材でした。

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