総合商社が農業生産に参入
自動車、航空・社会インフラ、エネルギー・ヘルスケア、金属・資源・リサイクル、化学、生活産業・アグリビジネス、リテール・コンシューマーサービスなど多岐にわたる事業を手掛ける双日株式会社。グループ会社は国内127社、海外299社(2024年6月30日時点)、従業員数はグループ全体で2万人を超える、日本を代表する総合商社として知られています。
同社が生活産業・アグリビジネス分野の国内農業関連事業として新たに取り組んでいるのが、生産から一次加工、物流、販売までDXを活用した事業です。2022年6月に双日株式会社の100%子会社として設立された双日農業株式会社が主体となり、各連携産地で輸入農産物の国産化やGAP認証農産物の生産とGAP認証取得をサポート。選別や一次加工のほか、全国規模での効率的な物流網の整備や生鮮野菜全般の販売を行っています。
商社の強みである販売を軸として、農業に関わる川上から川下までを一貫して手掛けるビジネスモデルとなっています。具体的にどんな事業を展開しているのでしょうか。
双日農業が取り組む農業ビジネス
双日農業が取り組む事業内容としては主に、「産地形成」「営農支援」「販売事業」「GAP認証取得のサポート」の四つがあります。
産地形成
「現在、国内におけるタマネギ消費量は約150万トンですが、このうち国内産の消費率は約80%。すなわち、約20%にあたる約30万トンが中国を中心とした輸入品となっています。収量は国内平均が10アールあたり5トン前後となるため、栽培面積に直すと、約6000ヘクタール分のタマネギを輸入していることになります」と声をそろえる、岡田さんと塚本さん。
そこで、同社が新たに取り組んでいるのが、国産タマネギの周年供給体制構築のための産地形成です。具体的な取り組みとして、2023年3月には新たなタマネギの産地になりつつある秋田県由利本荘市に双日由利農人株式会社を設立したのを皮切りに、2023年11月には大規模な基盤整備により収益作物を模索していた高知県南国市、大分県国東市にそれぞれ新会社を設立しました。地域の生産者と連携しながらタマネギの生産、乾燥調整、選果、出荷が行われています。
このほか、2022年には株式会社みらい共創ファーム秋田、農研機構が進めてきた、加工・業務用タマネギの新たな産地形成と生産・加工・流通システムの構築に向け、関係者間の連携や情報交換を行う場として東北タマネギ生産促進研究開発プラットフォームの立ち上げに参画しました。2030年までに、東北全体で約1000ヘクタールのタマネギ産地を形成することを目標に掲げているといいます。
営農支援
高知県や大分県は、これまでタマネギの産地ではなかったことから、同社が現地の生産者に情報提供しながら生産の支援を行っています。これまでタマネギの産地として生産者が多い秋田県では、営農支援の形で生産を後押ししています。
例えば、これまで秋田県由利本荘市では収穫と梅雨の時期が重なることもあり、十分な乾燥ができず廃棄してしまうことも少なくありませんでした。そこで、大規模な乾燥設備や選果設備の導入、播種(はしゅ)機やブームスプレイヤーなど営農機器の貸し出しを行っています。これまで以上に安心してタマネギを作ってもらえるような環境を提供することで、産地としてより生産に集中してもらうことが狙いだといいます。
販売事業
商社としての販売の強みを生かし、産地で作られたタマネギを全量買い取りし、販売もしています。販売事業の特筆すべき点は、GAP認証を取得した農産物の取り扱いです。
自社のネットワークを活用し、産地と直接つながることでGAP認証を受けた農産物の比率を大幅に上げているといいます。また、つながっている産地のGAP取得のサポートも積極的に行っており、現在、取り扱い量の約60%を超える農産物がGAP認証を取得しているといいます。
また、取り扱い品目としては、レタスやトマト、大根、タマネギといった生鮮野菜を中心に扱っており、首都圏を中心としたコンビニ系食品メーカーや量販店、外食事業者などへ販売しているそうです。
GAP認証取得のサポート
双日農業がJGAP団体事務局となり関連の産地や農場でのGAP取得をサポートしています。
GAP取得においては、個人での取得となると金額による負担額や取りまとめする資料など多くの手間が必要となります。それに比べ団体認証の場合は、負担額が低減し、事務局が帳票作成、審査申請のとりまとめをし、生産者が産地での日々の管理や薬剤の保管をするなど役割分担をすることで管理の効率化を図ることが可能です。結果として、同社としてもGAP認証を受けた農産物の取り扱い量が増えるので、それを販売の強みとすることができ、(利益)還元することができるといいます。
総合商社が目指す農業の展望
通年を通してのタマネギの安定供給
これまでグループとして手掛けてきた秋田県、高知県、大分県での産地形成ですが、通年の供給といった観点からみると今後、新たな地域での産地形成も必要となります。現在、試験的に北海道や東北、北関東でも生産を開始しており、本格的に生産開始されれば通年供給も可能です。今後、こうした産地での拠点を作りながら、それぞれの地域での収量を増やしていき、短期的には全国の各産地全体で約300ヘクタールのタマネギ生産を目指していくといいます。
また、通年での産地形成がなされていくと、人材不足という農業界全体の課題解決にもつながるといいます。タマネギ栽培に関しては繁忙期と閑散期が明確に分かれるので、収穫のタイミングに合わせて人材を南から北上させることが可能です。生産者だけでなく、働き手としても閑散期なく通年の仕事を確保することができるといったメリットにもつながります。
今後はニンジンにも参入予定
「ニンジンの国内消費量は約65万トンで、そのうち約90%が国内産。つまり、約10%にあたる約8万トンが中国を中心とした輸入品となっています」と岡田さんと塚本さん。そこでタマネギと同様に機械化が可能なニンジンの産地形成を試験的に開始。今後は、タマネギとニンジンといった二つの柱を軸に農業生産を行う予定だといいます。
加工による収益性の増加
カット野菜や冷凍野菜などではなく、タマネギの皮むきといった一次加工の分野も検討しているといいます。
実際、中国などから輸入されるタマネギは皮がむかれた状態のものも多く、皮をむいた身なりでの需要が少なくありません。これから輸入品の代替品となるためにはそういった需要にも答えていく必要があります。
需要側の品質基準をクリアして、物流問題にも対応し、タマネギの皮むきの自動化等を進めているパートナーと共同しながら、一次加工の分野にも参入していく方向で進めているといいます。
収益を出しづらいといわれている農業分野において、生産から加工、流通、販売と、これらの取り組みを複合的に行うことで、稼げる農業ビジネスを構築していくことが可能だといいます。
今回取材をしていて双日の担当者は終始、「これらの計画を推し進めるためにも地域の生産者がきちんとした収入を得られるような形でなければ持続できない」と強く話されていました。今後、双日の取り組みがどのような展開を迎えていくのかが、農業と企業といった関係の行く末に大きく関わってくるのではないでしょうか。