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有機イチゴで病害虫が出たら? 農家が明かす作戦は「価格設定と別の品目」

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

有機イチゴで病害虫が出たら? 農家が明かす作戦は「価格設定と別の品目」

農業は天候に左右されるので、天候リスクをどう抑えるかは今も昔も最大の課題。化学農薬を使わない有機栽培は、不測の事態への備えが一層大切になる。病害虫のリスクの大きさから、有機は難しいとされてきたイチゴで、栽培を軌道に乗せたふしちゃんファーム(茨城県つくば市)を取材した。

有機イチゴを100店に販売

ふしちゃんファームを運営する農業法人「ふしちゃん」は設立が2015年。約90棟のハウスで、コマツナやレタス、ホウレンソウなどの葉物野菜を育てている。イチゴを育て始めたのは2021年で、今シーズンのハウスは11棟。

代表の伏田直弘(ふしだ・なおひろ)さんは「有機イチゴのマーケットはあると言えばあるが、ないと言えばない」と話す。事業を大きくできるポテンシャルは十分にあるが、まだ市場は広がっていないという意味だ。

イチゴは病害虫に弱いため、化学農薬を使わない有機栽培は全国を探してもほとんどない。まだニッチだからこそ狙いを定め、栽培と販売の両面作戦で市場の開拓に挑戦した。すでに手応えもつかみつつある。

有機JASの認証を取得したイチゴ

まず重視したのは、「健全」な苗の調達。温度管理などを徹底している育苗業者から購入し、病害虫の発生リスクを抑えた。自社農場で定植した後は害虫を退治する天敵昆虫など、有機JASが認める手段をフルに活用した。

普通なら、販路の確保がこの先の課題になる。スーパーをはじめ、多くの小売店は有機イチゴを扱ったことがないからだ。伏田さんは葉物野菜でつながりのある先にまず売り込み、それ以外にも売り先を広げていった。

ふしちゃんファームの有機イチゴを扱う店舗は首都圏を中心に約100店。卸値は、栽培の経験がずっと多いベテラン農家のものと遜色のない水準だ。有機であるという希少価値が、新規参入では異例の高値を可能にした。

3月以降は病害虫のリスク

ここで高値で売ることの意味を改めて考えてみよう。有機は慣行栽培と比べて手間がかかり、病害虫のリスクも大きいので一般に高値で販売されている。伏田さんも事情は同じだが、そこには緻密な計算がある。

伏田さんがイチゴに目をつけた理由のひとつに、収穫の盛期が病害虫の出にくい冬場だということがある。実際に育ててみると、その点は予想通り。一方で3月以降になると病害虫が発生しやすくなることについても、最初の3年で確かめることができた。

苗の定植前にハウスの地面にビニールを張り、太陽熱で地中を高温処理し、病害虫や雑草が出にくくするなど防除に手を尽くす。研究機関とも連携しながら、約10年にわたって葉物野菜で積み上げてきたノウハウだ。

それでも気温が高くなると、被害を防ぐのが難しくなる。そこで価格が意味を持つ。収穫時期は12月下旬から翌年の5月まで。リスクの少ない冬場にしっかりと収益を確保し、収量が減る3月以降をカバーしているのだ。

イチゴの栽培の様子

葉物野菜を作っている強み

では3月以降に収量減にとどまらず、ほとんど出荷できなくなるリスクはないのか。伏田さんはその可能性があることを認めたうえで、「そこがうちの強み」と強調した。「そうなったらイチゴを全部引っこ抜いて、コマツナに植え替えるだけ」

イチゴとコマツナは科目が違うため、病害虫がうつるリスクは小さい。それでも念のため、温水除草機で95度の熱湯をまいてハウス内を洗浄する。3~4月は日差しが弱いので、太陽熱による地中の処理が効かないからだ。

実際に3月以降にイチゴを抜いて、コマツナに植え替えたことはまだない。肝心なのは、イチゴで深刻な被害が出たときのことまでシナリオに入れ、対策をしっかり考えたうえでイチゴ栽培に参入した点だ。

有機イチゴのマーケットがまだ小さい理由がここにある。イチゴ専業の農家だと、春先以降に収穫ががくんと落ちるリスクに耐えるのが難しいのだ。伏田さんの場合、葉物野菜があるので一歩を踏み出すことができた。

コマツナ

視点を変えて、ふしちゃんファームで主力の葉物野菜にとってイチゴが持つ意味を探ってみたい。その点について質問すると、伏田さんは「イチゴの収穫期は葉物野菜で人手があまりかからなくなるから」と答えた。

冬になると気温が下がり、葉物野菜の生育が遅くなるので、収穫や出荷などの作業量が少なくなる。「(その結果)余った労働力をイチゴに振り向ける」。伏田さんはここまで語った後、こう付け加えた。「合理的ですね」

販売面でもイチゴには意味がある。葉物野菜は多くの有機農家が育てており、新たな販路をつくるのは簡単ではない。そこで「イチゴで販路を開けて、続けて葉物野菜を売り込む」。それに成功した売り先もすでにある。

「適当にやることが大切」の意味

最後に新しい作物に挑戦する際のポイントについて触れておこう。

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