ムラは学校!移住者は転入生
田舎の集落、いわゆる「ムラ」は、学校のような構造を持つ地域組織だと考えると非常に理解しやすくなります。ムラには、先生のような権力者や先輩後輩という上下関係、そして同級生のような横のつながりが存在します。
都会から移住してきた人や嫁いできた女性はいわば、転入生のようなものです。学校に転校してきた生徒がクラスメイトからさまざまな質問攻めに遭うように、移住者もまた、どこから来たのか、前職は何をしていたのか、年齢は、子供は、親の出身地は……といった具合に、矢継ぎ早に質問されます。
「そんなに私のことに興味を持ってくれてるんだ!うれしいなぁ」と思ってしまいますが、勘違いしてはいけません。これは質問者の興味によるものではなく、審査のようなものです。新参者がどのような人物であるか、危険性はないか、コミュニティにとって役に立つか、どの派閥に入りそうかなどの確認作業なのです。そしてあなたの個人情報はムラの中で瞬時に広まります。ムラは一つの共同体なので、個々人の情報を共有せねばならないのです。「田舎にプライバシーはない」ということをまず覚えておきましょう!住民に話す情報は、集落全員に知られて良いことだけにしておけば動揺することはありません。
草刈りは学校行事!無断欠席は不良
田舎に居ると、神社のお祭りや餅つき、スポーツ大会などの行事の他、畔の草刈りや溝の掃除など、さまざまな集まりに呼ばれます。これらは学校でいえば運動会や文化祭、放課後の掃除に相当する重要行事です。間違っても「寝坊した」とか「忘れていた」などと言って欠席してはいけません。
どうしても欠席する場合は先生に個別連絡するのと同じように、権力者にあらかじめ謝りに行っておくべきでしょう。さもなければ、学校全体で頑張る文化祭を「そんなかったるいことやってられるか」と吐き捨て抜け出す不良のように、集落内で異端者扱いされてしまいます。
自由参加と言われてもだまされてはいけません。集落内の行事に関して、模範的な一村民は参加が基本です。
消防団に入る=部活に入る
消防団は田舎の重要な組織であり、部活動をイメージすると分かりやすいです。もちろん自由意思による参加が原則ですが、実態は半ば強制的に入団させられることもあります。そして引退(定年)までほぼ辞めることができません。救急救命講習や消火訓練など素晴らしい活動がある一方で、飲み会も多く、地域によっては楽器の演奏や伝統技術の練習など、本来の目的とは直接関係のない活動に多くの時間が割かれることもあります。
しかし、部活動のように上下関係や伝統が重視されるため、新参者が意見することはまず無理です。ムラには消防団以外にも、町内会、青年部、女性部、○○振興会、育成会、公民館サークルなど、たくさんの自治組織があります。多層に渡って重なる複数の組織が存在し、村民を網羅しています。いずれの組織においても、先輩にはよく従い、同級生とは仲良く、後輩に優しく接していれば、ムラの生活に溶け込み、貢献し、自分のカーストも確保できるという、部活のような利点があります。頑張って部の一員と認められればきっと集落での生活に役立つでしょう。
没個性。右に倣えが田舎の鉄則
「個性を伸ばす教育」が叫ばれて久しいですが、悲しいかな田舎では「あなた個人の意見」は求められていません。大事なのは「みんなが同意したとみなされる意見」に従うこと。村のルールに従い、みんなと同じように目立たないように暮らすのが無難でしょう。
しかし考えてみれば、都会の学校で言う「個性」も、校内のルールやしきたりを守ってはじめて認められるもの。この面についても学校生活をイメージすると受け入れやすいでしょう。「それでは世界でやっていけない」と言われても、世界でやっていかないから良いのです。事実、世界でやっていきたい人はどんどん村から流出しています。
重要行事の草刈りでは、間違っても効率化を図って意見などしてはいけません。そもそも地域コミュニティはビジネス集団ではないので、合理性や効率化は求められていないのです。もくもくと同じ方法で草を刈りましょう。お茶出しをしましょう。例年と同じ店から同じ弁当を手配しましょう。
興味深いのは、没個性で右に倣えが中心にあるにも関わらず、やはり村民一人ひとりはけっこう個性的だということです。これには人間の面白みを感じます。
濃密な人間関係がゆえの苦悩
クラスで仲の良い生徒同士が衝突することは珍しくありません。長時間一緒に居るうちに、はじめは知らなかった相手の他の面が見えてくるからでしょうか。同じことが田舎でも起こりえます。狭いコミュニティの中では、相手の二面も三面も見えてきます。人のせいにしたり、悪者を作ったり、嘘をついたりというのは不安や保身からやってしまうことがあるでしょう。
当然、地域の中には自己顕示欲が強い人も居ますし、権力を求める人も居ます。 派閥争いに巻き込まれることもあれば、あまりに幼稚な嫌がらせに驚くこともあるでしょう。表面的な付き合いなら見ずに済んだ、人間味あふれる部分が露出してしまうのです。田舎には都会に比べ仲が悪い人の組み合わせが多数存在すると感じますが、それほどに人間関係が濃密なのだと思います。
さらに、田舎ではうわさ話が広まりやすいという特徴があります。口伝えは尾ひれが付くので、ほとんど嘘くらいの認識で聞いた方が良いかもしれません。このため、人づての話を鵜呑みにするのは大変危険です。また、集落全員が親戚のような関係であると考え(事実、親戚が大量にいます)、余計なことは言わず聞き役に徹しましょう。悪口を言わないことは鉄則です。
田舎の狭いコミュニティは、人間関係の悩みの縮図なのかもしれません。私もその濃密さには圧倒されるばかりで、正直お付き合いの正解は今もさっぱり分かりません。
個性を生かすなら、校外活動もアリ!
たとえ学校では目立たなくても、得意なことでキラキラ輝く生徒がいるように、活動場所は豊かな人生を築くために大切です。もしあなたが個性を思いっきり発揮したいならば、昔からの友達との集まりや、研修会やSNSのつながりなど、村外の活動場所を見つけましょう。また、外とのつながりを持つことはメタ認知にも有効です。集落が心地良くなんの不満もなければもちろんそれで良いですが、思考を狭めないことは例えば経営や子育てをするうえでも必要です。
いや、自分はこの地で思い切り自己実現を果たすのだ!という人は、長い年月を掛けて先生クラスに上り詰めるか、先生からも生徒からも慕われる生徒会長を目指しましょう。でなければ異端児として村八分になる可能性は拭えません。むしろそれでも良いと思える確固たる信念があるなら、突き通すことも重要なのかもしれません。
人生のベースにあるのが人間関係です。家族や地域の住民との絆は、農村での生活を支える重要な要素です。誰と関わるかによって、人生が大きく左右されることもあります。田舎ならではの人間関係の特性を理解しながら、あなたなりの心地良い生活を築いてください。