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「女性の孤立を減らしたい」。130年続く茶農家へ嫁いだ女性が農業と地域の暮らしを楽しむために行ったのは〝女性同士がつながれる場所づくり〟だった

連載企画:農業女子が農業女子にインタビュー

「女性の孤立を減らしたい」。130年続く茶農家へ嫁いだ女性が農業と地域の暮らしを楽しむために行ったのは〝女性同士がつながれる場所づくり〟だった

農業女子プロジェクトのメンバーでもある筆者が、活躍する農業女子にインタビューする企画の第二弾。家庭に、農業に心血を注ぐ女性農業者にスポットを当て、日々の生活や農業経営に奮闘する模様をお届けします。
今回は鹿児島県曽於市財部町で茶の栽培、加工、販売、茶店運営などを手掛けるほか、農業委員を務め、地域コミュニティーの設立まで幅広く活動する橋口まゆ(はしぐち・まゆ)さんにお話しをお聞きしました。

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橋口まゆさんプロフィール

1980年鹿児島県鹿児島市生まれ。高校卒業後は愛知県で就職するも、鹿児島にUターンし、結婚を機に2006年就農。夫、義母と共に家族3人で6ヘクタールの茶畑で茶の栽培・加工・販売を行う。農業の傍ら、女性農業者組織「Soo Women Farm」、異業種の女性の交流を目的とした「Soo Tea Trip」を設立。2015年度、女性農業経営士に認定。農業推進委員。2023年から財部町土地改良区理事。

一緒に農業をしてほしいと言われ結婚・就農

就農の経緯を教えてください。

2006年に結婚をして、それを機に就農しました。「農業はしなくていいから一緒になってほしい」と言われて結婚したという話をよく聞きますが、わが家でははじめから「一緒に農業をしてほしい」と言われていたので心の準備をして結婚・就農することができました。茶業に真に向き合う夫の姿を尊敬していたので、就農することにも大きな抵抗はありませんでした。

現在取り組んでいる農業について教えてください。

家族経営協定式

家族経営協定調印式の様子

夫の実家では明治27年から茶業に取り組んでおり、今年で130周年を迎えます。夫の曾祖父である初代が創業し、当初は茶商のようなことから始まったそうです。現在は家族3人で6ヘクタールの茶畑で茶の栽培をしており、繁忙期には5名ほど雇用をして一緒に仕事をしています。栽培したお茶は契約栽培先への出荷のほか、直営の茶店橋口製茶舗での販売やイベント出店などでの小売りがメイン。家族で役割分担をしており、夫が茶の栽培や管理をメインに担当。茶の火入れ加工を義母が担い、私は出来たお茶を袋詰めして販売する仕事を主に行うなど、それぞれの得意分野を生かしながら、日々取り組んでいます。毎年3月から10月まで畑の管理や収穫、製造を行い、11月~2月はお茶の販売強化に努めています。

就農してすぐのころと、長年農業に携わってきた現在とで、心境に変化はありますか。

年々農業は大切な仕事だという認識が強まってきています。仕事に対する誇りも自分の中で大きくなっています。こう思うようになったのは、茶農家の方はもちろん、周囲の農業に携わる人達の影響が大きいと思います。皆さん仕事にプライドを持っていて、良い刺激をもらっています。

女性同士がつながれる場所づくりに奔走

橋口さんは農業だけではなく、女性農業者同士のつながりづくりにも力を入れられていますよね。交流促進を目的に設立された「Soo Women Farm」について教えてください。

Soo Women Farmerの皆さん

Soo Women Farmのメンバー

発足した理由は、農業に携わる女性の交流を促すためです。男性の集まりはあるものの、女性農業者が気軽に出て来られる場はありませんでした。交流を通して関係性を深め、女性農業者同士の悩みを共有することで農業により前向きに取り組めるようになればいいと考えていた時に、曽於市役所の農政課の職員の方から女性農業者の集まりを一緒に作りませんかと声を掛けられました。私達農家と行政の気持ちが一つになり結成となりました。メンバーは曽於市財部町の女性農業者16名です。女性農業者の集まりというと固い印象がありますが、実際はおいしいものを食べながら、いろいろなことを話す女子会のような感じです。仕事や育児で忙しく、自分自身のことを考えたり話をする場がないので、気軽に仕事の悩みなどを話せる場にしたいと考えています。メンバーも年々増えていて、設立当初の目的であった女性農業者の孤立解消はある程度実現出来てきているように感じます。

SooTeaTrip

Soo Tea Tripのメンバー

「Soo Women Farm」以外にも、「Soo Tea Trip」という女性の異業種交流を目的としたグループを立ち上げ、運営していますね。この背景や目的などについて教えてください。

家庭と仕事とは別に第3の居場所を持とうという思いと、異業種の女性の交流を目的に設立しました。メンバー8名のうち4名はお茶農家の後継者やお嫁に来た人で、地域おこし協力隊として移住してきた人や、地元の金物屋さんがメンバーになっています。移住してきたメンバーをサポートしたりとお互いに助け合い、近況を気軽に話し合える関係性が出来ています。どちらのグループも、女性が仕事、家庭以外の時間を持ち自分自身を大切に出来ればいいなと思って活動をしています。地域内で良いコミニュティが生まれ、日々の暮らしがより楽しくなったことが会を設立して良かったなと思う点。そして、こういった本音で語り合える関係性があることが地域にとっても大事なことなのではないかと考えています。

農業委員としての一面も

農業やコミュニティー運営の傍ら、農業委員としても活動していますね。どのような活動をしているか教えてください。農業委員というと堅い組織のイメージを持っているのですがどうでしょうか。

委員になってから今年で5年目になります。主な活動としては農地の売買・貸し借りを国の法律に沿って仲介する役割があります。その際に茶以外の作物を栽培する農家の方々の声を聞くことが勉強になり、また自分ももっと頑張ろうと励みになることもあります。農業委員の組織は、市町村によってそれぞれ個性が異なると思います。曽於市の農業委員は女性委員も多く、話をしやすい雰囲気があるのでとても活動しやすいです。2年前に女性農業委員の一人から、農家のファッションショーをしたいという声があがりました。それをみんなで実現しようと立ち上がり、行政や企業からの協力も得て実現することが出来ました。男性女性の垣根を超え、世代も超えて意見を出しやすい雰囲気が組織運営においてとても大切だと感じた出来事でした。組織の会長をはじめ、事務局のバックアップもあり円滑にコミュニケーションが図れています。農業に関する法律はどんどん変わり、分からないことも多いのですが、分からないことを素直に聞ける関係性があるので活動を継続できています。

お茶を淹れる橋口まゆさん

お茶をいれる橋口さん

農業の面白さと大変さ

農業が面白いと感じる点、逆に大変だなと感じる点について教えてください。

親はサラリーマンでしたが、祖母が鹿児島県の南大隅町根占で米やじゃがいも等を栽培していて、幼少期に祖母から農業を教わったことがありました。土に触れた経験は幼心に深く残り、今でも思い出すことがあります。私の中の原風景だとも感じています。土に触れるということはこんなに記憶に残るのかと思い、それが農業の面白さなのではないかと考えました。自身の経験をもとに、地域の小学校のPTAと一緒にお茶に関するイベントやワークショップを開催するなど、農業の面白さやお茶のおいしさを伝えています。
また、家族が力を合わせて作ったお茶を飲んだ方がおいしいと喜んでくれることにやりがいを感じます。畑で栽培する夫は農業は土ありきと考え、実際にお客様と接する私は農業は人ありきだと考えています。大変なことは年々気温が上がり、作業が大変になってきました。1日の中で暑くない時間帯に作業をするなど工夫が迫られています。

これからの茶業について

橋口製茶舗

直営の茶店

今後茶業を継続していく上で大切にしていきたいことを教えてください。

正しい情報を得るということが重要なのではないかと考えています。国や企業からの正確な情報を基に、その時その時に合わせた動きをとることが必要だと感じています。そしてその情報を茶農家同士で共有することも大切だと思います。幸い、曽於市財部町は後継者も多く、茶業の青年部もあり、お互いに気兼ねなく話が出来る雰囲気があります。営農指導員から得た情報をお互いに共有して栽培や加工にも生かせています。こういった茶農家同士の横の連携が産地を盛り上げていくことにつながるのだと思います。

仕事と暮らしのバランスについて

農業は休みが取りづらい仕事だと思いますが仕事と暮らしのバランスはどのように取られていますか。

なかなかいいバランスは取れていないかもしれません。天気に左右される仕事なので、お天気がいいと畑に行きたくなります。休みを作ろうと意識しない限り、休めないですね。農業だけではなく、夫は消防団、私は農業委員として地域活動も多い中、自分の時間を取れることが少ないです。それでも奇麗なものを見に行こうと、美術館や図書館に足を運ぶこともあります。農業には直接関係ないかもしれませんが、美術館で見たものや本で読んだことなど話しをして楽しんでいます。仕事も自分の時間も大切にしていきたいですね。

取材後記

今回取材を通して、橋口さんの仕事に対する誇りや、家族に対しての尊敬の思いを知ることができました。また、地域内の農業者の連携を強化するため組織を立ち上げ、農業委員として活動を行うなど、自身のみならず地域農業全体を後押しする活動に尽力されている点に非常に感銘を受けました。産地として盛り上がることが、自身の農業経営にも好影響をもたらすのではないかと感じました。今後もさまざまなフィールドで活躍する女性農業者にお話しをお聞きしていきたいと思います。

取材協力

橋口製茶舗

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