農業のさらなる省人化に。注目の国際規格「ISOBUS」とは
日本のスマート農業を拡張・発展させるために必要なのは、国際通信規格への対応かもしれません。2024年6月17日(月)、農業機械のデータ通信における国際規格「ISOBUS(イソバス)」のインフォメーションセミナーが、日本で初めて東京・港区の機械振興会館で開催されました。
ISOBUSとは、ISO 11783規格に基づいた、農業機械の通信における国際標準規格です。この規格に基づくことで、トラクターと作業機間での通信接続が担保され、異なるメーカーの機械を互換性を持って接続することができます。EUやアメリカでは、2001年にトラクターと作業機にISOBUS規格が導入され、すでに業界のスタンダードになっています。
しかし、日本の農業機械はいまだISOBUSに対応していないため、現場ではいくつかの問題が発生しています。例えば、農業経営体が新規メーカーのトラクターや作業機を導入した場合、通信規格の相違により、既存の機械と接続できません。実際、担い手不足が深刻な北海道では、営農形態が似ているヨーロッパから大型トラクターを輸入しようとする際、その非互換性が、さらなる大規模化・省人化・精密化(による収益改善)の足かせになっています。
「海外メーカー製品に負けない製品を国内作業機メーカーが生み出せるように、ISOBUSを普及していく必要がある」。大規模農業経営にシフトしている農家が多い北海道・十勝地域で声が上がりました。十勝農業機械協議会から推進に関する相談を受けた公益財団法人とかち財団は、2018年7月に任意団体のISOBUS普及推進会を設立。以来、技術開発支援や技術者育成に取り組んでいます。
このようにISOBUS対応の気運が高まるさなか、ISOBUSの認証機関であるAEF(本部ドイツ・フランクフルト)のトップらが来日し、インフォメーションセミナーが開催されたのです。
国内のISOBUS普及に向けて本格始動
先般のISOBUSインフォメーションセミナーには、農機メーカーの技術者ら100人以上が集結。会場のほぼ最前列には、ISOBUS普及推進会で事務局を務める松原慎吾さんの姿がありました。
松原さんは、とかち財団ものづくり支援部の情報技術グループに所属するソフトウエアエンジニアです。財団に入職した2016年当時から国際通信規格「ISOBUS」に関心があったと言います。折しも、道内メーカーから要請を受け、ISOBUS普及推進会の立ち上げの準備段階から事務局を務めています。
日本でのISOBUS普及の弾みとなることが期待される今回のセミナーでは、ISOBUS認証機関であるAEFのチェアマン、広報、エンジニアらが登壇して、ISOBUSのコンセプト、認証試験、技術開発支援などについて講演しました。
ISOBUSの認証を取得するためには、欧米5カ所にあるテストセンターのいずれかで該当製品のテストを受けますが、AEFの会員企業は試作機の規格適合を機能ごとに評価するツールが利用できるなどのサポートがあります。また、メーカー各社の技術者が開発中のプログラムを持ち寄り、お互いに接続して機能の互換性を確認するイベント「Plugfests(プラグフェスト)」が、年2回ヨーロッパとアメリカで開催されるなど、会員企業のグループワーキングも設けられ、スピーディで効率的な技術開発が進められています。
また、AEFには誰もが利用可能なISOBUS認証機械の機能ごとの互換性を確認できるデータベースがあり、ユーザーは購入前に接続可能な機械の組み合わせについて情報を得ることができます。
AEF会員企業でありISOBUS普及推進会の会員企業でもある株式会社M2Mクラフトのエンジニアで、セミナー参加者の望月裕斗さんは、国内でISOBUS対応機のソフトウェア実装を担当。同社は国際規格への対応に強みを持ち、日本の農業に最新技術を取り入れるべく、作業機メーカーのISOBUS対応のサポートをしています。AEFのプラグフェストに参加した経験もあり、「一緒に参加する日本企業が増えてほしい」とISOBUSの普及に期待を寄せています。
ISOBUS機能で精密農業を実現、儲かる農業へ
松原さんらISOBUS普及推進会の事務局である公益財団法人とかち財団では、2019年からメーカーとの協業でISOBUS対応のポテトプランター(馬鈴薯播種機)の開発に取り組み、その実証実験が進行中です。
馬鈴薯の最適な植え付け間隔は、品種によって異なります。間隔は歯車のギア比で決まるため、従来は手動で歯車を交換して機械的に設定していました。それが、ISOBUS対応のポテトプランターでは、トラクター側の汎用ターミナル(UT)に搭載したタッチパネルの操作で、作業機を電子制御 することができます。
それに加えてTC(タスクコントローラ)機能を実装することで位置情報に合わせた作業が可能になります。
TCには作業の総量を記録するTC-BAS、位置情報に合わせて可変作業を行うTC-GEO、重複作業を抑制するTC-SCの3つの機能があります。
「これによって可変施肥と可変播種を実現しました」と声を弾ませる松原さん。2023年7月の「第35回国際農業機械展 in 帯広 2023」で試作機が展示され、関係者から大きな反響を呼びました。
国内でのISOBUS対応機の普及にははじめの一歩といったところですが、明るい展望もあります。
「ISOBUS普及には、農家さんがどれだけ儲かるのか、稼げるモデルケースを具体的な数値と共に示すことが必要です。国内でも多くのメーカーさんが可変施肥を実現しているので、加えて可変播種ができれば 規格に沿ったサイズにあうよう作物を調整することにより収益性が上がることが考えられます。精密農業のジャンルにいろいろなメーカーさんが入ってくることで、さらに活気づくと期待しています」(松原さん)。
AEFのインフォメーションセミナーで改めて注目を集めたISOBUS。その普及に向けた活動や技術開発に弾みがつきそうです。
お問い合わせ
ISOBUS普及推進会(事務局:公益財団法人とかち財団)
〒080-2462 帯広市西22条北2丁目23番地9 十勝産業振興センター
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