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生産者をPRする「農カード」の生みの親。次なる仕掛けは、富有柿のPRを目指した6次化への挑戦

ナス男

ライター:

生産者をPRする「農カード」の生みの親。次なる仕掛けは、富有柿のPRを目指した6次化への挑戦

さまざまなメディアで取り上げられ、大きな話題となった「農カード」。その仕掛け人の一人が、岐阜県本巣市で富有柿を生産する西垣誠さんです。一時、SNS上で話題をさらったトリッキーな取り組みの裏側では、老舗柿農家として手掛けてきた直販や、6次産業化への新たな挑戦がありました。

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西垣誠さんプロフィール

実家は岐阜県本巣市で約80年続く、富有柿を生産する柿農家。会社員を経て、約10年前に親元就農した42歳。JAや市場に頼らず、直販で売り切る経営スタイルを貫いている。農カードをはじめとした販促ツールの開発のほか、富有柿のPRを目指した6次産業化にも力を入れている。

代々受け継がれる柿農家に就農

ナス男:現在の栽培作物や規模を教えてください。

西垣さん:
富有柿という品種の柿を、約2ha栽培しています。主な労働力は両親と私と妻の4人で、どうしても収穫が間に合わない時は近隣住民の方や知人にお願いし、臨時で来てもらったりしています。

ナス男:
10年前に親元就農されたとのことですが、就農される前は何をされていたのですか?

西垣さん:
色々な会社を転々としてきましたが、就農する直前までは携帯電話の代理店で働いていましたね。しゃべることや相手に喜んでもらうことが好きだったので、一番長く続いた仕事でした。歩合制の高い会社で、給与も役職も良かったですし。
新規契約獲得数全国1位になったこともあり、当時最年少で店長にもなりましたね。

農家の長男なので、一応農業高校を卒業したのですが、この時は農業を継ごうとは全く考えてませんでしたね(笑)。両親から継いでくれとも言われなかったですし。

ナス男:
まさに会社の中でもエース級だったんですね!
そんな待遇も良かった会社を辞めて、実家の農業を継ごうと思ったきっかけは何だったんですか?

西垣さん:
親会社が変わったことが大きいです。
待遇面が激変し、更には全国転勤の可能性も浮上してきたことが、私にとっては厳しかったんです。
結婚もして子どもも生まれた時だったので、家族のことを考えれば、やっぱり地元に地に足つけた仕事が良いと思いました。当時からちょくちょく柿の仕事を手伝ってはいたので、このタイミングで就農することになりました。

直売でも人気の富有柿

富有柿栽培の工夫

ナス男:
ご実家は5代続く富有柿農家だと伺いました。西垣さんが跡を継いでから新たに取り組まれたことがあれば教えてください。

西垣さん:
うちは約80年前から富有柿を栽培していますが、当時の柿の木は高く、農業機械が通れるような通路も無かったのが課題でした。
そこで、柿の木の高さを低くしてなるべく平面に近づける樹形にすることと、作業車や乗用草刈り機などが通れるような通路幅を確保した計画的な柿の木の植え付けにより注力しました。こうすることで、次の3つのメリットが得られます。

  1. 木の高さを低くそろえることで、木全体の日当たりが良くなり、果実も良くなる。
  2. 脚立や高所作業車の上り下りの時間や労力を減らし、脚立からの落下のケガのリスクも下げられる。
  3. 農業機械が通る通路幅を作ることで、省力化につながる。

私の親の代から柿の低樹形の技術や農業機械は取り入れてはいたのですが、私が就農してから全ての柿畑を低樹形で整列した植え付けにしました。
当然ながら、柿は植えてから収穫できるようになるまで約8年という歳月が掛かるので、すぐに完遂できる計画ではありませんが、省力化できた分の労力と時間を、より販売面の工夫に注げるようになりました。

ピーク時に作業スペースを埋め尽くすほどの柿のダンボール

より個人販売の割合を増やす

ナス男:
販売面では、より個人販売に積極的に取り組まれていると聞きました。

西垣さん:
そうですね。自分が就農した時から、うちはJAや市場に頼らずに、全て自社で売り切る経営でした。当時の主な取引先はスーパーだったのですが、よりお客さま個人への直売を増やしたかったんです。

なるべく直接お客さまに届けた方が、喜ぶ反応が見られるし、販売の改善やPRもしやすいですからね。今はスーパーとの取引は4割、直売で売れる分が6割くらいです。

ナス男:
全てを自社で売り切って、直売で6割も売りさばけるなんて!
でも、簡単にできることではないですよね?
個人販売を強化していく中で、苦労はなかったですか?

西垣さん:
ナス男さんの言うとおりで、個人販売は大変です。
欲しい柿のサイズや購入する時期はバラバラなので、特に柿の在庫管理やお客さまの購入履歴の管理は大変でした。

ナス男:
慌ただしく柿の出荷調整しているのが、想像できちゃいますね……
その状況を、どのように改善していったのですか?

西垣さん:
まずは顧客情報ベースを整えて、注文を完全先着順にしました。
10月までに注文してくれた方は11月中に、11月に受けた注文は12月中にという具合に。
リピーターの方でも、多くの注文がある会社でも、優先的に売るということは無くしました。

完全先着順のルールを作ってからは、注文状況と柿の在庫管理が圧倒的に分かりやすくなりましたね。注文に関しての特別扱いをせずとも、リピーターの方は約7割いてくれて、毎年収穫シーズン前の予約分で半分以上は売れてしまいます。

ナス男:
なるほど。注文状況の管理に悩んでいる農家も多いと思うので、参考になりますね。

ピーク時に作業スペースを埋め尽くすほどの柿のダンボール

メディアにも取り上げられた「農カード」誕生秘話

ナス男:
あと西垣さんと言えば、「農カード」だと思います。
テレビでも何度か取り上げられ、現在も名刺代わりに使われることも多いこの農カード、西垣さんが仕掛け人だと聞きました。制作にはどのような意図や背景があったのですか?

西垣さん:
ありがとうございます!きっかけは、漁師の方をモデルにした「漁師カード」をテレビ番組で知ったことですね。「これは農業の販促にも使えるんじゃないか!?」という「あつトマ 」さんの発案を、私が実際にオマージュして形にしました。

それがSNS上で農家にウケ、全国へと広がっていった感じですね。
農家にとっては名刺にもなるし、コレクション性がある販促ツールが欲しかったことも背景にあるのでしょうね。初回は70名ほどの農家さんから応募いただき、一人ひとりとオンラインでやり取りしながら農カードを作りました。

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ナス男:
え、約70名もの農家とやり取りされて、西垣さんが作ったんですか!?
お金になるかも分からないですし、作業の農閑期だったとしても、大変でしたよね!?

西垣さん:
大変でしたけど、楽しかったですよ!
例えお金にならなくても、みんなに喜んでもらえたらうれしいじゃないですか!
結果的に新聞やテレビにも取り上げられて、PRできました。携帯電話の販売も柿栽培も販促ツールも、コツはきっと同じだと思います。誰かを喜ばせたいという根源は、似ている気がしますね。

ナス男:
クリエイター精神ですね。誰かを喜ばせたいという考え方、勉強になります!

メディアで話題になった農カード

試行錯誤を重ねた6次産業化

ナス男:そして最近では、富有柿のジャムやカレーの販売などの6次産業化にも力を入れてますよね。これらの商品を新しい収入の柱に、ということでしょうか?

西垣さんが開発した岐阜カレー

西垣さん:
いえ、6次産業化で稼ぐというより、一番の目的は富有柿のPRのためです。
富有柿が販売される時期は11月〜12月ですが、それ以外の時期には柿の「か」の字も出ません。一年中富有柿という名前を消費者の方に忘れてほしくないという発想から、6次化に踏み切りました。

ナス男:
それでも、商品を作るのは大変だったのではないですか?
ジャムやはちみつ漬けなどは他の農家でも聞きますが、特に柿の入ったカレーは、ちょっと想像できないですね。

西垣さん:
たしかに、6次産業の知識もない所から始めるのは大変でした。
特に岐阜カレーに関しては、クラウドファンディングで資金を集めるところから始めました。そこから加工してもらえる工場を探して、交渉して……。女性に手に取ってもらいやすいパッケージやマーケティングなど、企業にも協力してもらいながら、試行錯誤しながら完成した商品です。

ナス男:
なるほど、苦労して完成した商品なんですね!
どこで購入できるのですか?

西垣さん:
私のサイトやECサイト、あとは本巣市のふるさと納税の返礼品などで購入できます。
ぜひ手に取ってもらいたいですね!

今後の目標

ナス男:
最後に、今後の目標を教えてください。

西垣さん:
まずはやはり、代々続く富有柿栽培やリピートしてくださるお客さまの信頼をしっかり守ることですね。その上で、条件が良い畑があれば、柿の規模拡大も考えたいところです。

あとは月並みですけど、富有柿の産地を守りたいということかな。
本巣市は富有柿の一大産地と言えども、富有柿だけでの経営は厳しく、サラリーマンや他の作物との兼業農家がほとんどです。

だから、富有柿1本の経営でも経営が成り立つことを証明したい!!
農業はもうからない、柿はもうからないという、世の中の流れにあらがいたいですね!

画像提供:富有柿専門農家・岐阜の西垣農園

おまけ/取材こぼれ話

ナス男:
ちなみに、学生時代はどのようなことをされてたんですか?

西垣さん:
私はしゃべったり人を楽しませることが好きだったので、農業高校でも演劇部に入り、その流れで東京の演劇の専門学校に行きました。

俳優になりたかったんですよ!ムロツヨシさんみたいな、舞台で活躍する俳優に!
自分でも劇団を立ち上げて、公演もしてましたね。

残念ながら俳優が仕事にはならなかったけど、人を楽しませたいという根源は、農カードや柿の直販にも生きていると感じますね!今でもドラマや映画のエキストラには、ちょくちょく出てます!(笑)

ナス男:
そうなんですね(笑)。西垣さんの人生はネタが尽きなくて面白いですね!

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