心得その1 きちんと決めよう!同居か別居
結婚に当たって真っ先に決めなければならないことの一つが、両親と同居するか否か。特に若い世代は同居を選ぶことは少なく、核家族世帯を思い描くでしょう。しかし、マンションやアパートが立ち並ぶ都会と違い、農村には意外と住む場所が少ない場合があります。
総務省によると、全国には900万戸(2023年)の空き家があり、問題として取りざたされることがしばしばあります。しかし、だからと言って住める場所がたくさんあるわけではないのです。田舎では空き家はあるが持ち主に貸す気がない、一戸建てしかなく核家族にとっては大きすぎる、老朽化がひどくリフォームが必要などの理由で、住居を探すのに苦労する例をよく聞きます。
とはいえ、アパート住まいとなると、圃場(ほじょう)から車で数十分以上の遠方になってしまうことも珍しくありません。農業では突然の雨でビニールハウスを閉める必要があったり、早朝作業が必要な場合が往々としてあるため、住居と畑が遠くなってしまうことのデメリットが次々と浮かんできます。その結果、「義両親らと同居する方が近いし安いし便利だし」という方向に流れることになります。
しかし、同居というのは義理の家族との関係が密になる分、必然的に人間関係のトラブルの可能性が急上昇すると考えるべきでしょう。同居に伴う家事、介護、生活費等の分担はそもそも平等に配分することが非常に難しく、不満が出やすいものです。加えて、濃密な近隣との付き合い、町内活動の役まわり、消防団への加入など、たくさんの付属物が漏れ無く付いてきます。都会で生活してきた女性にとっては想定できない付属物も多々あるので、具体的にイメージするのは困難かもしれません。
この他、義両親が別居に難色を示す場合もあります。その時、夫がきちんと自分たちの意思を表明できるのか、親が聞く姿勢を見せるのかという点で家族内のパワーバランスを確認しておくと良いでしょう。義両親が圧倒的に上というパワーバランスであれば、なおさら同居生活は息苦しいものになると考えるべきです。住居が見つかるまでの仮住まいとして同居する場合でも、そのまま実家から出られなくなるケースも「あるある」なのでじっくり考えましょう。
心得その2 時給は最低賃金以下?安易な就農は待て
「 農家に嫁ぐから、今の仕事を辞めて一緒に農業を手伝おう」。そんな風に深く考えず家業に入るのは絶対にやめましょう。なぜなら、一般的な会社での仕事の場合、少なくとも最低賃金は保証されていますが、農家の嫁となると、それさえもやすやすと下回ってくるからです。
一般的な個人農家であれば、経営主以外は専従者給与をもらうことになります。経費として税金が掛からない程度に抑えようとすると、給料は大体月8万円くらい。年間で100万円程度になります。最近話題の103万円の壁と同じような仕組みです。つまり、あなたがもし週6日6時間働いて一年間の給料が100万円だった場合、時給に換算すると533円となります。1日8時間の週5日勤務だと479円。東京都の最低賃金額が1163円(2024年)ですから、お小遣い程度の収入で良いと思っても、アルバイトをした方が断然合理的であることが分かるでしょう。
「通勤時間が掛からず、手取りもそのままだし悪くはないんじゃない?」と思うかもしれません。しかし、企業で入る健康保険に比べて国民健康保険が高額となる場合が多く、更に厚生年金保険も付きません。
もっと恐ろしいことに、2024年の農民連女性部調査によると「月ぎめ」で対価をもらっている農家女性は15%しかおらず、しかも同調査はこの数字に対して「農村女性のジェンダー平等にとっては『重要な前進』と評価している」状況です。地域や家族の考えにもよりますが、「嫁なのだから無償で手伝って当たり前」という論理がまかり通っている場面も少なくありません。家業に入って仕事の対価を得ることの難しさは肝に銘じておいてください。
どうしても農業がしたいと考える場合は、法人化を視野に入れるのもいい方法です。法人化すれば年間100万円に縛られない自分名義の給与を得ることができます。ただし、売り上げが低いまま法人化するメリットは少ないため、何年後に法人化するか、売り上げをそれまでにいくらにすれば良いかなど、きちんと事業計画を立てることが重要です。法人化や事業計画については農協や中小企業支援窓口など、最寄りの機関と相談して具体的に決めると良いでしょう。バリバリ働いてきちんとリターンを得るために法的な後ろ盾を得られる法人化は、収入は「家」に入るものという農村の慣習に打ち勝つ有効な手段です。
心得その3 若い女性はなめられる。それでも自信を失う必要はない
特に年配の人を中心に、女性を軽んじるような言動をする人は、都会女子が思うよりもたくさん存在します。あなたの年齢が若ければなおさら、見下されているように感じる場面があるでしょう。お茶くみやお酌は当然。基本的に意思決定権はなく、やることを勝手に決められたり、意見を言うと「嫁のくせに年配者に意見をするのか?」と変な目で見られることも。人間として対等な関係を求めることはきわめて困難です。ただし、見下されるのはまだ良いほうで、完全無視で存在自体が無いように振る舞われる場合もあります。これらは字面で見るより何倍も、実際にされると心が深く傷付きます。
しかし、これはあなたの能力が低いとか、態度が悪いとかいう理由でそのような態度を取られているわけではないことを覚えておいてください。彼らは「嫁」という概念で見ているだけで、あなたを個人として見てはいません。なので自信を失う必要も、反省したり自己嫌悪に陥る必要も無いのです。
また、彼らが思う「嫁としての正しい立ち振る舞い」が全世界におけるスタンダードでは無いことは言うまでもありません。ただただ旧態依然とした価値観に過ぎないのです。不快な場面に遭遇したときは、指摘できればしても良いし、波風立てたくない時はさっさと逃げて、家に帰ったら夫に報告しましょう。他人の行動や、特に高齢者の価値観はあなたが頑張ってすぐにどうにかなる問題ではありません。不快な思いをしないように参加する集まりを選択する、夫のみで集荷場に行くなど、夫婦で対応策を取ることで精神的な負担を減らしていきましょう。
心得その4 農村に染まらなくて良い。でも味方が必須!
都会とは全く違う農村の価値観に面食らってしまっても、それをすべて受け入れる必要はありません。なぜならば「ムラのしきたり」は全て良いことでもないし、正しいとも限らない、ただの「地域限定ルール」だからです。
ですが、その地域限定ルールに合わせていないと「村八分」というスペシャルイベントが発生する可能性があるのが農村ゲームの恐ろしいところです。過疎化が進んだ限界集落などでは、よそ者でも女性でもとても大事にされるという話をいくつか聞いたことがありますが、反対に、「夫は『地域の人たちはみんな優しいから大丈夫だよ』と言ってたけど、実際はすごい排他的だった」など、内部からは分からないことも多いです。こればっかりはとにかく暮らしてみないと分かりません。地域による差こそあれ、マジョリティからは理解することができないマイノリティの苦しみを、都会女子は農村に入って体験するのです。
一人で異なる価値観に耐えること、戦うことは本当に大変です。そんなときにこそ頼りにすべきなのは、他ならぬあなたのパートナーです。どんな地域かは分からなくても、パートナーがどんな人なのかは分かるはずです。一緒に気持ちを共有できる、話し合える、共に戦い、助けてくれるパートナーであることが必須です。今現在できていなければ、できるように夫婦共に成長しなくてはいけません。それができなければ一番苦しむのは嫁ぐ側のあなたです。相手をよく見極めよ、とは結婚の際によく言われることですが、農村に嫁ぐ場合はこと更超重要課題であることを強調して締めたいと思います。
農村にはもちろん良い点もたくさんあります。子供を自然の中で育てられたり、温かい地域の目があったり、新鮮な野菜が食べられたり。実際に私も住んで良かったと思ったことも多々あります。文化や価値観の違いに負けず幸せな家庭を築けるよう、嫁だけではなく家族みんなで力を合わせて頑張っていきましょう。
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