マイナビ農業TOP > 農業経営 > 「有機×めずらしい品目」に勝機はある?~梅・畑わさび・海藻・香辛料 農家編~

「有機×めずらしい品目」に勝機はある?~梅・畑わさび・海藻・香辛料 農家編~

「有機×めずらしい品目」に勝機はある?~梅・畑わさび・海藻・香辛料 農家編~

「有機」というキーワードで事業を営む4人がそこに至った背景、事業の苦労と乗り越えるために行った工夫とは。海外への輸出や販売へのチャレンジ、今後の展望など、多岐にわたるテーマで話してもらいました。
司会進行:マイナビ農業 横山拓哉(よこやま・たくや)

twitter twitter twitter

【動画を視聴する】

【プロフィール】(五十音順)
■石黒新海さん

株式会社島酒家 代表取締役
2004年に泡盛の専門問屋をスタート。2009年に有限会社島酒家を設立。県産食材を使ったスパイスなどの加工食品を中心に製造・販売する。2022年にアオサ・モズクで日本初の有機藻類の認証を取得。

■佐々木雄哉さん

佐々研山葵(わさび)農園
岩手県奥州市出身。2019年に就農、岩泉町に移住し夫婦で畑ワサビを生産。2023年12月にワサビの特別栽培認証を取得。有機ワサビを軸に岩泉町を盛り上げることを目標に掲げる。

■納谷太郎さん

株式会社丸善納谷商店 取締役専務
北海道函館市で昆布・わかめの加工品、原料の卸を行う。有機海藻の任意団体を設立し、オーガニック昆布、オーガニックわかめの製品を開発。1909年の創業当時から、食品添加物は使用しない製品作りをしている。

■深見優さん

有限会社深見梅店 代表取締役社長
和歌山県西牟婁郡(にしむろぐん)で創業1940年の梅干し専門店の4代目。大学卒業後はアパレル関係の会社に就職。自然災害をきっかけに和歌山へ帰郷、就農する。2009年より有機梅の栽培を開始。「有機JAS」認証を2013年に受ける。

“有機”に取り組んだ背景

横山:“有機”というと、やはり「“慣行”よりも大変だろう」というイメージを持つ人も多いと思います。みなさんがあえて有機に挑戦している理由は何でしょうか。

深見:和歌山は梅の産地なんですね。ただほとんどが慣行栽培なので、その中で有機をやるのはすごくハードルが高かったです。でも「自分が食べたい」という思いがありましたし、自分で一から作ったものが梅干しになって、家族やスタッフ、みんなに安心して食べてもらえたらと思って始めましたね。

佐々木:私がやっているのは畑ワサビといって、基本的にはチューブ入りのワサビなどに使われるものです。どうせ加工して商品になるなら、自分で商品を作りたいなと思ったのがきっかけですね。はじめは単純に加工して使おうと思ったんですが、他の方から「大手と同じことやって売れるのか」といわれて。だから「まずはちゃんとした原料を作りたい」「他の人がやってないことは何だろう」と考えて、有機にたどりつきました。

納谷:ヨーロッパのスーパーに行ったとき、現地の海藻の品質がすごく悪かったんですよ。びっくりするぐらい。だから本場の日本の海藻を持っていって、なんとか食べてもらいたいという思いでしたね。

石黒:僕はもともと、ぜんそく持ちで食生活がよくなかったこともあって、自分の子どもができたときに食べ物と向き合おうと思っていたんです。そのとき、たまたま取引先がオーガニックに特化した生協でした。そこがきっかけで有機に取り組むことになりました。

めずらしい品目を扱うことによるメリット

横山:今回、有機というキーワード以外にも、比較的めずらしい品目を栽培している点がみなさんに共通していると思います。「有機×めずらしい品目」による経営上のメリットを教えてください。

深見:日本では、甘い梅干しをよく見かけますよね。でも僕は昔ながらの、すっぱい梅干しを日本の方に食べてもらいたくて始めました。それがひょんなことから海外の方の目に止まって、国内で売りたかった商品が海外ですごく注目されるようになったんです。今は逆に「海外で売られている梅干し」として、国内からも注目されています。狙ったわけではありませんが、とがった商品だったからこそ刺さったのかなと思いますね。

佐々木:私はまだ規模が小さいので、経営上のメリットは正直わかりません。でも商品のテストをしてみて「絶対いけるな」と思っています。ワサビパウダーのサンプルを作ってみたら、めちゃくちゃおいしかったんですよ。基本的にワサビ農家は根茎の部分を重視します。でも私たちは葉柄(茎)を太く長く伸ばして、それを粉にして根茎の粉と混ぜています。根茎だけだと辛みが強いけれど、茎もミックスすることによって甘みも風味も出て、ちょうどいいんです。他との差別化が味で出せたなと感じています。

石黒:うちの場合は沖縄という土地柄、観光産業がさかんなこともあって非常に商売がしやすいです。ただ極力、先を見据えた作物を植えるようにしています。例えば唐辛子。唐辛子を単価が高いサプリメントなどに加工すれば、国内市場が少し縮小しても契約農家さんに対して利益を還元できます。

売り上げ向上に向けた取り組み

横山:みなさんが売り上げ向上のために工夫していることを教えてください。

深見:有機の梅の場合は成長がすごくゆっくりですから、慣行栽培並みに反収を上げることは非現実的かなと思っています。それで収量を確保するためには、有機栽培で梅を作る農家を増やす必要があると思うんですよ。それぞれ農家さんが持っているノウハウやスキルをメンバーでシェアして、みんなで収量を上げていく。そういう取り組みができれば、慣行栽培に負けないぐらい安定して生産できると考えています。

佐々木:ワサビは環境にかなり左右されるので、とにかく生育しやすい環境を整えることですね。具体的には間伐と光量の調整、また株間や条間の調整です。慣行栽培もやっていたときは肥料の量を調整することで環境を整えていましたが、有機ではそれは使えないので、しっかり分析するようにしています。

納谷:昆布の場合は重労働の低減しかないと思っていますね。昆布はどうしても、水揚げも人の手、干すのも人の手、箱詰めするのも人の手。全部人なんですよ。その中でも人手と時間がかかるのは箱詰め。10何種類ある規格ごとに分けなくてはいけません。そこで有機では規格をまとめました。私たちは今4種類まで減らし、見た目だけで分けられるようにしています。

石黒:うちの場合は加工品になるので、規格がありません。生産者からは全部買い取りますし、自社の農地で育てたものも全部刈り取ります。慣行栽培ほど収穫量はなくても、反収は良いですね。ただ、土壌を調べて何が足りないかを見極めながら、必要な有機基準の堆肥(たいひ)を入れるようにしています。それによって反収が上がれば、生産者にも還元できる仕組みです。水産に関しては、付加価値をどう高めるかが課題ですね。例えば端材を次の商品化に活用するなど、いち生産者の原料に対して歩留まりをよくするための取り組みをして、持続可能な形を目指しています。

それぞれが抱える課題

横山:地域によって異なると思いますが、みなさんが感じている課題はどんなことでしょうか。

深見:産地だからこそ、わざわざ有機をやらなくてもいいんじゃないという人が圧倒的に多いです。慣行栽培でも十分ご飯を食べていけますから、逆に有機栽培に挑戦する生産者はかなり強い意志を持っていますね。ぜいたくな悩みかもしれませんが、産地であるがゆえに有機が広がらないのは、ちょっとした課題だと思っています。

佐々木:うちは逆に今のままじゃ生活が結構厳しいという状況です。圧倒的に知名度が低いことと、自分たちの商品がないことが課題だと思うので、そこをとにかく改善していくしかないですね。

納谷:私は北海道の奥尻島(おくしりとう)と礼文島(れぶんとう)でもやっているんですよ。その中で心配に思うのは、人口の減少が止まらないこと。有機をやってもらっていますが、いつまで続てもらえるか……。どう継続していくかが課題ですね。

石黒:うちはモズクに関していうと、人がどんどん増えていて、来年以降やりたいと手を上げてくれている方が5人います。大島でやっているのですが、あと2人来たら、島まるごとオーガニックのモズクになりますから、そのときは販路と設備投資で私がキリキリします。でも、うれしい悩みですね。収穫を手伝える人が少ないという担い手の部分は、就労施設の方とタッグを組んで、うまく回るようになってきました。担い手については解消できたので、あとは販路と商品開発ですね。

将来の展望は

横山:最後に、みなさんの将来の展望を教えてください。

納谷:100トンぐらいは有機で生産したいなと思っています。今、うちが年間で使っている昆布は100トンなので、全部有機に切り替えるのが目標ですね。長期的な目標としては、ヨーロッパの現地で日本の海藻の養殖技術を教えて、現地でも同じような海藻を養殖して販売していきたいです。

深見:日本一の有機の梅の産地を作ってやろうと思っています。オーガニックの梅の里にするという大きな夢もあります。そして和歌山らしい梅干しをいろんな国で食べられるようにするのが最終目標ですね。

佐々木:私も日本一の産地というのは一緒なんですが、大規模で経営していくよりは小規模の家族単位の人たちで組合などを作りたいと考えています。みんなでまとまって大きい市場に出しつつ、それぞれが取引したいところとやっていくイメージです。深見さんのところの産地のように「有機のワサビの街」みたいになれたらと思ってます。

石黒:僕は、規格外の作物をもっと使ってあげないと、今後日本の農業って残っていかないと思うんですね。国産の加工メーカーである我々の役目は、国産のオーガニック商品をどれだけ世に出すかだと考えています。私は変わったものをやるのが好きなので、とにかく今の日本の市場に出ていないオーガニック商品を開発して、5年後には品ぞろえ日本一まで持ってきたいです。今22品目なので、あと30品目ぐらい作れば日本一にいけるんですよ。その中で規格外の野菜とコラボして、より日本が活発になればいいなと思います。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

読者の声を投稿する

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する