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時代に先駆け、有機肥料で育てた野菜をグループ販売。ベテラン農家の半生に見る生産の流儀

吉田 忠則

ライター:

時代に先駆け、有機肥料で育てた野菜をグループ販売。ベテラン農家の半生に見る生産の流儀

有機肥料を中心に作物を育てて付加価値を高め、グループをつくって共同で販売する。いま営農の1つのモデルとされる手法を、約40年前に取り入れた農家がいる。どうやって仕組みを確立したのか。農業法人のあずま産直ねっと(群馬県伊勢崎市)の代表、松村昭寿(まつむら・しょうじ)さんを取材した。

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「これから終活」と語った農家

松村さんを知ったのは、オイシックス・ラ・大地が8月下旬に東京都品川区の本社で開いた記者発表会だ。テーマは2025年に注目される青果物のトレンド。野菜をメインに短時間で調理できる「タイパベジ」や、栄養価の高さで健康志向に応える「きくベジ」などのトレンドが提起された。

冷蔵庫や台所でスペースをとらない「スペパベジ」もその1つ。例として紹介されたのが白菜や大根、ロメインレタスなどの小ぶりの品種だ。そんな野菜を栽培する生産者として、会見で登壇したのが松村さんだった。

松村さんは68歳。高齢化が指摘される農業の世界で、まさに平均年齢に相当するベテラン農家だ。質疑応答では、作物が求めていることにいかに応えるかなど、長年の経験で培った栽培のノウハウを披露した。その中で、とくに筆者が注目したのは次の言葉だ。「もう終活の時期に入っている」

農家にとって終活とは何を意味するのだろう。それを知りたいと思い、日を改めてあずま産直ねっとの本社を訪ねた。にこやかな表情で取材に応じた松村さんは、いまも現役であることを示す活力に満ちていた。

終活という言葉の意味を理解するには、松村さんのこれまでの歩みを理解することが必要だろう。そこでまず就農したころのことについてたずねると、松村さんは「今年でちょうど50年目になる」と言って半生を語ってくれた。

オイシックスの記者発表会に参加した松村さん(左)

県内で栽培方法を普及

松村さんは代々続く農家の出身。農業高校を卒業し、実家で就農した。品目はコメとトマトで、面積は1.6ヘクタール。当時は乳牛も育てていたが、松村さんの「野菜に力を入れたい」という意見を両親が受け入れる形で、酪農はこの年限りでやめた。

就農して何年かたったころに注目したのが、ひと世代上の近くのトマト農家だった。当時では珍しく有機肥料を軸に育て、消費者にじかに販売していた。市場に出荷していた松村さんは「あの人を目標にしよう」と心に決めた。

必要と感じたのが、栽培方法の抜本的な見直しによる品質の向上だ。それを行動に移したのは1980年代半ば。有機肥料の作り方を学ぶため、肥料販売店の息子らと一緒に滋賀県で開かれた講習会に参加した。

油かすや魚かす、米ぬか、骨粉などに発酵菌を加えてつくる有機肥料のことをそこで知った。作物の品質が上がる可能性を感じた松村さんは自分たちだけで取り入れるのではく、地元で広めて農業を盛り上げたいと思った。

松村さんが旗振り役になり、肥料店が原料を提供する形で呼びかけると、有機肥料の自家製造に取り組む仲間は群馬県内で100人を超すまでになった。滋賀の講習会で講師を務めた専門家も指導のために群馬を訪ねてくれた。

「農産物が安全なのは前提で、より大切なのはおいしいこと」。松村さんは当時からそう考えていた。農薬や化学肥料を減らし、有機肥料が中心の栽培に切り替えたのも、味がよくなるという手応えを感じたからだった。

そのことが本来の目的である消費者への販売につながっていった。

あずま産直ねっとの農場の様子

生協を中心に販路が拡大

有機肥料を使い始めたころ、主な出荷先は市場から農協に移っていた。車で30分かけて運ぶ市場と違い、農協の集荷場は5分の至近距離にあったからだ。栽培方法の見直しを機に、売り先をさらに変えるための挑戦が始まった。

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