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日本の米と米農家が生き残る道は、海外にある。生産者の未来のために生まれた挑戦【令和5年度補正予算GFP大規模輸出産地生産基盤強化プロジェクト】

日本の米と米農家が生き残る道は、海外にある。生産者の未来のために生まれた挑戦【令和5年度補正予算GFP大規模輸出産地生産基盤強化プロジェクト】

人口減少に加えて、喫食率の低下。さらに生産者の高齢化と離農の増大。日本国内での米を取り巻く状況は、決して良好とは言えません。「日本の食を支えてきた稲作は、果たして未来に生き残ることができるのか」という懸念すら抱いてしまいます。そこで「生産者の未来のために」と海外に活路を見出したのが、株式会社百笑(ひゃくしょう)市場。生産国である日本とは真逆で、海外では日本食ブームによる米への需要がかつてなく高まっています。その潮流にしっかりと乗るために令和5年度補正予算GFP大規模輸出産地生産基盤強化プロジェクトを活用し、協議会を組織して行われた数々の実証実験をご紹介します。

「茨城県産米輸出拡大実証協議会」は「令和5年度補正予算GFP大規模輸出産地生産基盤強化プロジェクト」を活用しながら、米の輸出を強化しています。

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茨城県産米輸出拡大実証協議会について

日本の米農家が生き残る道を海外に見出す。それが起業の原点に

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収穫風景

茨城県産米輸出拡大実証協議会に事業統括を行っているのは、発起人である株式会社百笑市場(茨城県下妻市)は米の輸出を目的として2011年(平成23年)に創立されました。米農家であった初代社長が「生産者のため、米の未来のため、販売チャネルを増やさなければ」という想いで起業したのだと、代表取締役の長谷川有朋(はせがわありとも)さんは話します。

「米の輸出をスタートした2016年当時、日本国内の年間米消費は約710万トンありました。その需要が、加速する人口減少と喫食率の低下などの理由から、毎年約10万トン以上も減ってしまうと予測されていたのです。コロナ禍には減少がさらに加速し、国内の年間消費は22万トンも減少。生産現場に目を向けると、農業従事者の高齢化が進み、後継者不足で離農する方も増えています。このように日本の米を取り巻く状況には、明るい材料が少ないのです。」

ここ2年ほどは国内で不足が叫ばれ、販売価格も高止まりしている国産米ですが、百笑市場が創業して輸出への準備を進めていた2010年代初頭は、国内の消費量が減り、販売量も激減していました。それとは逆に海外では日本食ブームとともに需要が成長していました。そこに活路を見出し、2016年に北米向けに輸出をスタートしたのです。

コロナ禍が明け、状況が大きく変わったと長谷川さんは話します。日本に旅行に来る海外からの旅行者が激増し、日本食がヘルシーなイメージと共に世界的に流行しています。そこに円安が拍車を掛け、海外での日本米の需要がかつてないほど高まっているのだと言います。

長谷川さん

日本で食べた味を、自国の日本食レストランで食べたい。あるいは家庭で食べたい。そのニーズが高まり、日本米の輸出量は大きく伸びました。当社だけでも、2017年に270トンだった輸出量が、2023年には約6倍の1,600トンまで伸長しています。輸出額は2億6,543万円に。北米以外の販路も開拓し、いまでは東南アジア、ヨーロッパ、オセアニアの14ヵ国に拡大しています。その地域での日本食人気と米の需要の伸びも、この成長に貢献しています。輸出にこそ、国内消費量が減る日本の米と生産者の、生き延びるための活路がある。そのためにより収益の上がる輸出米栽培・輸送・販売などができないかと、今回の事業を活用し当社が主幹となって協議会を組織したのです

売上が伸長する中でも、変わらず悩まされている課題が生産や輸送の「コスト」だと長谷川さん。日本国内で流通している米の生産コストは、一俵(60kg)あたり15,273円(※1)。しかし、輸出米は生産コスト8,000円ほどでなければ、国内で販売するのと同様の利益を得られません。(アメリカと比べると約8倍(※2)にもなります。)これだけ価格差があるので、国内で販売される米と同じコストをかけていては生産者の新たな収益の柱にはなり得ないのです。

(※1)農林水産省「令和4年産 米生産費(個別経営体)」より
(※2)農林水産庁「経営規模・生産コスト等の内外比較(PDF資料)より

米は播種から収穫まで時間がかかり、常に人の手もかかる。もちろん肥料も必要ですが、物価高で値上がりが続いている。それが価格に転嫁されるので、海外産の長粒米などに比べ、日本産の短粒米は高い。日本で従来通りの生産を続けていては、輸出で米を売っても赤字になってしまう。このコストをいかに下げるかが大きな課題なのです。今回の「GFP大規模輸出産地生産基盤強化プロジェクト」(以下、本プロジェクト)では、その解消を目指して様々な検証や実証実験を行いました。

茨城県産米輸出拡大実証協議会は、百笑市場が主幹となり、農園や商社、県などで組織されました。メインとなる栽培の実験は、輸出用米の栽培を行っている茨城県内の3つの農園で実施しました。今回は実験的な栽培を行うこともあり、収量の増減が未知数です。農園の収支に影響が出ないよう、本プロジェクトの予算を活用して1年間水田を借り上げて実験を行っています。実験対象となる輸出米の品種の開発元である豊田通商株式会社も協議会に参画し、栽培のアドバイスやデータの共有・分析を担当しました。日本米の輸出を推進してきた茨城県もオブザーバーとして助言を行いました。また、協議会外でも、様々な企業・団体を募り、協力体制を構築しました。より詳細なデータを取得し、実効的な手法が見つかるよう工夫を行いました。
このように輸出米の生産から輸送、販売までを行う多様な業者が結集したのが、茨城県産米輸出拡大実証協議会です。それぞれが独自の技術・ノウハウなど、専門の知見を発揮し、実証実験を遂行したのです。

茨城県産米輸出拡大実証協議会の取組内容

人・モノ・時間のコストを大幅に削減できたスマート農法の実証実験

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茨米(うばらまい)

茨城県では、県内米を独自にブレンドし、『茨米(うばらまい)』というブランドで輸出を行っています。本プロジェクトの予算を活用して、生産コスト削減の実証実験の対象としたのは、この『茨米』の主要品種であり、豊田通商が開発した「とうごう3号」とそのシリーズ品種「ハイブリッドとうごう」です。一般的な収穫量の多い品種でも10aあたり660kgほどですが、「とうごう」シリーズは10aで720~780kgと多くの収穫量が見込めるのが特長です。

長谷川さん

最も力を入れたのが、通常と異なる栽培方法の実証実験です。ご存知のように、稲作は種から育苗して、水田に田植えをします。その後は収穫まで、水量を管理しながら追肥や施肥を行って育てます。1年で1回の栽培サイクルが一般的で、その間、常に人の手と目を使って育てます。人的・時間的コストがかかるのはもちろん、育苗には専用のハウスなどの施設や育苗用の道具を準備する必要があります。本プロジェクトを活用し、スマート農法の導入で、このコストを削減できないか挑戦しました

具体的には、BASFジャパン株式会社の圃場の衛星画像とAI分析の利用が可能な『ザルビオ®フィールドマネージャー』を導入し、衛星データを活用してドローンで播種するという方法を採用しました。直接、圃場に種を播くため、育苗の時間と施設・光熱費などのコストが削減できます。また田植えの工程が無いため、その時間・人件費・機械設備の運転費用なども削減できます。播種は、湛水直播・乾田直播の2パターンで検証を行いました。長谷川さん曰く、「育苗のプロセスを省いた大胆な栽培法」ということですが、問題なく発芽したそうです。

長谷川さん

もちろん芽が出てからも水稲は手がかかります。従来では、水田の水位の管理は、人が現地に足を運んでチェックする必要がありました。それをAIや水管理システムを活用して代替しました。これにより人が不在でも水管理は適期・適量で行えました。また生育状態に合わせた施肥などの作業や、圃場の草刈りなども衛星画像のAI分析などでタイミングを見極め、ドローンで施肥・防除を行うことで効率化され、人件費の大幅削減を実現しました

その他、中干しの延長を行い、J-クレジット制度を利用して追加の収益を獲得する検証も行ったそうです。栽培コストを下げるだけでなく、利益を上げる取り組みも合わせて、「輸出米栽培を生産者の新たな収益の柱に」と取り組んだのです。

結果から言うと、生育に問題は起こらず、従来同様の品質の米が収穫できました。ドローンは購入ではなく、専門業者に委託して播種を行いましたので、育苗にかかる人件費・設備費・時間はゼロになったと言えます。これが実現できたのも本プロジェクトを活用したからです。同様に、栽培中の防除と施肥についてもザルビオを活用して圃場を診断し、ドローンで実施しています。水管理システム等も活用することで、育苗だけでなく様々なコストが削減されています

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ドローン播種

ドローンの活用によって作業時間は、従来と比べると具体的には10aで約111分の作業時間が削減されました。種子準備と育苗で約1時間、田植えで30分ほど、防除と追肥で20分の削減が実現した計算となります。

その他にも、本プロジェクトを活用し水稲二期作も行い、収量の向上を目指しました。また、輸送においても、高付加価値食品との混載、近隣にある常陸那珂港の活用にもチャレンジしました。さらに、商品展開として、海外の消費者の調理ハードルを下げる無洗米の開発にも取り組んでいます。

長谷川さん

協議会が目指したのは、一俵60kgあたりの生産コスト8,000円です。今回の実証実験だけでそこまでのコスト削減は実現しませんでしたが、大きな手応えを感じました。人も時間も有意義に使えるようになるため、生産者が他の作物を生産したり、経営について考える・動く時間も増えますね。その観点から、輸出米栽培はもちろんですが、国内用の食用米の栽培にもドローンやザルビオを活用したスマート農法は有用だと感じています

2024年度は、天候不良に加えてカメムシの大発生という外的要因が重なり、予定通りに検証を進められなかったものの、この協議会を実施した結果、「生産者のため、そして日本の米と生産者の未来のため」に大きな1歩が踏み出せたと長谷川さんは話します。

茨城県産米輸出拡大実証協議会の今後の展望

数多くの挑戦の中から見えてきた「日本の農業の可能性」

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混載の例。高単価で需要の高いサツマイモや和牛の加工品などとの混載を計画中

「協議会が一丸となって様々な実証実験を行いましたが、もちろんどれにも一長一短があり、長期にわたって検証を行わねば正確な成果の数値は出ないものばかりです。その中で短期的でも効果が上がったのは、スマート農法を導入しました。ドローンやAI、水管理システムの活用です。また栽培以外で言えば、人気の高まっているサツマイモや和牛の加工品やフルーツなど日本の高単価の農産品との混載には可能性を感じています。温度帯などが違う食品と混載すると遠距離輸送の場合に米にカビが発生するといった留意することは多々あります。協議会メンバーでもある県や豊田通商などと協力し、より良い方法を模索したいと考えています。本プロジェクトを通して、協議会メンバーの専門的な知見を結集し、一社の力ではできないような様々なチャレンジを行えました。結果、米輸出事業の課題解決の糸口が見えました。大きな意味がある挑戦となったと感じています」

なにより、輸出米を対象とした実証実験ではあったものの、国内用米の生産者にとっても活用してもらえる知見が蓄積できたと、長谷川さんは振り返ります。

長谷川さん

米は2024年に不足が大きな問題となって以来、現在も国内の新米価格が高止まりしている状況。価格上昇で生産者の収入が安定し、営農を継続できるのであれば、それは喜ばしいこと。ただ2024年にドラスティックに状況が変化したように、いまの状況がいつまた変わるかは分かりません。日本国内の米需要は高まったと言えますが、同様に海外でも日本の米へのニーズは高い。私たちは今後も海外の販路を拡大・充実させる予定です。また今後は海外産の『日本米』との競争もあるでしょう。私たちはそういった多様な未来の可能性を見据えながら、生産者の明るい未来のために何ができるかを考え、経営を進めていきたいと考えています

本プロジェクトは輸出米のための実証実験でしたが、そこで得られた結果・知見は、どの生産者にとっても有用なものばかり。今回の結果や手法を広く生産者に伝え、日本の農業の維持にも貢献したいと長谷川さんは話してくれました。

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