赤いトウモロコシは、誰もが手に取って笑顔になれる品種を目指して生まれた
日本のトウモロコシといえば、黄色、白色、そして、黄色と白色の品種を掛け合わせて作られたバイカラーである。なぜ、赤を目指したのか。大和農園で『大和ルージュ ® 』の開発に携わった金子久美(かねこ・くみ)さんは「皮を剥いたときに赤いトウモロコシが現れたときに「わー」とうれしくなってもらえたらと。誰もが手に取って笑顔になれる赤い色を目指しました」と語る。
黄色いトウモロコシをベースに赤い色の優勢性を出すために研究栽培を重ねたという。
「自然との戦いなので台風が来ることもありましたし、雨が降らない日が続くこともあって、なかなか計画通りにはいきませんでした」と金子さんは当時を振り返る。
試行錯誤を重ねながら日本人が好む「赤」と「スイートコーン(甘味種)」を目指した開発が進められ、開発に着手してから約5年でようやく完成した。
『大和ルージュ ® 』の一番の特徴は、何と言ってもその鮮やかな色である。「ヒゲも芯も赤いので、トウモロコシご飯を炊くときは芯も一緒に炊くとより赤が際立ちます」(金子さん)
栄養の面では、一般的なスイートコーンにはないアントシアニンが豊富に含まれ、その含有量はイチゴの2.5倍(100ℊ当たり45㎎)ある。
トロピカルスイートコーン『大和ルージュ ® 』は年に2回の収穫が可能
『大和ルージュ ® 』の品種の特性を挙げてみよう。
〇日本初の「赤い」スイートコーン
〇トウモロコシの風味を強く感じられ、食味に優れる
〇糖度目安は16度
〇穂色は「濃い赤紫」で穂先の締りは良好
〇穂重は約300~350g、先端まで実りが良い
〇熟期目安は100日程度の晩生種
〇草勢は強く、草丈は3mを超えることがある
日本で栽培されているトウモロコシはアメリカ系統に由来を持つ品種が多いが、『大和ルージュ ® 』は、東南アジア系統に由来を持つ品種。南国の厳しい環境に対応可能なほどに強勢で、吸肥力が強い品種だ。大和農園では「トロピカルスイートコーン」として区分している。区分した理由は、現在国内で流通している従来のスイートコーンとの交雑で色や甘味が低下したり、食用に適さない食感になる可能性があるからだという。
「春まきと秋まきがあって、年に2回、収穫できます。10月が収穫のピークです」(金子さん)
10月がピークと聞いて驚かされた。しかもトウモロコシで年2回も収穫できる品種はこれまで無かったはずだ。
「栽培している農家さんのInstagramを見ていると、11月に収穫した人もいらっしゃいますし、宮崎県では「クリスマスルージュ」を目指して栽培して、実際にクリスマスシーズンに収穫された人も居るんです。通常、トウモロコシは霜に当たると枯れてしまいますが、既に実が付いている時点で霜に当たっても(大和ルージュ®は)皮が厚いため実が守られたんです」と金子さん。
春は3~4m前後の草丈になり、秋は春に比べて草丈が低くなるが、種をまいてから収穫までの日数が早いそうだ。「草丈が高い分有機物量も多く、収穫後に土に漉き込めば良い緑肥になります」(金子さん)
大和農園では「日本初の赤いスイートコーンを食べつくそう!」と、10月26日にハロウィンマルシェを開催し、参加するレストランやカフェが『大和ルージュ ® 』を使用した限定メニューを提供している。また、草木染体験や収穫体験も実施した。このシーズンにトウモロコシの収穫体験ができるのは貴重である。実だけでなく、ヒゲや芯まで使い「赤」を生かした色鮮やかな料理も続々と生まれている。
開発側からのインスタ発信がきっかけで、拡散
『大和ルージュ®』が短期間で農家に認知されるようになった要因の一つが、SNSでの積極的な発信だ。
「発売前からインスタで発信をしていったので、リアルタイムのコミュニティーができました。大和ルージュファミリーと呼んでいるんです。開発してカタログに掲載しただけでしたらここまでの動きにはならなかったと思います」(金子さん)
開発側である種苗会社からの発信に、個人個人で『大和ルージュ ® 』を広める動きが起こったそうだ。それぞれ農家が地域の気候条件や栽培の工夫をしながら、お互いに情報交換をしているそうだ。
販売は沖縄から北海道まで全国に広がり、町おこしとして栽培に取り組む地域も増えている。販売の手助けになるようにと、青果出荷用袋、販売用ポップ、オリジナルロゴ、販促用シールなどの販促ツールを制作しており、利用できるようになっている。
種から始まり、生産者から量販店、料理店、消費者へとつながり、誰かの想像力が新しいうねりとなっている。
耐気候性に優れ、全国各地で栽培可能な『大和ルージュ ® 』が今後、どのような広がりを見せていくのか大いに期待したい。