交流を真ん中に、福島のいなかの魅力伝える農泊
逢瀬町(おうせまち)は、福島県郡山市にある人口約3,700人の町。主な産業は農業で、町民の多くが、郡山ブランド野菜や果樹、米などの生産・加工に従事しています。
「逢瀬いなか体験交流協議会」は、逢瀬町の農家を中心に2004年に設立されました。有志らが、福島県の農村の魅力を伝えようと、以前からおこなっていた農業体験を持続的な取り組みにするために農家民宿を始め、協議会はその運営や農業体験の受け入れを主な事業としてきました。
その設立から10年後の2014年、協議会事務局に中潟亮兵さんが着任しました。東京出身の中潟さんは、大学で日本の農村が抱える問題を研究し、卒業後すぐに逢瀬町に移住して、農泊のコーディネーターとして体験プログラムやイベントを企画・運営し、農家と旅行者をつないできました。
現在、同協議会は15組の個人・団体で組織され、農泊の宿泊施設として農家民宿5軒と旅館3軒、プログラム提供施設は体験型農家民宿「なんだべ村」をはじめ10軒あり、互いに連携しながら各種体験や交流、ワークショップを企業・大学生・一般向けに提供しています。活動の目的は、都市住民が「いなか」の良さを体験するとともに、逢瀬町の住民が地域に対する意識を高め、地域を盛り上げていくことです。
体験のメニューには、地元食材の料理や工芸、野外活動などが用意され、中でも特徴的なのは環境・防災教育です。「なんだべ村」の前身が「川塾」という子どもたちを川で遊ばせるためのリスク管理をする大人のグループだったことから、山歩きでの危険、火を扱うときやノコギリ等の道具を使うときの危険予知訓練を、各プログラムに取り入れています。環境教育も同様に里山体験で学びを残すことを意識しています。
「農泊を持続的な事業にしていくために、交流が真ん中にある活動をしています」と中潟さん。農家の思いやその人となりを知る「人ありき」の体験を通して、旅行者が逢瀬町に「また来たい」と思える関係づくりを目指しています。
農村地域の課題を地域外の人のかかわりで解決へ
農泊を軌道に乗せた逢瀬町でも、農業は厳しい状況にあります。近年の後継者不足や高齢化に加え、東日本大震災の原発事故による風評被害もあり、耕作放棄地が増え、離農を考えている人や子どもには継がせたくないと思う人も多くいます。農家を辞めたい・継がせたくない最大の理由である「農家の所得不足」の課題が改めて浮き彫りになりました。
「逢瀬いなか体験交流協議会」では、収入源となる「農家民宿」や「農作業・いなか体験」のほか、「農作物直売所の開設」や「出張販売」の支援にも取り組んできました。農家の女性を中心に運営している農産物直売所「ポケットファームおおせ」では、首都圏への出張販売を年4回程度おこなうなど、地域のPRと農家の所得向上に向けて精力的に活動しています。
一方で、逢瀬町は高齢化率が40.7%と、郡山市全体の28%と比較しても極めて高く、農泊にも新たな展開が必要です。
「これまで学生の団体やシニアを中心に、地域と深く関わってもらえるプログラムを運営・実証してきました。その成果として、学生は卒業後に個人として観光などで地域を再訪し、シニアは地域の同世代とお互いを気遣う関係が生まれて顔を見せに来るなどの交流が続いています」と中潟さんは話します。
協議会として、地域外から地域と継続的にかかわる「関係人口」の増加につなげるため、農泊にさらに磨きをかける方策を打ち出しました。それが「貢献型旅行」です。
「貢献型旅行」の取り組みで農泊モデル地域に選出
「逢瀬いなか体験交流協議会」では、リピーターや移住者が地域に新たな来訪者を呼び込むプログラムを一緒に考えていく「貢献型旅行」の取り組みを2023年度に開始しました。主に都市部に住む若者を対象とした体験を模索しています。
そのひとつとして、地元農家の復興支援を目的に設立された「ふくしま逢瀬ワイナリー」との協業でワイン用ブドウの収穫体験を、2024年9月に実施しました。参加者は1泊2日で繁忙期の農作業を手伝い、なんだべ村に宿泊して里山の暮らしを体験しました。それで終わりではなく、収穫したブドウで作ったワインを首都圏での販売イベントに出品し、貢献の成果を目に見える形で示すことにもこだわりました。
このような「貢献型旅行」の取り組みとこれまでの実績が評価され、「逢瀬いなか体験交流協議会」は、「令和6年度持続可能な農泊モデル地域創出支援事業」で全国5つの農泊モデル地域のひとつに選定されました。
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2024年3月末時点で、農泊に取り組む地域は全国に656地域あります。「持続可能な農泊モデル地域創出支援事業」は、JTB総合研究所が農山漁村振興交付金を活用し実施しており、選定された農泊モデル地域に対して、事業モデルの実現に向けた取り組みを支援しています。
「地域を消費させる旅行ではなく、地域の生産性を高める持続可能な旅行をつくることに新規性があります。本地域をモデルとしてノウハウを蓄積させ、他地域へ波及させることができればうれしいです」と中潟さんがコメントを寄せてくれました。
「貢献型旅行」の取り組みで農泊モデル地域に選出
一般的に、旅行は普段とは違う場所で作られた非日常を体験する一過性のものが想像されます。一方で、貢献型旅行は地域に出向いてそこでの日常(異日常)を体験し、地域を深く知ってその一員となることで、お気に入りの地域をつくり、継続的に関わることが目的です。
「貢献型旅行は農家と旅行者がwin-winである必要があると思います」と中潟さん。「貢献される側にメリットがあるだけでなく、貢献する側に自身の行動で地域にどんな貢献がなされたかをフィードバックすることで地域の役に立っていることを実感でき、それをモチベーションに繰り返し来ていただける関係性ができると考えています」と言葉を続けます。
運営としては、農業、食、伝統文化など複数ある体験プログラムの軸ごとに貢献型旅行化を進め、近い将来に各軸の関係人口が一堂に集まる場を設け、さまざまな体験に参加する流れを作り、既存のリソースで農泊の持続化を考えているそうです。
地方を元気にする方法は人の数だけあります。農泊を通して福島県や日本の農業を農村以外で暮らす人に知ってもらい、逢瀬町で交流した人が町の人と継続的なつながりを持つことが体験提供者のモチベーションとなり、地方を元気にすることは間違いなく言えるでしょう。
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逢瀬いなか体験交流協議会
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福島県郡山市逢瀬町多田野字久保田47 逢瀬町商工会内
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