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畜産農家の堆肥のお悩みについて、使う側の農家に聞いてみた

伊藤 雄大

ライター:

畜産農家の堆肥のお悩みについて、使う側の農家に聞いてみた

肥料価格高騰に、国を挙げての有機農業の推進という追い風を受け、さぞかし、全国各地で堆肥(たいひ)の需要が高まっている……と思いきや、マッチングがうまくいっていない地域もある様子。畜産農家の「余る堆肥問題」を聞きつつ、堆肥を使う側である耕種農家の話を聞いてみました。

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畜産農家の悩みのタネ、堆肥

大久保さん夫妻

大久保さん夫妻

青森県田子町(たっこまち)にUターンして5年目の大久保成(おおくぼ・あきら)さんと、妻の悠紀(ゆうき)さん。繁殖と肥育を行う一貫経営で和牛を飼い、町特産のニンニクを栽培する大久保さんたちが営む「オーク牧場」の悩みのタネが、日々積もっていく堆肥の行き先です。
120頭ほどの和牛から排出される堆肥は年におおよそ300トン。オーク牧場では1.8ヘクタールほどのニンニクや、5ヘクタールの牧草の栽培で自家消費していますが、それでも年間20〜30トンほどを持て余してしまいます。使ってくれる人は随時募集中ですが、そういう人をどうやって探せばいいか悩んでいるところです。
自分たちで堆肥をたくさん使おうと、いつもより10アール当たり1トン多い3トンほどをまいたこともありました。ところが「ニンニクの色が悪くなるんじゃないか」と近所のベテラン農家が心配していたとおり、普段は真っ白い表皮の色が、どことなくくすんだ色になってしまいました。堆肥が原因かどうかは定かではないものの、品質のことを考えたすえ、いつもの量に戻すことにしました。ニンニクの面積を2.5ヘクタールに増やしたこともありましたが、今の労働力では作業が追いつかず、規模を縮小せざるを得ませんでした。

大久保さんのニンニク

純白が美しいオーク牧場のニンニク

使う農家が喜ぶ堆肥とは?

オーク牧場の堆肥

オーク牧場の堆肥。ときどき切り返しをし、1年半ほど寝かせてつくる

「有機農業も注目されていますし、化成肥料も高騰しています。そんな時代なので、堆肥をもっと積極的に使う動きが出てこないかと思ってるんです」と、成さんは言います。「耕種農家が喜ぶような堆肥をつくって使ってもらいたいし、いつか販売したいという夢もあります」
「でも、今の畜産経営は何もかもが高くて、大変」と、妻の悠紀さん。飼料も敷料も値上がりしています。今はまだ堆肥舎に投資するような余裕はないそうです。
そこで、まずはどんな堆肥が好まれているか、堆肥のことをどう思っているか、耕種農家の話を聞いてみたい──。そんな大久保さんたちの悩みを地域の異なる2人の耕種農家に話しつつ、いまどきの堆肥事情を含めて聞いてみました。

良い堆肥を求める人が増えている

「堆肥の成分分析は必須」の時代

1人目は関東平野部のAさん。
「堆肥をじゃんじゃん入れればいい、という考え方をする人はかなり少なくなってきたんじゃないかな。『いくら入れても悪いことはない』と土壌改良材として多投した結果、土がおかしくなっちゃったところもあるから。今は土壌診断をしたうえで、その結果に基づいて、成分がはっきりしたものを必要なだけ入れる人が多いと思うよ」
野菜農家のなかでも施設園芸をしている人はかなり慎重になっているそうです。堆肥を販売するには成分分析は必須ですが、無料で配布するにしても成分が分からないと使えない、とのこと。
じつはオーク牧場では昨年、土壌分析サービスを行う株式会社みらい蔵に依頼して堆肥の成分分析をしてみました。分析の費用は思ったより安価で、1検体当たり1万円強だったといいます。その結果は「カリは少なめだが、腐熟も進んでおり、普通の牛ふん堆肥として使用できる」というお墨付き。これがあるのとないのでは大違いです。使う側は安心して、施肥設計に組み込めます。

堆肥成分診断書

オーク牧場の堆肥成分分析結果

こだわりの堆肥を求める農家グループが増えている

Aさんはこうも続けます。
「『良い堆肥なら遠くにでも取りに行く』という生産グループも増えているのは確かだよ。例えば、中熟堆肥(完熟する少し手前の堆肥。肥料成分が残っているうえ、有用微生物の数も多く、エサとなる分解途中の有機物も多い)を好んで使うグループもあるし、そういう人たちとつながってみたらどうかな?」
堆肥に対する意識が高くなり、そのぶんだけ堆肥にこだわる人も増えているようです。
大久保さんたちも良い資材にこだわり、以前は牛舎の床材に堆肥の発酵を促進させるリサイクル・メイトという菌体資材をまいていました。悠紀さんは「そのときは、牛舎のニオイがなくなりましたし、地面も湿っぽくなく、ふわふわ。菌の分解力はスゴイ!と思いました。子どもが遊ぶ粘土みたいな感触が足裏から伝わってきたんです」と、なんだか楽しそうに振り返ります。
当然、つくった堆肥も良いものになっているはず。「安くない資材なのでやめてしまいましたが、またやってみてもいいのかもしれませんね」と、悠紀さん。

高騰する肥料代、堆肥を上手に活用したい

一方で、北陸の中山間地域で農業をするBさんの周囲の事情はまた違う様子。

堆肥の使い方がイマイチ浸透していない

「畜産農家は本当に大変だね。うちのほうでは畜産をやめちゃう人が増えて、畜産堆肥を使おうにも使えない状況。学生時代に『日本の畜産農家の堆肥量を計算すると、ちょうど全国の田畑に行き渡る量になっている』と聞いたけど、これからどうなるのかね」とBさん。
「どうしても畜産堆肥を使いたい人は、袋詰めのものをお金出して買ってくるんさ。好きな人は土が真っ黒になるまで入れるんだけど、そのうえで化成肥料もいつもと同じ量だけやってる様子。堆肥を入れると保肥力が高まるし、堆肥そのものにも肥料成分がある。こんだけ肥料が値上がりしているなかで、せっかく堆肥を使うのなら肥料は減らしていかないと、もったいない気がするよね。使い方がヘンだと、あの堆肥が悪かった!ってなりがちだし」
耕種農家の財布を圧迫する化成肥料の価格高騰は、ニンニクを栽培しているオーク牧場にも無関係ではありません。じつは昨年、ニンニクの圃場(ほじょう)1枚で減肥の実験をしてみました。
「堆肥はいつもどおりの量を入れたうえで、通常の半量の化成肥料で栽培してみたんです。でも、品質はあまり変わらなかったんです。こういう経験を重ねていって、使う人に知らせるのも大事なのかもしれませんね」(成さん)
ニンニクというと「肥料食い」の品目。10アール当たりの肥料代が5万円(窒素成分は30キロ)になることもあるそうで、化成肥料の量を減らせるとしたら、堆肥を使いたい人もかなり増えるはずです。

原料提供というかたちもアリ?

「そういえば、昔、視察で行った高原野菜の産地では土壌病害が深刻で、各所から畜ふんを集めて、自分好みの堆肥をつくる人もけっこういたなぁ」(Bさん)
同じ種類の野菜を連作する産地では、土壌病害が深刻化し、ワラにもすがる思いで「良いと聞いたことは、まずはやってみる」という人が多いそうです。こういう農家とつながれば、畜産農家側が完璧な堆肥を仕上げなくてもよい仕組みができるかもしれません。

オーク牧場の牛舎

オーク牧場の牛舎

畜産農家と耕種農家がもっと話をするべき

Aさん、Bさんの話を聞いていると、大久保さんたちと同様に、耕種農家のほうは畜産農家がつくる堆肥のことや上手な使い方をもっと知りたい、知ったうえで使いたい、と考えているようです。
本格的な堆肥生産は「まだ夢物語」と話す大久保夫妻ですが、成分分析や活用方法など、今実際にやっていることを、堆肥を使う耕種農家に話してみれば、夢が現実になる日も意外と近いのかもしれません。

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