新たな落花生産地は北海道! 若手農家が産地づくりをPRする「メムロピーナッツ」
全国の農場を渡り歩いている、フリーランス農家コバマツです。今回は北海道中部、十勝平野の真ん中にある芽室(めむろ)町にやってきました。十勝地域は全国有数の農業地帯で、小麦・テンサイ・ジャガイモ・豆類の栽培が盛ん。これらはまとめて「畑作4品」と呼ばれています。そんな畑作4品が主品目である芽室町に、落花生の栽培に力を入れている生産者団体がいると聞いてやってきました。どうして大規模農業地帯で落花生を栽培しているのか、新たな品目の産地化に必要なことについて話を聞いてきました。
北海道の落花生農家はYouTuber?
面白い生産者を追い求めて、日々SNSのリサーチやネットサーフィンをしているコバマツ。最近は、SNSで情報発信を頑張っている生産者も多く見かけます。
久しぶりにYouTubeをリサーチしていると、農業関係っぽいチャンネルを発見!
キャッチーなロゴの農業系YouTubeチャンネル発見
メムピーチャンネル? 登録者数は8500人以上!
しかも、めっちゃ動画もアップしてて、トラクターの紹介動画は8万以上も再生されてる!
農業機械や自分たちの圃場(ほじょう)について発信している動画がいっぱい
それぞれの動画を見ていると、生産者が頑張っているのがわかるなあ~。ロゴマークに「MEMURO PEANUTS(メムロピーナッツ)」って書いてあるから、動画によく出てくる「マー君」という人は落花生農家かな。
MEMUROということは、場所は北海道の芽室町? コバマツの本拠地、帯広市の隣町じゃん!
どんな人達なんだろう、早速会いに行ってみよう!
あ! なんかメムピーチャンネルで見たことある人がいる!
コバマツ
すみませーん! フリーランス農家として全国の農家を取材しているコバマツと言います! YouTube見て来たんですけど、もしやメムピーチャンネルのマー君ですか?
マー君
コバマツ
やっぱり! YouTubeで見てた人に会えるって、なんだかうれしいな~。
メムロピーナッツって農業系YouTuberとしての名前なんですか?
いや、僕たちは芽室町内の生産者が集まった落花生の生産者団体です! YouTubeは僕たち「メムロピーナッツ」が栽培している落花生のPRをするために始めたものなんです!
マー君
コバマツ
落花生のPRチャンネルなんですね! ……というか、そもそも北海道で落花生を作ってるのが意外です。芽室町のある十勝では、畑作4品の小麦・テンサイ・ジャガイモ・豆類を大規模に栽培する農業のイメージだったので。
いろいろ興味がわいてきたので、このまま取材させてください!
マー君
コバマツ
■土屋真俊(つちや・まさとし)さんプロフィール
「メムロピーナッツ」メンバー、芽室町落花生生産組合副組合長。
1986年生まれ、北海道芽室町出身。東京都内の大学に進学するも、幼少期から両親の背中を見て「自分も農家になりたい」と思っていたことから22歳で地元に戻り、親元就農をする。実家である土屋ファームの4代目として、45ヘクタールでビート、小麦、ジャガイモ、小豆、枝豆、ゴボウ、ナガイモ、スイートコーン、キャベツ、落花生などを栽培している。
落花生が畑作4品に代わる新たな品目に⁉ ニッチな作物を狙う
コバマツ
改めて、メムロピーナッツについて詳しく教えてください。
メムロピーナッツは芽室町内の生産者11人で結成した有志の生産者団体で、主に落花生の生産、加工、販売をしています!
土屋さん
現在は芽室町内の若手農家12軒が参加
コバマツ
落花生の有名な産地といえば千葉ですよね? それに、落花生は収穫やその後の調整の作業に手間がかかるから、大産地向きじゃない作物なんだと思ってました。でっかい機械で土地利用型農業をするのが主流の十勝地域で、なぜ細かな作業が必要な落花生を栽培し始めたのか、謎過ぎます。何かきっかけがあったんですか?
もともと落花生の栽培は、2009年にJAめむろ青年部の支部活動として試験的に始まったんです。当時、小豆の販売単価が安いということが課題として上がっていて、「もっと高単価を目指せる作物を作ってみよう」と検討していました。そのときに青年部の先輩が落花生をやってみようと言いだし、やってみることになりました。ビートの育苗ハウスが3、4月の2カ月しか使われていなかったので、最初はそのハウスの空いている期間を活用して栽培を始めました。
土屋さん
コバマツ
最初は青年部の活動として始まったんですね! 他の地域でも、新しい品目で産地化を目指して取り組んでいる例をよく見かけます。でも、その取り組みが根付いている地域はあまり見ないような気がします。どうして芽室では青年部の活動が続いていったのでしょうか?
実は青年部としての活動は長く続きませんでした。青年部はJAの組織で、年齢制限があって人の出入りもあるので、毎年同じ活動を続けていくことが難しい団体だと思うんです。なので、青年部としては活動を一旦やめて、落花生栽培に可能性を感じた生産者4人で落花生生産組合を立ち上げたんです。それが2010年のことかな。
土屋さん
コバマツ
青年部の活動をわざわざ残したということですね。落花生にどんな可能性を感じて組合を立ち上げたんですか?
落花生の栽培自体は芽室では前例がなくて、スタートの段階では生産技術も流通も確立されていませんでした。でも、青年部の活動を通して畑作4品以外の新たな作物としての可能性が見えつつあったので、それまで取り組んできたことに見切りをつけるのはもったいないなと感じていました。それに、先輩や仲間達と取り組んできたことも残したいとも思って、落花生の栽培を続けていくことにしました。
土屋さん
コバマツ
確かに、十勝の畑作4品に代わる作物が出てきたら、革命的ですよね! 生産者として、将来の地域の農業を考えたら、挑戦する価値は大いにありそうですね!
産地である千葉県からの反応はどうですか?
千葉の生産者も豆の問屋さんも、すごく協力的ですよ! 国産落花生の生産が減少しているから、このままでは落花生業界がすたれてしまうという危機感もあったんだと思います。
千葉の生産者や問屋の間で、「北海道の芽室町で、落花生栽培をしている生産者がいるらしい」という情報が流れていたようで、あちらから声をかけてくれました。千葉の問屋との出会いで落花生の流通の情報を得ることができましたし、現地の生産者につないでもらえて、栽培技術や品種も教わりました。その出会いがなければ今のメムピーはないですね!
土屋さん
メンバーで毎年、千葉の圃場や問屋に視察にも行っている
コバマツ
意外! 千葉の皆さんは応援してくれてるんですね! 産地同士が協力し合うというのも、新たな品目の産地化という点では大切そうですね。
有志の活動がJAの部会に
土屋さん
■藤井信二(ふじい・しんじ)さんプロフィール
芽室産落花生の販売やPRを担うメムロピーナッツ株式会社代表。芽室町落花生生産組合組合長。
1982年生まれ、芽室町出身。地元の高校を卒業後、20歳で携帯電話の販売会社に就職、32歳で親元就農。2017年に十勝めむろ落花生生産グループを立ち上げ、本格栽培をスタート。実家の藤井農場では、43ヘクタールでビート、小麦、小豆、大豆、ジャガイモ、枝豆、ナガイモ、落花生を栽培している。
藤井さん
コバマツ
藤井さんがメムピーのリーダーなんですね! 土屋さんには芽室で落花生を作るようになった経緯などを聞いたのですが、さらにいろいろ深く聞かせて下さい! 現在は当初と比べて生産量や農家の数は増えていますか?
2017年から本格的にメムロピーナッツとして動き始めました! 栽培面積も増えていて、今は8.5ヘクタールで30トンほど収穫していますね!
2023年7月にはJAめむろに事務局を置いて「芽室町落花生生産組合」も立ち上がり、より産地化を目指す取り組みができるんじゃないかなと思ってます!
藤井さん
コバマツ
有志で始まった品目がJAも認めるまでになったってすごいですね! なかなか新たな品目でJAで生産者組合が立ち上がることってないと思います! JAの組織になることのメリットって何かありますか?
今まで全て自分達だけで賄っていたときは、施設も整っていないので、落花生を乾燥させるために、大きなハウスで暖房をたいたりしていました。乾燥施設は何億円もするので個人でその経費を賄うのは無理です。それをJAの事業でやり始めたのは大きいかな。産地化のために今後さらなる規模拡大を目指すのであれば倉庫も必要だし。それも個人で賄ったら相当経費がかかります。
藤井さん
コバマツ
最近JA批判につながるような情報も出回っていますが、生産者にとってはやっぱりメリットがあるんですね!
販売面でもそれはすごく感じますね! やっぱり、自分で作物を販売するのって大変で。受発注の経理処理もいままで全部自分達でやっていたんですけど、それもJA職員の経理担当者を一人つけてくれることになって。本当にありがたいですね!
藤井さん
コバマツ
地域によっていろいろだと思うんですけど、生産、流通のバックアップもしてくれるJAといい関係がつくれてこそ、産地化を目指せそうですね!
温暖化にも強くて収量UP⁉ 落花生の可能性
コバマツ
当初に比べてだいぶ栽培技術の向上や販路の拡大もされてきたんですね!
落花生ってほんと年々収量が上がっているんですよね。温暖化の影響なのか、僕らの栽培技術が向上したからなのか。
土屋さん
コバマツ
え、そうなんですか⁉ 温暖化でいろんな作物の収量が下がっていると言われているのに!
去年なんか特に暑かったので、小豆は収量が上がらず収穫に苦戦し、品質も例年より悪かったですが、落花生は病気知らずでしたね。温暖化は北海道での落花生の栽培という観点だけで見るなら、追い風ですね。
土屋さん
コバマツ
温暖化で小豆が育ちにくくなっているから、畑作4品に代わる作物としての落花生は、ますます重要になりますね。落花生がもっと広い面積で栽培できるようになったら、温暖化への対策もできちゃいますね! 落花生の栽培は、芽室町だけでなく十勝全体の農業の課題解決につながりそう!
実はそれだけじゃなくて、落花生の次期作の作物も収量が上がるんですよね! 落花生の残さには緑肥効果もあると感じてます! 落花生は葉っぱが青いまま畑にすき込むから、畑に窒素が行くんですよ。落花生の根っこにいる根粒菌が空気中から窒素を取り込んでくれるので。 落花生の後にイモを植えたらすごい収量になったんですよ。
大豆や小豆の場合は、サヤを乾かしてから収穫して、その残さをすき込むから栄養があまり残ってないのか、そんな効果は感じたことがないんですけどね。
土屋さん
落花生は葉が緑の状態で土壌にすき込むため、緑肥効果があるそう
コバマツ
落花生、すごい!! 畑作4品の代替作物になるだけじゃなくて、高収益も見込めて、緑肥効果もあるなんて! ますます可能性感じちゃいます!
楽しいことをやり続けて、販路開拓!
コバマツ
今回私はメムピーチャンネルのYouTube動画を見てやって来たのですが、このような情報発信はいつから始めたんですか?
YouTubeは2021年から始めました。落花生の販路がまだあまり広がっていなかった頃は、地元のスーパーとかで直売をしていたんですけど。コロナ禍になって人の足がお店から遠のいて、「何か知ってもらう方法はないかな」と考えてYouTubeを始めたんです。落花生のことだけじゃなくて、自分たちの農業の様子も知ってファンになってもらえるような、いろいろな内容を発信しています。
藤井さん
コバマツ
コロナがきっかけだったんですね! 確かにYouTubeなら全国の人に見てもらえますもんね! メムピーチャンネル、皆さんが楽しそうに農業をしている様子がついつい気になって見ちゃいますね!
それ以外にも地元のスーパーで販売したり、地域のお祭りやイベントとかにも出店して、自分達の商品を地元の人にも知ってもらうためにPRしていますね。
藤井さん
地元のイベントにも出店をしている
地元のお菓子屋とコラボした焼き菓子も開発し、メムロピーナッツの落花生のPRもしている
コバマツ
今は道内のイオンやマックスバリュ合わせて100店舗以上と、あとは道内に新しくできる無印良品のほか、キオスクでもこれから販売していく予定ですね!
藤井さん
コバマツ
めちゃくちゃ販売先がありますね! YouTubeで戦略的に宣伝、広報してきた効果ですかね!
戦略とかブランディングとかよく言われるんですが、僕はあんまりそこは意識してやってきたつもりはなくて。ただ目の前の楽しいって思うことを全力でとにかく頑張ってきただけなんですよね!
日本で流通する落花生のうち、国産って1割しか流通していなくて、競合が少ない品目なんですよね。産地の千葉の生産量も減っていっている。そんな状況で落花生の生産販売を続けていくことができれば「絶対に売れる」という自信もありました!
藤井さん
コバマツ
たしかに、競合が少ない品目の中で、生産量を安定させていくことができたら強いですよね! 需要はあるわけですし。それに加えて、この発信力があったら、販売先もどんどん見つかりそう!
では最後にマイナビ農業の読者に向けて、メッセージをお願いします!
よく「ブランディングやPRのコツってなんですか?」って聞かれるんだけど、さっきも言ったように、コツはとにかく目の前のことを楽しく頑張る! それしかないかなと。やり続けることが重要だと思いますね! そんな僕たちの発信を見ることで、販路が増えるだけじゃなくて、落花生を自分達も作ってみたいっていう生産者が増えていけばいいなって思いますね。
藤井さん
生産する人が増えていくことで、機械化も進んでもっと効率化して面積も拡大していけると思っています! 畑作4品の代替作物としても可能性があるし、緑肥効果もある。自分自身が落花生栽培に可能性を感じているので、他の生産者にも可能性を感じてほしいと思っています。そういう意味でも今後も芽室町を落花生の産地にするために頑張っていきたいと思います!
土屋さん
コバマツ
競合がいなくてニーズもあるし、収量UPも見込めて、緑肥効果もある落花生栽培。なにより、楽しそうに農業をしている藤井さんと土屋さんの話を聞いて、私も落花生を作りたくなってきちゃいました! 今後もぜひ頑張ってください!