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就業先の農業法人で村八分に。ハラスメントの責任を追求できるか【みんなの農律相談所#1】

連載企画:みんなの農律相談所

就業先の農業法人で村八分に。ハラスメントの責任を追求できるか【みんなの農律相談所#1】

読者から寄せられた農業に関する法律のお悩みや相談ごとに、弁護士がお答えする連載企画「みんなの農律相談所」。第一回の本稿では、農業法人でいわゆる「村八分」や「パワハラ」に遭ったという男性から寄せられた事例をもとに解説していく。

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40代会社員男性からの相談。うわさ話などで職場で孤立

元々、都内の大手企業で管理職として働いてきたが、田舎暮らしに憧れを抱き、半年ほど前にある山村へ移住し、村内の農業法人へ就職した。ほどなくして職場内でのいわゆる「村八分」に遭い、精神的苦痛の大きさから、前職への出戻りを考えている。

ことの発端は数カ月前。直属の上長であるAとの面談で今後取り組んでいきたいことについて聞かれたため、現状の組織課題を分析した上で、これまでのマネジメント経験を生かした仕事にも取り組みたい旨伝えた。その後の宴席ではAから、前職に関する話を振られ、当時の役職や年収などを話した。

この日以降、Aの私に対する対応が変わり、明らかに避けられるように。そればかりか、職場内で「あいつは俺たちを見下している」といった趣旨のうわさ話をされるようになった。全ては把握しきれていないものの、「彼は前職でトラブルを起こして移住してきたみたい」など、事実にない話まで吹聴され、職員のほとんどから避けられるようになり、日常の業務の遂行(すいこう)にも支障が生じるようになった。

このことをハラスメントに該当するのではないかと社長に相談するも、どうやらAは社長にも「この組織は課題だらけだと言っていた」旨の、明らかに前述の私の話を曲解して吹聴していたようで、まともに取り合ってもらえなかった。

事実上孤立したような状況に追い込まれたことによる精神的苦痛の責任をAに求めたいと考えている。また、明らかに配慮を欠いた社長の対応は問題ないのだろうか。ご教示いただけると幸いです。

弁護士の回答

Aに対して責任を追及することは難しいですが、農業法人に責任を追及できる可能性があります。

噂話の違法性

どのような職場においても、同僚や上司についてうわさ話が全く存在しないという職場はほとんどないものと言えるでしょう。一方で、ご質問のように、特定の内容のうわさ話によって、精神的に追い詰められるなど、一定の被害が生じることは否定できない事実であると言えます。このようなうわさ話による被害の発生に対して、法律は、うわさ話を行う事それ自体を規制してはいないものの、うわさ話の中で特定の内容のうわさ話を行う行為について、刑法及び民法によって規制を行うという対応をしています。従って、一定の場合には、うわさ話を行ったことが違法となり、刑事罰を科される又は損害賠償の支払義務を負うというという事になります。

では、どのような場合にうわさ話が違法な行為となるのでしょうか。
典型的なものは、職場内の多数の人間に対して、相手の社会的評価を下げる事実を述べたり、単に悪口を述べたりする場合です。これらの場合には、名誉棄損又は侮辱(ぶじょく)に該当し、違法となる可能性があります。そのため、これらの場合には、刑事罰(例えば1年以下の懲役もしくは禁固など)や損害賠償として一定の金銭の支払いの義務が発生することとなります。

ご質問いただいた事例でも、職場内で、「彼は前職でトラブルを起こして移住してきたみたい」などと事実と異なり、かつ、ご質問者様の社会的な評価を低下させることを述べるAの行為は名誉棄損に該当し、違法であると判断される可能性が高いものと言えます。

パワハラによる責任追及

刑事罰を科すためには、裁判を行う必要があります。また、損害賠償の請求を行ったとしても、Aが交渉に応じない場合は、裁判に訴えるしかありません。そして、裁判では、裁判官に対して、こちらの主張することが事実であることを証拠によって証明する必要があります。今回の場合も、Aが名誉棄損に当たるようなうわさ話を職場で話していたことをご質問者様[HS3] の側で何らかの証拠により証明する必要があることとなります。もし、録音などの証拠が全くない場合において、Aが「そんなことはしていない」と否定したとき、裁判でAに対して前述した責任を追及することは非常に困難であると言えます。

では、証拠がないためAに責任追及をすることができない場合、ご質問者様は誰にも何も責任追及をすることができないのでしょうか。

一つの方法として、パワハラに基づく責任追及を農業法人に対して行うという事が考えられます。

Aの行為は、名誉棄損に該当し得る行為であり、パワハラの典型事例とされる「精神的な攻撃」に該当する可能性があります。また、Aの行為により、ご質問者様は職員のほとんどから避けられるようになり、日常の業務にも支障が生じるようになっています。このようなAの行為は、人間関係からの切り離しというパワハラの類型に該当する可能性があります。そして、Aを雇用している農業法人には、職場におけるパワハラを防止するために一定の措置を講じる義務を負担しています。具体的には、雇用している従業員から、パワハラに該当するような相談を受けた場合には、事実関係を迅速かつ正確に確認した上で、行為者に対する措置を行うなど、一定の対応を行う義務があります。ご質問いただいた事例では、社長はAの言葉のみを信頼し、適切な調査を怠っており、職場におけるパワハラを防止するために一定の措置を講じる義務に反しているものと考えられます。農業法人が、このような義務違反を犯した場合、ご質問者様は、農業法人に対して、損害賠償の支払いを求めることが可能となります。

本事案のポイントを整理

☑うわさ話は、名誉棄損に当たる場合など内容によっては、違法となり、刑事罰や損害賠償の支払義務を負うことになる。

☑うわさ話によって、日常の業務に支障が出るようになってしまった場合には、パワハラに該当する可能性がある。

☑会社などの雇用主は、パワハラに対して適切に対応しなければならない義務があり、これに違反すると、損害賠償の支払い義務を負うことになる。

弁護士プロフィール

杉本隼与
2003年早稲田大学法学部卒業。2006年に旧司法試験合格(第61期)
2016年東京理科大学イノベーション研究科知的財産戦略専攻卒業 知的財産修士(MIP)
同年に銀座パートナーズ法律事務所を開設し、現在に至る。
銀座パートナーズ法律事務所

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