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地域おこし協力隊を経て、期待の若手農家に。収益性の高い農業の背景にある、地域ぐるみでの徹底的な品質管理と販売戦略

鈴木 雄人

ライター:

地域おこし協力隊を経て、期待の若手農家に。収益性の高い農業の背景にある、地域ぐるみでの徹底的な品質管理と販売戦略

農業分野で働くにあたって、現在は多様な選択肢が存在する。自身で独立して始めるのはもちろんのこと、生産法人や農業サービスを展開する企業に就職したり、アルバイトとして農繁期のみ働くなどさまざまだ。そうした中、近年増えつつあるのが地域おこし協力隊として地方に移住し、数年後に新規就農する方法。農業現場で経験を積み、安定経営を実現している例も少なくない。地域おこし協力隊として都心から高知県に移住し、収益性の高い農業を実現しているのが、今回お話を伺う日高みよし農園の三好夫妻だ。

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フルーツトマト栽培が盛んな地域で期待の若手

高知市内から車で約30分ほどの距離にある高知県高岡郡日高村。四方を山に囲まれ、水質日本一にも輝く仁淀川が流れる自然豊かな村です。

30年以上同村で盛んに栽培されているのが高糖度フルーツトマト。徹底的な品質管理から生まれるトマトの中でも、農協の一定の基準をクリアして出荷販売されたものを「シュガートマト」と呼び、ブランド化にも成功しており、全国でも屈指の産地として知られています。山間地特有の寒暖差から、甘みと酸味のバランスが良い高品質のトマトが出来ると言います。

そんな日高村に神奈川から家族で移住し、就農3年目を迎えるのが、日高みよし農園を営む三好諒(りょう)さん、美佳(みか)さん夫妻。現在、約37アールのハウスで年間約40トンのフルーツトマトを栽培しており、7割を農協出荷、残りを直売所やECサイトなどで直接販売。就農3年目の若手ながら、収益性の高い経営を実現しています。

都心から地域おこし協力隊として移住

元々、神奈川県の川崎市に住みながら青果卸で5年ほど働いていた諒さん。青果卸という仕事柄、夜中に電話が鳴ったり、朝が早かったりということがしばしばあり、この生活をずっと続けていけるのかと不安を抱いていたと言います。

そんなタイミングで美佳さんの母が埼玉県から福島県に移住したこともあり、夏休みなど母を訪ねて地方に遊びに行く機会が何度かありました。

元々、2人共学生時代から田舎での生活に興味あったと言いますが、実際に地方へ移住した母の生活を見ていると、地方という選択肢がより身近になったと言います。

また、地方という観点から会社で取り扱われる野菜に目を向けてみると、冬の時期に高知県のハウスで栽培された野菜が多く出回っていることもあり高知県に興味を持ち始めました。

その中で、日高村のフルーツトマト栽培での地域おこし協力隊の募集を見ていると、子供が成長した時に不便にならない山奥過ぎない場所(高知市内まで車で30分)やJRなど電車も通っている場所。更に、3年間、給料を貰いながら農業を学び、地方での生活を実際に経験できるこの制度は2人にとってはぴったりだったので迷いなく飛び込んでいきました。

日高村に地域おこし協力隊として移住してからは、農協の子会社であり生産法人でもある会社でフルーツトマト栽培について学びながら農業経営についても学びました。それと同時にその後の独立を見据え、長年フルーツトマト栽培を営む技術力の高い農家のところへ通い、話を聞きながら生産についての知識を深めていったと言います。

実際には、早い段階で離農する生産者が出てきた為、独立後に借りるハウスは決まったので、地域おこし協力隊として働きながらもハウスの修繕など自分の就農に向けた準備も進めることができていたそうです。

では、フルーツトマト産地で新規就農した三好さん。どのように収益性の高い農業を実現しているのでしょうか。

高収益の農業を実現するために

日高村がシュガートマトとしてブランド化に成功している背景には、生産者らによる徹底的な品質管理と販売戦略があると言います。

ブランド展開するJA高知県が導入しているのが、糖度を測るための糖度センサー。センサーによって一つ一つ糖度が分かるからこそ味にブレが無い品質で届けることが出来ます。糖度によって販売するブランド名が違い、糖度7が「ヴェルデ」、糖度8が「ビアンコ」、糖度10以上が「ロッソ」とすることで価格転嫁することも出来ているそうです。

また、生産者には出荷時に自分たちのトマトにおいて、どの糖度がどのくらいの比率だったのか分かるよう糖度ヒストグラムといったものが出るようになっています。そうすることにより、感覚ではなく数値で自分たちの現状を把握することが出来ると言います。
もう1つの販売戦略は、年内に糖度7以上を安定的に出荷できるような生産・販売体系をとっているというものです。

一般的に10月、11月頃から取り始め6月頃に終わるハウス栽培において、収穫初めの時期である10月から年末までは糖度が乗りづらいといわれています。そこを、長年培ってきた産地の水分管理や栽培管理といった技術を使い、他産地に物がない時に高糖度を実現できているので年間を通して販路の確保につなげることができていると言います。

販路やブランドが確立されているからこそ、日高みよし農園では、販路開拓よりも収量と糖度のバランスをいかに上げていくかといった観点に重きを置くことができているそうです。また、最初の3年間は売上のほとんどを環境制御システムやハウス内の二酸化炭素濃度を上げ光合成を促す機械などの設備投資に回したことも、早い段階での収量アップにつながりました。

これからの展望

「新規就農時に計算していた当初の予定よりもかなり順調にきています」と諒さん。

研修中に技術力がある生産者から教わってきたかいがあり、ここまで順調にきている同社。これから目指す先は、生産面積を増やしたり、事業拡大して売上を上げたりすることでは無いと言います。

「もちろん、現在の面積で最大限の収益性を高めるために収量を維持しつつも糖度のあるトマトをどうやって作っていくかはこれからも突き詰めなくてはいけない部分になります。ただ、めちゃめちゃ稼ぎたいかといわれたらそうではありません。子供が進学できるための稼ぎはもちろん必要ですが、日高村には移住や就農も含めたくさん助けられました。だからこそ、地域を盛り上げるのか、地域の人を今以上に雇用できる環境を整えるのかは決まっていませんが、地域貢献をしたいなと思っています」(諒さん)

首都圏での生活にはしっくりきていなかった2人。現在は、自分たちの役割ややるべきこと、やりたいこと、挑戦したいことが明確になっていき、充実した生活を送っていると言います。

農業と移住を通して、都心では感じることができなかったライフワークバランスの充実を、地域おこし協力隊という制度を使い実現していくことは、農や移住を考える人にとって新たな選択肢としてなり得ると感じる取材でした。

取材協力

日高みよし農園

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