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農福連携とは?農家と福祉の両者から、連携方法と成果を聞いた!【農福連携座談会VOL.1】

農福連携の取り組みや可能性を実践者の生の声から聞く座談会。全2回の1回目は「農福連携とは何か?」という基本から、さまざまな農福連携のかたちについて話し、更に実際に連携する農・福の両者から工夫などを聞きます。モデレーターは一般社団法人日本農福連携協会の顧問である濱田健司(はまだ・けんじ)さんです。

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【プロフィール】
■濱田健司さん

JA共済総合研究所 調査研究部 主席研究員
一般社団法人日本農福連携協会 顧問 東海大学 教授
障害者・生活困窮者・高齢者等が地域の農林水産業などに従事することで地域を活性化する農福連携、さらに多様な主体の連携する農福+α連携の取り組みについての研究が専門。

■奥野靖夫さん

NPO法人熊本福祉会 代表
福祉業界での経験を経て、2016年から農福連携をおこなう福祉事業所を設立。農福連携を通じた障害者の雇用と自立、農業の担い手不足の解消という地域課題を解決するWin-Winの関係づくりをおこなう。その取り組みが評価され、ノウフクアワード2024では準グランプリを受賞。

■中村大輔さん

中村農園代表。タマネギ、青ネギ、水稲を栽培。熊本福祉会と連携し、農福連携を実践。地域の人材活性に力を入れている。

■動画を見る

「農福連携」とは何?

農福連携という言葉の意味

濱田:視聴者の人に向けて、まずは「農福連携とは」という話をします。農福連携とは、名前のとおり農業と福祉を連携させた取り組みです。もう少し具体的に言うと、いろんな障害のある人が農業生産に従事する取り組みです。障害とは、大きく分けて身体障害、知的障害、精神障害、最近では発達障害も入ります。

農福連携の意義

濱田:今、なぜ農福連携かというと、まず農業サイドには高齢化やコストの高騰、売り上げの低迷などから「労働力不足」と「担い手不足」という2つの課題が出てきました。一方の福祉サイドには障害者の「働く機会の不足」という課題があります。実際、障害のある18歳から64歳で働いている人は約4分の1しか居ません。更に実は賃金が低い。例えば就労継続支援B型の事業所だと、ひと月当たりの賃金が1万8000円いくかどうか。あるいは就労継続支援A型の事業所で働いている人たちは9万円に満たない。この双方の課題が合致して生まれたのが農福連携です。

農福連携は4パターン


濱田:農福連携は大きく分けて4つのパターンがあります。
 ①事業所内型は、就労継続支援A型・B型 の事業を運営する社会福祉法人などが保有する農地などで農業を行う。そこで働いている障害者とスタッフが、事業所の中で農業生産を行う取り組みです。

次に②が作業受委託型。これが今、広がっています。農業サイドでは「お金を払うだけで作業をしてくれる」という点ではメリットがあり、福祉サイドでは初めから農地を借りたり機械を買う必要もないというメリットがある。ここから始めて、ノウハウを得ながら、少しずつ農地を借りるという方法も選べます。農業・福祉の双方にとって農福連携のハードルを下げる方法にもなります。

③雇用型は、健常者と同じように障害者を雇用する形です。最近では企業でも障害者を雇い、仕事の一部として農業をやってもらうことも少しずつ広がっています。
最後の④協同組合型は障害者が自ら出資をして経営、そして働くという究極的なものですが、僕が目指しているものとして、あえてここで示しています。
①事業所内型は本日お話いただく熊本福祉会に当てはまり、②作業受委託型は中村農園に当てはまります。

①事業所内型の熊本福祉会

濱田:本日は②の作業委託型の優良事例として、二方にお越しいただいています。福祉事業者サイドからは、NPO法人熊本福祉会 の奥野代表。農家サイドからは、熊本福祉会を通じて障害者に農作業を依頼している中村農園の中村代表です。

奥野:私が熊本福祉会を設立したきっかけは、前職の就労継続支援B型で農家に施設外就労を実施した
精神疾患があり昼夜逆転している利用者さんが、昼間に動くようになり、笑顔で「ご飯もおいしい」「毎日行きたい」などと元気になっていく様子を目の当たりにしました。私もすごくあったかい気持ちになりましたし、農業の魅力を感じました。「自分でやりたい」という思いが強くなり、法人を設立しました。

濱田:農作業のノウハウなどは、どのように得ていったのですか?

奥野:実際、経験値がありませんので、すぐに農作業に入ることは難しかったです。その代わり、利用者さんたちは農家さんたちのところで施設外就労をする中で技術を身に付けていきました。今では、自社の畑でも、ほぼ利用者さんたちだけで作業ができています。

濱田:その中で、障害者の方の技術は上達していきました?

奥野:みるみるうちに上達して。外に出て、自然に触れることで、みんなの顔も笑顔になっているんですね。「作物を育てたい」「トラクターに乗りたい」という意欲も出てくる。

濱田:トラクターの操縦となると難しいのかなというイメージもありますが、そういう高度な作業もできるわけですね。

奥野:可能です。

濱田:それはすごい。もう一つ、奥野さんのところには障害のある人以外にも、いろいろな人に働いてもらっていますね。

奥野:うちでは、刑務所から出てきた人の就労支援も行っています。更生や再犯防止の点でも、農業は畑や作物と向き合う中で、自分とも向き合う点でマッチしていると思います。

②作業受委託型の中村農園

濱田:では中村さんもきっかけからお話してもらえますか。

中村:タマネギ4ヘクタール、水稲1ヘクタールなどをパート含む5人で作っています。繁忙期に人手が足りず、近所の福祉事業所にお願いしたことがきっかけでした。そこで農福連携という言葉と、県庁には農福連携コーディネーターという人が居ることを知りました。コーディネーターさんに相談すると、2事業所を紹介いただき、翌年から手伝ってもらいました。ですが、僕が思っていた仕事量がこなせない。もう一度相談したところ、ご紹介いただいたのが奥野さんの熊本福祉会でした。すると他事業所の倍以上の仕事量をこなしてくれる。「こんなに仕事を任せられるところがあるのか」と感じ、もう5年近くのお付き合いになります。他の事業所さんともお付き合いはあり、今は4事業所さんに繁忙期の春に手伝ってもらっています。

濱田:パートを更に雇うという方法もあったのではないですか。

中村:雇っていましたが、思うほど採用に至らないんです。そのため農福連携とパート募集は並行して進めていましたね。

濱田:障害者の人が作業に来る前と後で、何か印象は変わりましたか?

中村:正直、うちに来てもらっているA型の人に関して言うと、もう全く健常者と変わらないと思っています。他のスタッフも同じ感想でした。作業の上でも、B型では指導員の人も来ていただくので、心配はしていません。

農・福の両サイドから感じること

濱田:奥野さんは、中村農園からの受託ではどうでしたか。

奥野:「福祉施設として」というより、農家さんたちに求められる人材をどう育成するか。期待される労働力が満たされて初めてお金がもらえることを前提にスキルを上げていく。農家さんを悪く言うわけではないのですが、農福連携では「障害者が農作業をできるのか」という偏見もありますから。なので、全員に時計を着けてもらって、タイムを計って……。

濱田:そこまでやるんですか!?

奥野:中村さんが求めるものを我々がまず理解をした上で、利用者さんたちに伝えています。「今日ここまでやろう」と朝礼を必ず行い、管理し、報告をします。道具の工夫もあります。マルチシートの穴開けで「15センチ間隔で」と指示をしても伝わらないときには、ロープを張って印を付けて。

濱田:逆に農家さんの立場として、中村さんは作業をどのように依頼しましたか。

中村:事前の打ち合わせは1回くらいだったかな。こちらに来てもらって、説明をして、数日後には作業に来てもらっていました。

奥野:実際には回数を重ねるのが良いと思います。その上で利用者さんごとの障害の特徴も踏まえて作業を分担して「こうやってできます」と伝えられます。

濱田:奥野さんの場合は県でも先駆けて取り組んでいるので、そういう形ですが、自治体の農福連携コーディネーターが、農家さんや福祉事業所の間に入る場合もありますよね。また受委託だと、障害者の労務管理などは福祉事業所が見ますよね。

中村:予定していた人が病気や用事で来られなくなっても、他の人に来ていただけることもありますし、事業所として仕事を請け負ってもらえる安心感もあります。

濱田:経営面ではどうでしょうか。

中村:農福連携を始めてから面積は確実に増えています。5年ほど前と比べ、タマネギは倍になっていると思います。

奥野:農家さんの規模拡大と、我々の事業収入の拡大、利用者の自立に向けた支援はつながっていないといけないと思っています。その上で、労働力の提供だけでない、対等な関係を農家さんと築いていきたいですね。中村さんからは専門的な技術を教えていただき、お陰で自社の農地で生産もできています。こういう関係性ができたことに感謝しかありません。

成功を重ねることでの将来性

濱田:農福連携が言われ始めた頃、ある場所では「資材コストも上がり、売上も低迷する中で、なぜ障害者のために仕事を作ってあげなければいけないのか」という農家さんが大半を占めていました。

奥野:最初は私もたたかれました。けれど成功事例を積み上げることで理解が進んで、今度は「うちにも」「うちにも」となりました。オセロみたいにパタパタ変わっていった。

濱田:法人によっては農業法人が福祉事業所を作る例もあります。障害者が農業者のパートナーに位置付けられ、障害者にとってもやりがいや生きがいにもつながるということですかね。

奥野:もう一つ言うと、農業を通した就労支援も実現できています。農家さんから「この人を雇用したいです」という話があり、何人か送り出しました。更に、利用者さんが支援員としてステップアップして、他の利用者さんに農作業を教えてもいます。自分自身に経験がある分、厳しくチェックしています。

濱田:元々はコミュニケーションも仕事も苦手だった人が、そういうことまでできるようになるんですね。

奥野:畑の管理もやってもらっています。畑のことは、私よりも知っています(笑)

濱田:中村さんも、委託して来てもらっている人から雇用することもあり得ますか。

中村:あり得ると思います。実際、農機を扱える人がいらして、この秋から指名して来ていただいています。3カ月間欠勤無しで、作業もしっかりやっていただけています。「このくらい作業ができるなら直接雇用してもいいな」と感じました。

奥野:働く期間が長いほど、そこの農家さんの期待に応えたいという気持ちも高まりますよね。「頑張って褒められたい」と思って「できた」と自信が付くと、自然と力も付いて、自分で判断して作業できるようにもなります。

濱田:これは健常者も同じだと僕は思っています。「障害があるからできない」「健常者だからできる」ということではない。例えば学生たちを中村さんの農園に送り込んでも、すぐに仕事はできないと思うんですよ。サポートが必要。農福連携ではそのサポートを、農家側だけでなく、福祉側や行政などからもできるので良いと思います。

今後の展望

濱田:最後に、今後の展望についてお話を伺いたいと思います。

中村:今は福祉事業所さんにお願いしているのは主に春ですが、今後はできれば通年で来てもらえるような体制を作りたいです。まだ課題はありますが、そのために作物を新たに始めようかと考えています。

奥野:農福連携を通じて、生きづらさを抱えた人たちが笑顔になり、地域共生社会の実現ができる。我々も農福連携に貢献していきたいです。2023年1月には「南九州農福連携コンソーシアム」を設立 しました。農福連携のパイプ役・コックピット役としての機能を果たしていくために、思いがある人が集まりました。また私は熊本県なので、熊本でも作るべきだと思い、同年9月に「熊本県農福連携協議会」を設立しました。ネットワークを作ることで、点が線になって面になっていける仕組みを作っていけたら良いなと思って活動しています。

濱田:連携することによって新しいものを生み出していく、あるいは自分たちのやっているものを更に発展させる。農福連携をもっと前に進めていくために頑張っていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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