マーケットインによる出口戦略を軸に、年々売り上げを拡大
トップリバーは2000年の創業以来、長野県内に複数の自社農場を構え、レタスやキャベツなどの露地野菜を生産している。自社農場と契約農家分を含めた作付面積は200ヘクタール以上に上り、求められる時期に作物を供給する「マーケットイン」による契約生産・契約出荷で販売先を広げてきた。大手外食チェーンや食品加工会社など、多い年では70社ほどと契約栽培を結んでおり、売り上げは右肩上がり。創業初年度を除いて毎年黒字を計上しており、年間売上高は約15・5億円にも上る(2023年)。
一般的に露地野菜の契約栽培となると、気候変動などによる生育不良のほか、天候不順や病害虫の影響を受けやすく、安定生産、安定出荷の難易度は高い。不足した契約重量を満たすために、売値より高い値段で他から作物を買い付けてまかなうというのもよくある話だ。そうした中、同社では契約数量のうち70~80%を必ず納入し、残る20-30%分については市況にあわせて数量を変動する年間契約を運用している。
確実に利益を生み出せるビジネスモデルを構築しつつ、需要がある時期にそれぞれの取引先の要望にあわせて野菜を安定的に供給する実績を積み上げ、実需者からの信頼を勝ち取ってきた。
卒業を前提にスタッフを雇用。技術、スキル習得を後押し
同社の取り組みとして特徴的なのが、独立就農を目指す若者を従業員として雇用し、農業経営者へ育てている点だ。入社から3~6年後の独立就農を見越して生産、加工、販売などのスキルや栽培技術の習得を支援しているほか、財務や生産計画など農業経営者として必要な素養を働きながら身に着けえもらえるよう後押ししている。
これまでに、同社からは計70人以上が農業経営者として独り立ちしているが、そのほとんどが就農初年度から黒字経営を続けているというから驚きだ。こうした取り組みの全容については、ぜひ下記の関連記事を参照してほしい。
営業畑を歩んだ青年が抱く「農業界を何とかしたい」という思い
農業経営者を育てながら、会社として「儲かる農業」を体現する。隼人さんが、そんな門外不出の仕組みを手掛けてきた創業者である父・秀樹(ひでき)さんの背中を追って入社を決めたのは、大学卒業を控えたころだった。
「就職活動に励む中で自分の人生を見つめ直すうち、幼いころから身近な存在だった農業に携わりたいと思うようになりました。元々、農業は好きでしたが、その大変さから『体力的に一生できる仕事ではないな』と子どもながらに感じていました。そんな農業界を何とかしたいと本気で考えてきたときに、ゆくゆくは父の会社を継いで取り組みを広げていくのがベストだと考えました」(隼人さん)
大学卒業後は農産物の販売を学ぶべく、北海道の農業法人に就職。翌年に帰郷し、トップリバーへ入社した。同社は栽培を司る営農部と、取引先の開拓や仕入れ調整などを担う商品部に大分されるが、隼人さんは主に商品部で営業畑を歩んできた。
秀樹さんが余命宣告を受けた2020年から経営者となるべくマネジメントを学び、2021年に専務取締役へ就任。34歳の若さで代表取締役社長に就いたのは、2023年12月のことだ。
目指すは売り上げ30億円&平均年収550万円
創業以来、ほぼ単年黒字を続けてきたトップリバーだが、代表を引き継いだ隼人さんが目標に掲げたのは、さらなる売り上げ増と従業員の所得向上だった。具体的には、23年に過去最高となる15・5億をたたき出した売り上げ高を、2035年には30億円へと拡大することを打ち出した。また、これにより従業員の平均年収を「最低でも550万円以上を目指す」とした。農業法人の平均年収は300万円ほどと、実現となれば業界でも随一の高待遇となるのは言うまでもない。
「なぜこれらを目指して経営しているかというと、農業界を盛り上げたいという一言に尽きます。私をここまで育ててもらった農業に恩返しがしたい。いち生産法人ができることは限られますが、農作物の安定供給を経済的価値と結び付け、徹底的に儲かる農業を追求することがトップリバーの役割であると考えています。農業をしたいという人の中には、お金に頓着のない方が少なくありませんが、産業として見ると不健全。儲かる農業を実践し、次世代の担い手のモデルケースを作っていきたいと考えています」(隼人さん)
国内初のレタス収穫期を本格導入。ファーストペンギンとして機械化に踏み切る
さらなる売り上げ増の実現にあたって、農地の集積による規模拡大は避けられない。一方で、広大な圃場を管理するには多くの人手が必要だが、近い将来、外国人労働者やアルバイト従業員らを中心とした人件費が円安などの影響で高騰し、人の手に依存した農業は立ちいかなくなると、勇人さんは見ている。
そこで同社では今年から、農業用ドローンによる農薬散布や播種のほか、国内の事業体として初めてレタス収穫機を導入するなど、機械化による作業効率の向上を目指している。
中でも、ファーストペンギンとして挑むレタス収穫期を使った作業は、メーカーの実証実験に協力しながら、3年ほどかけて機械の改良と現場での運用スキームを構築。今年6月、ついに導入へこぎつけた。
隼人さんは「収穫機はまだ試作品の段階ですが、現時点でもレタスの外葉を取り除いて茎を切断する作業が約10倍早くなりました。外葉の調整や選別などの人の手が必要な作業を含めても、収穫作業全体の生産性を倍にできる見込みです」と胸を張る。
周囲からは懐疑的な声が聞こえることも少なくないが、「機械化によって効率化ができるかどうかではなく、機械化によって効率を上げない限り生産者の所得は増えない。だからやるしかないと考えています。農地の集約はまだ完全にはできているわけではありませんが、集積してから機械化をするのでは、使いこなすのも難しい」。機械化の意図を説明する言葉に覚悟がにじむ。
同社ではすでにAIを活用した収穫予測により、販売戦略に役立ててきた。生産現場での機械化が浸透すれば、農業の可能性はさらに広がりを見せるだろう。「農業はいわば(肉体労働を意味する)ブルーカラーの仕事ですが、今後は(事務職などを意味する)ホワイトカラーの仕事を取っていく時代にもなってくると考えています。社員にもよく話していることですが、農業のサプライチェーンの中で、生産者に入っているお金はわずか1割程度。AIや最新技術などを活用して、どんどん生産者自身の介在価値を見つけていきたい」
「実践者でありたい。評論家であるな」。次代の農業経営者を排出する
現在の農業の課題として、本当の意味での農業経営者や核となるリーダーが少ないことだと語気を強める隼人さん。それゆえ、同社が人材育成にかける思いもひとしおだ。「当社での仕事を通じて経営を学んでもらって、独立後は地域をまとめ、農業界を盛り上げてくれる核となる人材を育てていきたい。そうして農家が儲かるようになり、日本の農業全体が発展していけば、やがて自分たちにも返ってくると思っています。それぞれの地域で、儲かる農業をどんどん追求してほしいですね」
「自分たちは実践者でありたい。評論家であるな」。隼人さんは常々、従業員へこう訓示しているという。「挑戦し続けることによって、常に評論される側にありたい。実践し、実績を上げることによって、農業界を盛り上げていきたい」。果敢に挑戦を重ねる背景には、「農業界を盛り上げたい」という純粋な信念があった。
取材協力
有限会社トップリバー
長野県北佐久郡御代田町御代田3986-1