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【脱サラ移住就農の星!】最短で大規模化する成功方法【岩佐と紐解く戦略的農業#13】

連載企画:岩佐と紐解く戦略農業

私、株式会社GRAの岩佐大輝(いわさ・ひろき)とマイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が、今注目している農業経営者を突撃し、戦略を紐解いていく連載企画。今回は創業から僅か10年で自社農園の圃(ほ)場が約100ヘクタールに急成長した、青空農園の大西辰幸(おおにし・たつゆき)さんを訪問し、どのような戦略で異次元の成長を遂げたのか紐解いていく。

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【プロフィール】
■大西辰幸さん

株式会社青空農園代表
1976年、兵庫県生まれ。大手製造メーカーで営業職として勤務した後、2012年に大西農園として農業を始める。2013年に青空農園を設立し、創業から3年で売上高1億円を達成。2016年に株式会社Veggy設立。現在は浜松市認定農業者協議会本部の副会長も務める。

■岩佐大輝さん

株式会社GRA代表取締役CEO
1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本及び海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。

■横山拓哉

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

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もうかる農家ともうからない農家の違いに興味を持った会社員時代

岩佐:大西さんはなぜ静岡県の浜松で農業を始めたのでしょうか。

大西:僕は大手製造メーカーでサラリーマンをやっていて、仕事の関係で浜松に来ました。知り合いの紹介で、ある農家と話す機会があったのですが、その農家は後継者が居なくて、あまりもうかってもいないと。当時僕はマーケティングをやっていたこともあって、いろんな農家を紹介してもらい話を聞いてみました。そしたら、めちゃくちゃもうかっている個人農家が結構居たんですよ。

岩佐:どんな農家ですか。

大西:例えば個選で市場に出している、あるダイコン農家は、ずっと良いものを出し続けているので市場での評価が高い。だから相場の平均が崩れても、その人のダイコンの価格は大きく崩れません。家族経営で人件費もあまり掛かっていないでしょうから、概算してみると「めっちゃもうかってません?」と思って。こういう農家との違いは何やろうって気になったんです。

岩佐:面白いですね。

大西:最初相談を受けた農家も、決して作るのが下手だったのではありません。ただ、農業は大体5年〜15年のサイクルがあります。例えば、ミガキイチゴがもうかるとなったら、同じことをやる人が出てきます。すると値段が下がり始めます。農業では100円のキャベツが10円高いか安いかで、利益率が10%変わります。例えば利益が1億円だとしたら、1000万円の差が出るわけです。

岩佐:なるほど。

大西:損益分岐点を割っている人たちは経営が苦しい。一方で、自分たちが売りたい値段で売れる人たちは、平均相場よりも高い価格で取引できている。畑を作る技術も必要ですが、それ以上に販売方法が影響していると思いました。

脱サラして新規就農

大西:実は最初に相談を受けた農家から、「もうや辞るから畑を使ってくれ」と言われたんです。ただ、僕は結婚していたので、簡単に会社を辞めるわけにもいかなくて。まずは週末と平日の仕事終わりの時間を使って作付けをしました。

岩佐:品目は何ですか。

大西:最初はレタスです。約5ヘクタールだったので、結構な量になります。農協に相談しに行きましたが、作付け前はいくらになるか分からないと言われて。その時に紹介してもらったのが、静岡県を中心に約40店舗展開する中華料理のレストランチェーンでした。

岩佐:結構大きいですね。

大西:「原価がこれくらいなので、1玉この値段で売りたい」と話してみたら、「その値段だったら(採算が)合う」と。素人ながら作ることになったレタスを、いきなり中華料理のチェーン店と契約することになったんです。友達にも手伝ってもらい、自分なりに勉強しながら作ってみたらうまくできて。取引先にも喜んでもらえました。

岩佐:すごいですね。

大西:そんな中、あるネギの農業法人から相談を受けました。そこはニラ部門がありましたが、台風で約200棟あるビニールハウスの半数が潰れてしまい、ネギに集中することになったんです。それで「ニラ、ハウスごとあげる」と言われ、すぐに売り上げが上がる状態で譲ってもらいました。

岩佐:もう導かれるように。

大西:同じタイミングで友達が、農業をやりたいという若い子を紹介してくれて、ニラはその子にやってもらいました。それから中華料理のチェーン店にも交渉して、ニラも卸し始めました。それでしばらくやっていたら、給料と諸経費を払っても、1カ月約30万〜40万円は手元に残る状態が続いて。思い切ってサラリーマンを辞めました。

どの作物を選ぶかがポイント

岩佐:もうかっている農家とそうじゃない農家の違いって何だったんですか。

大西:まずは作物のチョイスです。最近だと例えばパクチー。まだパクチー農家が少なかった頃、僕らにも1キロ当たり2000〜3000円で買うから作ってほしいという話があったんですよ。僕はやりませんでしたが、やり始めた農家は最初の5年すごくもうかりました。でもだんだん苦しくなって、コロナでメタメタになったそうです。

岩佐:本当に一時期、増えましたよね。

大西:その数年後、あるお客さんに聞いたら、パクチーは1キロ約1000円になっているそうです。こうなるとパクチーを作るのをやめる人たちが一定数出てきます。すると作る人が減って、またパクチーの相場が上がり出す……この周期をどの作物もずっと繰り返してるように見えるんです。

岩佐:なるほど。

大西:マーケティング的には、細く長くやるためにはあまりにもはやり過ぎると良くない。畑を使ってやっている以上、ある程度潰しが利く作物を選ばなければいけません。だからと言って簡単に変えられるものではないのが農業の面白いところでもあり、難しいところでもあります。

岩佐:作物、重要ですね。

大西:簡単に言うと、最初相談を受けた農家は、このサイクルの底に居る作物作ってたんですよ。もうかっている農家は、自分の位置を確立させ、なおかつサイクルの中でも良いところにいる作物でした。それが一番大きかったと思います。

確実に契約を履行するための工夫

岩佐:私はどんなスタイルであれ、農業生産者は契約をきっちり履行して、契約社会の土俵の上で戦わないといけないと思います。

大西:実はうちの売り上げのうち、メインはBtoBの契約で、4分の1ぐらいは直売というかBtoCに近いところなんです。もともと僕らは、例えば100%取れたら100個だとすると、契約は70〜80個にしていました。でももっと割り込む時もあるわけです。だから僕らも契約を履行できないタイミングは過去にありました。

岩佐:そうなんですか!

大西:逆に豊作で100個取れてしまったら、30個残ります。豊作の時は相場も安いから、叩き売りになりますしね。そんな中、あるスーパーから、直売所とスーパーの地場野菜コーナーを作りたいので手伝ってほしいと相談されたんです。僕らの協力農家だけでなく、もっと小規模の農家が作っているものも委託で受けて、売り場を管理していました。でも、ビジネスモデルとしてはぼろもうけするようなものではありません。

岩佐:どう活用したのでしょうか。

大西:逆にその売り場をバッファとして使おうと考えたんです。豊作だったら取れ過ぎた分を地場野菜コーナーに流して、取れなかったら協力農家などから受けたものを出すことで、契約の履行率をキープしようと。

岩佐:さすがです。

もうかっている農家を表に出すことが農業の活性化に

大西:家族経営でかなりもうかっている人たちが結構居ると言いましたが、そういう人たちは表に出てこないんだよね。

岩佐:出ないよね。

大西:彼らを本当は出したいんですよ。今、浜松市の認定農業者協議会で地域のフリーペーパーを作っていて、そこに載せたいんです。僕の友達の農家は、ゲレンデ(ベンツの車種)とポルシェとレクサスを持っています。夫婦しか車乗らんのに、3台要らんやろっていう(笑)。その車を載せて良いか交渉していますが、若干嫌がられています。

岩佐:分かりやすいラインナップですね(笑)。

大西:めちゃめちゃ自慢ですけど、それを見たら若い人は「こんな農家も居るんだ」って思うじゃないですか。農業やりたい人、確実に増えると思いません? その人も脱サラ組で、まだ12年目なんですよ。そういう人を表に出すことによって、農業全体の活性化につながると思います。

横山:今、BtoBとBtoCそれぞれの売り上げが75:25ですが、それは大西さんの経験から導き出された黄金比率なのでしょうか。

大西:現状の作物とレベルであればベストに近いかもしれませんが、僕らも当然満足しているわけではありません。岩佐さんたちのようなブランディングができていないと感じています。

岩佐:単価を上げていくための施策ということでしょうか。

大西:僕らの協力農家の中には、売り上げが何億円の農家だけでなく、1000万円や2000万円の人も居ます。そういう人たちが通常よりも高く売れる作物を、高い割合で作ることができれば、その人たちにとって何倍もの利益率になる。僕らの利益率は数%かもしれません。でも、それができる可能性が僕らにはあるし、僕らの仕事だと思っています。まだ成功はしていませんが、それを成し得た時、売り上げの割合は少し変わると思いますね。

まとめ

岩佐:では、いくつかポイントをまとめたいと思います。

青空農園の農業戦略のポイント
契約を確実に履行するための仕組みを作る 豊作だった時、不作だった時のバッファとして販売チャネルを作り、契約をきっちりと守る。
マーケットサイズがそれなりにある作物を作る マーケットサイズがある作物は、価格が安定し投資計画も立てやすい。安定して売り上げを伸ばすことができる。
地域の農家がどうやったら盛り上がるかを本気で考える 若い人や地域の農家が夢を持って農業に取り組めるよう、稼いでいる農家を紹介したり、自分が表に出ていったりする。

岩佐:ブランディングだけが答えではありません。きちっと作って一定の単価できっちり売り切ることもビジネスです。そんなことを改めて学びました。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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