日本初の商用インターネット事業者として 30年以上にわたって日本のITを支えてきたIIJ。近年ではネットワークやクラウド、セキュリティサービスなどの自社サービスを活用し、さまざまな領域でIoTサービスやソリューションを提供している。農業分野では、2016年から水田センサーの開発に着手。2017年に静岡県で実施した水稲栽培のスマート農業技術実証を皮切りに、無線通信技術「LoRaWAN(※)」などを活用した農業IoTの推進を、全国の自治体で取り組んでいる。
(※)米Semtech社が開発した無線ネットワーク「LoRa」を活用した低電力・広域ネットワークプロトコル。LoRaによる通信はWi-Fなどと比較して、より広い通信範囲が実現可能となる
記者発表会では、同社が手掛けてきたスマート農業に関する5地域での取り組みや成果について公表され、農業現場で実際に利用している水田センサーやIoTを活用した鳥獣害対策の罠(わな)検知システムなどのデモ機も披露された。
まずは2023年から取り組む、愛媛県の地域課題解決プロジェクト「デジタル実装加速化プロジェクト」に関してだ。同8月に開始した「真穴みかん」栽培の品質・収量向上を目指した実装実証では、LoRaWANの無線インフラを構築し、どこでもセンシングを行えるネットワークを整備。計120の土壌水分センターを設置し、土壌水分のデータ収集を通して灌水(かんすい)の最適化などによる品質向上と収量の高位安定化を目指してきた。
同日は同社アグリ事業推進部長の齋藤透(さいとう・とおる)さんが、2024年度も同事業の採択を受けた事を発表した。「土壌水分量のデータ収集や収集したデータの分析を進め、ミカンの収量・品質安定化に向けた灌水オペレーションの最適モデルの確立を目指す」と説明。この他、愛媛県での栽培が増えつつあるサトイモの収量安定化やアボカドの生産技術向上に向け、データ分析基盤の横展開にも取り組む構えだ。特に国内での栽培事例が少ないアボカドについては「データの蓄積と活用が必須」とし、真穴みかん同様に土壌水分センサーを活用したデータ収集を通じて生産技術向上につなげる構えだ。
JAつべつ(北海道津別町)と連携して進めるのが、電波の届かない携帯不感地域でトラクターを自動操舵(そうだ)する実証実験だ。自動操舵は通常、衛星測位システム(GNSS)に加え、固定基準局からの補正情報をインターネット経由で受信する事で高精度の測位を実現する技術だが、携帯の電波が届かない地域ではこれが使えない。そこで、電波がギリギリ入る地点にLoRaWANの基地局を設置し、数キロ圏内の不感地域でGNSS補正信号を中継できるようにした。構築した無線通信環境をインフラとして、鳥獣罠検知システムや水位監視システムなどのさまざまなサービスを展開し、農村地域の課題解決を図りたい考えだ。
この他、宮城県登米総合産業高校で行っているスマート農業に関する出前授業や、千葉県白井市の実証圃場で手掛けているIoTデバイスや無線技術などの検証、神奈川県の芦ノ湖における無線通信を活用した監視・モニタリングや水温情報の取得といった取り組みについても発表された。
国内約70地域の支援実績を持つIIJ。今後も農業現場での省力化や生産効率向上に資するソリューションの地域全体での活用推進、複数用途での展開などに期待が寄せられる。