水張りは麦や大豆の振興に影響
転作で麦や大豆を作る田んぼに5年に1回水を張るよう農水省が求めていたのは、「田んぼでないなら転作補助金を出す必要がない」という理由から。麦や大豆の場合、10アールで3万5000円を支給している。
制度の建前からすれば農水省の言う通りかもしれない。だが現場の実態からすれば、強引な面があるのも否めなかった。麦や大豆は湿害に弱い作物であり、「畑」に水を入れると栽培に影響する恐れがあるからだ。
もっと実情を言えば、地目は水田でも畑作物を長年作り続けた結果、用水路などの水利施設が崩れてしまっている場所もあるだろう。そもそもそういう地域では、求められても水を入れるのは簡単ではない。
だからこそ、助成対象から外すべきというのが農水省の主張だった。それを撤回することにしたのは、小麦や大豆などの栽培そのものを諦めてしまう懸念も指摘されていたからだ。離農を防ぐには、やむを得ない判断だろう。

小麦などの畑作物は湿害に弱い
生産性の向上を支援の目的に
重要なのはこの先。農水省が5年水張りルールの撤回と併せて打ち出したのが、畑と水田を分けて考える政策への転換だ。コメ余り対策として、田んぼの転作を政策の軸に据えてきた農政の見直しにつながる可能性がある。
具体的には、地目が畑か水田かどうかに関係なく、作物ごとに支援内容を決めように改める。長年続いた水田中心の農政からの脱却だ。
例えば、小麦や大豆、飼料作物などは水田か畑かを問わず、生産性の向上に資する制度へと支援を見直す。これまでは地目が水田の場合、畑に出す補助金にプラスアルファした金額を支給していた。転作助成だ。
ここで重要なのは農水省が「拡充」ではなく、「見直す」という言葉を使っている点だ。制度の詳細はまだ明らかになっていないが、地目が水田だと麦や大豆、飼料作物への補助金はこれまでより減る可能性もある。
それでは5年水張りルールと結果的に同じではないか、と思われるかもしれないが、必ずしもそうではない。キーワードは生産性向上。生産量に応じて助成水準を変えるというのがアイデアのひとつだろう。
麦も大豆も飼料作物も輸入に多くを依存しており、努力してたくさん作った人をより応援する仕組みを本格的に取り入れるなら筋が通る。それが軌道に乗れば、長い目で見て食料自給率の向上にも寄与できる。

大豆は食料安保で重要な作物