未来の子どもたちに誇れる、市の新しいブランドを生みだしたい
2023年、木更津市はいちはやく有機農業を推進する「オーガニックビレッジ宣言」を行いました。その時点で2019年から取り組み始めた市内の公立小中学校30校の給食に提供される『きさらづ学校給食米』の生産は軌道に乗っていたといいます。
「きっかけは2016年に制定された『木更津市 人と自然が調和した持続可能なまちづくりの推進に関する条例』(通称「オーガニックなまちづくり条例」)でした。市としてオーガニックなまちづくりを目指す中、先導的な取り組みとして、『学校給食へ有機米を提供したい』というお話が市長からございました。」
そう話すのは、木更津市経済部農林水産課で有機農業推進係を務める緒形隆澄(おがた・たかずみ)さん。そこで農薬・化学肥料を一切使用しない有機農業で作ったお米を「木更津市の誇るお米」にしていこうと方針が定まり、まずは市内の公立小中学校の給食で提供しようと目標が決まったのです。
「講師を招いて稲作農家さん向けのセミナーを行い、『有機農業で作られたお米の良さ』を実例とともに紹介。そこで5軒の農家さんが『子どもたちのためなら』と賛同してくださったのです」
そうして始まった水稲有機栽培は、生産者で構成する有機農業推進協議会を2019年に発足し、2023年には16名の農家さんが参加するまでに成長。初年度は1.8haだった栽培面積も、約14倍の26haまで拡大。2025年には148tの生産量を見込んでおり、市内の公立小中学校30校の1年間の給食を「きさらづ学校給食米」ですべて賄える収量に到達します。
「木更津市の水稲有機栽培の成長は、他と比べると圧倒的なスピード。市役所の努力が大きい」と話すのは株式会社オーレックの前田武志(まえだ・たけし)さん。オーレックは草刈機や除草機を開発するメーカーです。2019年以来、木更津市の取り組みを見守り、サポートをしながら伴走してきました。
株式会社オーレックホールディングスの仲原祐樹(なかはら・ゆうき)さんも「有機農業に挑戦する自治体は多々あり、私たちもサポートやアドバイスを行っていますが、苦戦するところも多い。木更津市が成功しているのは市役所の皆さんが本気で取り組まれたのが大きい。結果、JAや農機具メーカーとの協力体制や農業機械共用の仕組みが素早く整備できた。安心して挑戦できる環境があるからこそ、成功を信じて農家さんが賛同できたのでしょう」と話します。
木更津市では、専門家による技術指導のバックアップに加え、JAと協力して出荷された全量を一般的な価格より高価で買い取っています。また、共同で利用する水稲有機栽培に必要な農機具・調査機器の購入費は、有機農業推進協議会に対し全額支援しています。
「ゴールは『小規模農家さんが儲かる農業』。そのために必要な制度を考え、整えてきました。」と緒形さん。それらがうまく噛み合い、木更津市の成功を創出したのです。もちろんその道のりには困難な壁が立ちふさがることもあったそうです。そのひとつを打破する力となったのが、オーレックの除草機『WEED MAN』だったと緒形さんは話します。
水稲有機栽培の成功を阻む「除草作業」の高い壁。それを崩すことができたのは『WEED MAN』だからこそ
2年目以降、大きな壁が農家さんに立ちはだかりました。これは水稲有機栽培に転換した農家の多くが直面する高く分厚い壁だ、と前田さんは話します。
「1年目は雑草が少ない傾向があり、ほとんどの農家さんが申し分ない収量をあげる事が多いようです。ですが雑草を減らしておかないと2年目以降に1年目の雑草が落したタネが発芽し、さらに雑草が増えます。雑草は一株で数千個のタネを落とすものもあり、毎年の雑草対策が重要になります。雑草が増えると栄養をとられ稲の収量が減る事になります。しかし有機栽培ではこれまでのような除草の薬剤は使えないのです」(前田さん)
毎年の雑草対策が重要になると言います。しかし手作業となると、田んぼの中を歩くことになり重労働となります。木更津市では、初期に賛同した農家さんの多くは60歳以上でした。
「年間1~3回の除草を、薬剤に頼らず手作業で行う負担は高齢の方にはつらい。木更津市でも様々な方法を模索しましたが、速効性のあるものはありませんでした。しかしそんな中、市と連携協定を結んでいる井関農機株式会社さんからオーレックさんをご紹介いただいたのです。」(緒形さん)
オーレックの除草機『WEED MAN』は、条間はもちろん、株元までも効率よく除草する機構を搭載した除草機です。これにより水田の除草を確実に簡単にできます。1反の除草にかかる時間はわずか30分。手作業で同様の作業を行うと、数日かかることもあります。
「除草機のメリットは『使う人で効果が変わらない』ことにある。誰がいつどこで使っても、同じ効果が得られる。経験やノウハウはいりません。木更津市のように、自治体で導入されて複数の農家さんで共用されるケースに向いている」(仲原さん)
除草機『WEED MAN』購入にあたって、初年度は木更津市役所内で他機種との比較検討をじっくり行いました。そして2年目に圃場での効果検証を実施。農家さんから「『ぜひ購入してほしい』という声があがったそうです。その声をもとに予算を確保し、2022年に購入を決定。現在ではほとんどの農家さんが『WEED MAN』を利用しているそうです。
「農家さんから喜びの声を聞くと、購入して良かったと感じますね。『WEED MAN』によって楽になった作業と生みだされた時間を考えると、初年度で元が取れているくらいだと思います」(緒形さん)
農家さんに金銭的な負担を強いることなく、農作業の省力化・効率化が実現したのです。これもまた、木更津市の水稲有機栽培が成功しているひとつの要因といえるでしょう。現在はJAが整備や共同利用に係る運搬業務を実施。オーレックも農家さんごとに最適な運用ができるよう、サポート・アドバイスを行っています。
農業の未来は、日本の未来でもある。市を飛びだし、より良い未来のために挑戦を続ける木更津市
2025年に「市内の公立小中学校すべての給食用の米飯をすべて賄う」という目標を達成予定の木更津市。賛同する農家さんは今後も増加し、それに合わせて収量の増加も見込まれています。
「目標を達成後は、余剰分が出ることになります。その対策としてふるさと納税の返戻品に登録をする他、木更津市以外でも給食米として使っていただけないか、働きかけをしています」(緒形さん)
木更津市では過去にもみりんを作成して学校給食で使用したり、お土産品を開発したりという試行錯誤してきました。今後も柔軟な発想で、食用にならなかった米を米紛として活用したり、あるいは地酒を造ったりと、様々な可能性を模索していくと緒形さんは話します。
一方で、農家さんへのサポートも手厚くしていくといいます。すでにJAS認証の認定費用への助成などを実施しています。
「子どもたちの農業体験や、生産者さんと共に給食を食べる試食イベントなども実施し、農家さんにも誇りとやりがいを感じてもらえる取り組みも考えています」
そう話す緒形さん。オーガニックビレッジ宣言を行ったこともあり、今後は様々な農作物に有機栽培の挑戦が派生していくことでしょう。そうして木更津市が掲げた「オーガニックなまちづくり」が完成に近づいていくのです。
「農家さん、そして市役所の皆さんが一体となり、情熱を持って取り組むことで成功を手繰り寄せたのが木更津市の取り組み。その一端を担えたことが嬉しいですね」と話す前田さんは、木更津市だけでなく、様々な自治体の有機栽培のサポートやアドバイスも行っています。
「有機栽培はますますメジャーになっていきます。オーレックは有機栽培の成長を後押しすることで、日本をもっと健康でやさしい国にしたいと考えています。食から日本を元気にするのです。そのためにもっともっと私たちの機械、そして知見を活かしたい。その先駆けとして、オーレックは現在有機農作物普及業を進めています。有機栽培に興味をお持ちの自治体・農家の方、ぜひ気軽にお声がけください!」と仲原さんも最後に力強く話してくれました。
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