JAの概算金が大幅アップ
JAグループは毎年コメの集荷が始まる時期に概算金を決定する。まずJA全農の各県本部がコメの銘柄ごとに管内の単位農協に払う概算金を決め、それを踏まえて単位農協が農家に渡す概算金を決める。
筆者が取材したのは、東日本のJA全農県本部。担当者によると、2024年産のコシヒカリの概算金を前年比で3割強引き上げたという。それに見合う形で、単位農協が農家に払う概算金の額も増えた。
ニュースでは米価上昇による家計への影響が伝えられることが少なくない。消費者がそれを心配するのは当然だろう。だが多くの農家からすれば、ここ数年の価格は安すぎて、利益を出すのが難しい水準だった。
最大の理由は、2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大によるコメの消費の減少だ。休校や飲食店の営業停止などで給食や外食の需要が減退。コメ卸などとの価格交渉が難航し、概算金の引き下げが続いた。
これに対し2024年産の概算金は、肥料代や燃料価格など最近のコスト上昇を考慮に入れても農家が利益を確保できる水準に設定できたという。担当者は「この水準なら生産者に納得してもらえるだろう」と話す。
2023年産のコメ不足の影響で卸会社の間で「高値でも買いたい」という声が強まり、概算金の大幅アップが可能になった。卸会社の側も、高値で仕入れても赤字にならずにスーパーなどに販売できると考えた。
集荷業者が高値で買いつけ
ここで注視すべきは、現場でコメの取引に関わっているのは農協だけではないという点だ。コメの集荷業者が農家と交渉し、一定量のコメを買いつける。価格は通常、農協の概算金にある程度の額を乗せて設定する。
その水準が2024年産は高騰した。筆者が取材した県の概算金が3割強アップしたのは先に触れた通り。これに対し、概算金の上昇分の2倍以上の金額を上乗せして集荷業者が買いつけるという事態が9月に起きた。
農家は農協との間で出荷契約を結んでいる。だが概算金とあまりにかけ離れた金額を集荷業者が提示したため、農協と契約した分の一部を集荷業者に販売した例があるという。その分、農協の集荷量が目減りした。
農協の概算金と集荷業者の買いつけ価格の大きな差は、両者の販売方法の違いを反映している。この県の場合、JA全農の県本部は集荷したコメのうち約7割について、コメ卸などとの間で事前に販売契約を結ぶ。
契約を結ぶタイミングは田植え前や収穫前などさまざま。収穫が始まると本契約に移行し、値段の交渉が始まる。納品する時期は翌年の10月ごろまで。その間の相場の変動を踏まえると、極端な値段はつけにくい。
一方、今回の集荷業者の動きは短期勝負の買いつけだった。農家に対して「9月10日まで」「9月15日まで」といった具合で、集荷の期限を切って買い入れ価格を提示して回った。一部の農家がこれに応じた。
背景には、店の棚にコメがないことに動揺したスーパーなどの存在があったと見られる。かなりの高値で仕入れても当分は店頭価格に転嫁できると見込み、集荷業者に緊急で買いつけを頼んだ可能性が大きい。
「値ごろ感」を追求する大切さ
ここでいったん農家の立場から今回の事態を見てみよう。