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持続可能な農業モデルを南の島から全国へ! 社会情勢に振り回されない生産方法とは

持続可能な農業モデルを南の島から全国へ! 社会情勢に振り回されない生産方法とは

全国の農場を渡り歩くフリーランス農家、コバマツです。今回は石垣島に来ています。石垣島は沖縄県の県庁所在地の那覇から410キロ離れている観光で有名な島。農業も盛んで、石垣牛をはじめ、サトウキビやパイナップルなど多くの農産物が生産されています。そんな石垣島で、ある有名な企業が農業生産法人を設立し、地域に根付いた農業を展開しているそう。
どうしてわざわざ条件不利地域の離島で農業をすることになったのか、いろいろと聞いてきました。

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なぜ製薬会社が石垣島で農業?

今回やってきたのは石垣島。ここでとある大手企業が「やえやまファーム」という農業法人を作って運営していると聞いて取材に訪れました。その大手企業とは、目薬などで有名なロート製薬!
製薬会社がどうして条件不利地域である沖縄の離島で、農業に参入したのでしょうか。
観光地として人気の石垣島という名前を使って、観光客相手に農産物の販路拡大ができるという期待があるからでしょうか?
でも、大企業が参入することで、他の既存農家に影響はないのかな?
いろいろと疑問が湧いてきたので、代表を訪ねることにしました。

1_中家さんプロフィール

やえやまファーム代表取締役社長、中家勝則(なかいえ・かつのり)さんにお話を聞いてきました

コバマツ

やえやまファームは、あのロート製薬の子会社なんですね! どうして製薬会社が農場を運営するようになったのでしょうか?
製薬会社ではあるんですが、幅広く“健康”に関係する事ならば、なんでもチャレンジしていこうという思いをもっています。その中で健康にとって最も大切と言っても過言ではない食に我々はフォーカスし、食の原点でもある農業・畜産から参入しました。
健康には食は絶対必要不可欠じゃないですか。だから、食のことを考えると1次産業は外せないと思って農業に参入することになりました。
やえやまファームの理念は「人を良くする、人から良くする」。
心身共に健康でない人が、社会の事、未来の事まで考えるのはなかなかできる事ではないと思っています。だからこそ、人のからだの健康と心の健康が地球や環境の健康、そして良い未来にもつながっていくと考えています。

中家さん

コバマツ

健康と食、確かにつながりますね。それで、どうして石垣島を選んだんですか?
いろいろなご縁もありましたが、沖縄は世界的に見ても長寿のエリアで、そこには健康のヒントがたくさんあるのではないかと考えました。それに加えて、食を通してのからだの健康だけではなく、自然環境や人との交流、暮らし方とか、食以外でも人々が健康で豊かになれるヒントがあるんじゃないかと思い、沖縄そして石垣島で事業をスタートすることを決断しました。

中家さん

コバマツ

石垣島ではどのような農業をしているのでしょうか?
やえやまファームが主に農業生産を、関連会社の株式会社ケレス沖縄が食品加工品の製造・販売を担い、2社で6次産業化事業を行っています。
やえやまファームでは主に、有機パイナップルや、島トウガラシ、熱帯果樹、パイナップルの搾りかすを与えた「南ぬ豚(ぱいぬぶた)」や石垣牛など地域農畜産物を生産しています。

中家さん

2_有機パイン

日本国内では希少な有機パイナップル

3_パイン豚

パイナップルの搾りかすを食べて育った南ぬ豚

ケレス沖縄では石垣島でよく栽培されている「沖夢紫(おきゆめむらさき)」というベニイモを近隣農家さんにお願いして栽培していただき、自社工場でペースト化するなどの加工を行います。商品開発機能も社内に持ち、バターに島の農産物を混ぜ合わせた発酵バタースプレッドや、島の料理研究家と一緒に作った島トウガラシのスパイスなど、さまざまな新商品を開発しています。

中家さん

4_加工バター

ベニイモやシークワーサーを活用した発酵バタースプレッド

島で循環型農業をするワケ

コバマツ

農産物の生産から加工、販売まで石垣島の島内で手掛けているのはなぜでしょうか?
それは、今後の日本の経済や生活のモデルをこの島で作りたいと考えているからです。
外からモノを入れなくていいような生産方法を実践し、島で排出される残渣(ざんさ)も捨てずに活用して、できるだけ循環する仕組みを作りたいと思っているんです。
まずは、やえやまファームでそのモデルを作って、それを島内全体、ゆくゆくは日本全体に広げていきたいと思っています。

中家さん

コバマツ

それはすてきな循環のモデルですね。具体的にはどんなことをやっているんですか?
例えば、石垣島島内では泡盛メーカーが複数あり、泡盛を作る過程で泡盛の搾りかすがでるんですよね。それを僕らが引き取って、牛を育てるためのエサとして活用しています。そうすることで肉の脂のうまみ成分が増えて、おいしくなるんです。また、泡盛発酵飼料を与える事で牛の呼気中のメタンガスが大幅に低減することも分かってきています。
自社でパイナップルジュースを搾汁した後のパイナップルの残渣も廃棄するのに手間とお金がかかるので、自社で豚の飼料として活用することで、コストカットにつながる。コストカットだけではなく、おいしくなってブランディングにもなる。

中家さん

5_循環の図

やえやまファームの循環の図

コバマツ

廃棄するものを活用することで、島内事業者のコストカットにつながるだけじゃなくて、よりおいしいものを作り、かつ環境にもやさしい。環境的にも経済的にも持続可能ですね!
石垣島だけでもそれだけ活用できるものがあるんだから、日本全体で考えると、活用できるものがたくさんありそう……! それをお金をかけて廃棄するのはもったいないですよね。
石垣島は離島だから、飼料を買うのにも輸送費がかかります。だからこういう取り組みが重要性を増してくるんですよね。今は円安なので、同じような苦しい状況はどこの農家にも起きていると思うんです。
社会情勢に振り回されない持続可能な生産モデルを、まずはこの島から作っていきたいですね!

中家さん

コバマツ

無駄がなく持続可能な生産モデル、石垣島から日本全国に広まるといいですね。
やえやまファームでは農産物の加工も行っていますが、そこでも何か新しい取り組みをしているのですか?
地域の農家が作った農産物もうちが持っている加工施設などで加工をしています。農家の皆さんもJAに出荷するだけじゃなくて、うちに出してもらって商品化することで、自分たちの思いも届けられると思うんですよね。

中家さん

コバマツ

そういう取り組みって、農業だけじゃなくてそれ以外の産業にも波及すると地域にとっていいことありそう!
実は最近は僕が勝手に「Yaeyama Agri & Food loop構想(仮)」っていうのを掲げているんですが、そこに地域の人が少しずつ集まってくれているんです。
農業者だけじゃなくて、そこに飲食業、ホテル、行政、加工業者を集めて、情報交換でき、一緒に地域の6次産業化を考えるようなコミュニティーを作り始めています。

中家さん

コバマツ

農家って畑にいる時間が長くて異業種との接点が持ちづらいんですよね。そういった交流の拠点となるグループに参加することで、いろんなアイデアも生まれそうですね! 加工施設も農家が単体で持つのは時間もかかるし費用面でもハードルがあるから、農家の皆さんにとってメリットのある取り組みですね。今、取引している農家は何軒くらいなんですか?
もう多分数えきれないぐらいあるんですが、例えばシークワーサーやマンゴーの農家さんだと、30~40軒ぐらいかな。他にもパイナップルやベニイモも、ジュースやジャムを作ったりするために引き取っていますね。

中家さん

6_パインジュース

島内のパイナップル農家から仕入れて作ったパイナップルジュース

コバマツ

石垣島の中で6次産業化の中心的な存在になってきていますね!
一人の農家さんが販路を見つけたり、6次化をしたりするって実はとっても大変なことだと思うんです。食品加工は品質管理もしなければならないし、設備投資も必要。商品企画したり、販路を見つけるのにも、マーケティングの知識もそれなりに必要ですからね。
商品企画や開発技術や品質保証なども、その知識を持った人材が豊富にいる企業だからこそできることでもあると思うので、企業ならではの強みを生かして、地域農業に貢献していくことができればと思っています。

中家さん

コバマツ

離島だと、生産面だけではなく、輸送の問題も出てきそうですが、コロナのときはやっぱり販売面でも影響があったのでしょうか?
うちの商品は島内や沖縄本島のホテルで飲食物として提供されたり、お土産として販売されたりすることが多いのですが、当時は壊滅的でした。

中家さん

コバマツ

やっぱり影響があったんですね……。
そこで、コロナ中に考案したのが農園オンラインツアーです。
内地のバス会社と組んで、やえやまファームの農園を参加者の方に向けて配信して生産者のリアルを知ってもらうツアーをスタートさせました。リアルの農園ツアーだと、参加費が1人1時間1500円程度ですが、オンラインツアーでは事前に商品を5000円程度購入していただき、それを自宅で食べながらオンラインツアーに参加してもらいます。
オンラインでは参加者が100人でも同時に対応できるので、農家メンバーとしては繁忙期に時間が取られずに1回で50万円ぐらいの売り上げになるため、忙しい農家にとても良い手法を開発できたと思っています。コロナは大変でしたが、逆に1つの商品や事業に頼る危うさにも気づいて、いろいろと挑戦していくきっかけになりましたね。

中家さん

7_オンラインツアー

オンラインで生産現場について発信するやえやまファームの生産者

コバマツ

生産方法だけじゃなくて、そんなふうに継続的に販売できる方法も必要ですよね!

島の外から来る人の知恵やスキルも農場の発展につながる

コバマツ

今後挑戦していきたいことはありますか?
今後は、内地の人たちの知恵も借りて、島内で生産されたものがより高く売れるような取り組みもしていきたいですね。
最近、農場に働きにくる人も、内地でさまざまな経験を積んだ人が多いんですよね。農場で働いてもらいつつ、マーケティングや販売などの彼らのスキルも生かしてもらって、農場を発展させていけたらと思っています!

中家さん

コバマツ

現場も理解しつつ、別なスキルを持った人がいてくれたら、生産面でも、経済面でも持続可能な生産活動ができますね!

石垣島で大手企業が農業に参入している、と聞いて最初は、「企業が島の農地をどんどん買って、栽培面積を増やしたりして、島の農家をつぶしてしまうのでは?」ということを考えていました。しかし、企業が参入することで、個人の農家ではできない、農産物の販売やブランディングなど、資金やスキルが必要な面でむしろ力になれるのだなと思いました。
生産面だけではなく経済的にも、持続可能な農業のモデルを生み出すには企業の参入も一つの方法として必要だと感じました。

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