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生産者×農協×流通事業者×行政でタッグを組み、おいしいイチゴの輸出に挑戦!【令和6年度 大規模輸出産地モデル形成等支援事業】

生産者×農協×流通事業者×行政でタッグを組み、おいしいイチゴの輸出に挑戦!【令和6年度 大規模輸出産地モデル形成等支援事業】

農業所得の向上を目指し、規模拡大や多収化、コスト縮減などに取り組んできた長崎県。高齢化や担い手不足などの課題を抱えながらも、10年前より農業算出額が約80億円増加しています。とはいえ、農業産地の維持・拡大を図るには、担い手の確保や育成、国内の需要開拓はもちろん、海外市場への販路開拓や輸出拡大が必要だと考えています。そこで、農林水産省の「大規模輸出産地モデル形成等支援事業」を活用し、輸出体制を強化しようとプロジェクトをスタート。イチゴの輸出において、収穫時から店頭に並ぶまで、さまざまな角度から実証を行い、手応えを掴みました。

「長崎県」は、「令和6年度 大規模輸出産地モデル形成等支援事業」を活用しながら、長崎のイチゴの輸出を強化しています。

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事業実施主体(長崎県)について

輸出への意識醸成を図り、輸出に向けた生産転換の産地づくりを促す

長崎県で行われた「大規模輸出産地モデル形成等支援事業」(以下、本事業)では、農畜産物と水産物に焦点をあて、イチゴ、かんきつ(温州みかん)、牛肉(和牛肉)、水産物(タイ、ヒラメ、スズキ、マアジ、ブリ、ヒラマサ、マグロ)の4つの品目が輸出対象品目として選択されました。どの品目も都道府県別農業・漁業の算出額において上位にランクインするものばかりです。対象品目ごとにターゲットとなる輸出対象国をシンガポールやタイ、ベトナムの中から定め、生産者、農協、青果卸、輸出商社、行政でチームを組み、農業や漁業の所得向上を最大目標に掲げ、さまざまな取組が行われました。

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長崎県の実施体制(イチゴチーム)

なかでも、世界的に人気が高く、海外で注目を集める日本産イチゴの輸出に関しては、長崎県でも海外からターゲット国のバイヤーを産地に招聘して商品を積極的にPRするなど、輸出拡大に向けた産地づくりを推進してきました。現在、香港やシンガポールを中心に実績を伸ばしていますが、さらなる販路開拓や輸出拡大を目指すには、まだ多くの課題が残されています。

「長崎県の農産物の輸出額は増加傾向にありますが、多くの農産物は国内向けの出荷の中から輸出に仕向けられるため、生産者の皆さんからすると輸出に対する意識があまりないかもしれません。しかしながら、今後さらに輸出拡大を目指すには、規制等の輸出条件や輸出先国のニーズを生産者も把握するなど、産地の意識醸成を図ることが大切だと感じています」と長崎県農林部農産加工流通課企画・輸出振興班の園田さん。本事業では、輸出拡大に向けたベースづくりとして、生産者とともに現地ニーズの把握や規制への対応を行い、輸出に向けた生産者の意識醸成や生産の転換に繋げる産地づくりを目指しました。

また、もう一つの大きな課題としては、輸送時間やロス削減があげられます。現状の流通段階では、東京(成田国際空港・東京国際空港)や大阪(関西国際空港等)の大都市圏を経て海外へ輸出していたため輸送コストがかかり、且つ輸送時間が長くなればなるほどロス率も高まります。長崎県は、輸出の起点となる大都市の空港や港から距離が離れていますが、本事業を通じて、長崎から近隣空港等である福岡国際空港の活用や鮮度保持技術、混載方法の検討・実証・普及に取り組み、輸送コストの低減による効率的な輸送と新たな流通体系の構築を目指したいと複合的に取り組むことで、生産地と輸出国の販売先を繋ぐ長崎県版の大規模輸出産地モデル形成を目指したといいます。

長崎県
園田さん

比較的近隣の福岡の空港や港から輸出することで、より新鮮な状態でイチゴの空輸が実現しました。本事業では、誰か一人が頑張るのではなく、生産者、農協、青果卸、輸出商社、行政がチームになり連携することで、ターゲット国に新たなルートを開拓し、輸出拡大に繋げることができました。

事業実施主体(長崎県)の取組内容

最適な早採り時期や各国の輸送状況を実証し、さらなる課題解決に着手

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輸出をしているイチゴ農家 平さんが栽培しているイチゴ

いちばんの課題は、輸出する際のロス率を減らすことです。イチゴは輸送中の気温の変化や飛行機の離着陸の衝撃など、いろいろな要因で傷みのリスクが高まります。本事業では、その傷みの進行度を検証するため、国内では早採りしたイチゴを試験的に輸送し、時期ごとに適性とされる収穫のタイミングを検証しました。本事業に参画したのは、JA長崎せいひとJAながさき県央のイチゴ農家の皆さんです。実証テストに関して、JA長崎せいひの営農畜産部営農課の田崎さんに話を伺いました。

JA長崎せいひ
田崎さん

全国的に輸出拡大を目指す動きがあるなか、JA長崎せいひでもイチゴの輸出に取り組んできましたが、その後のフィードバックがデータ化されていない実態がありました。どのような状態の品質で届いているのか、末端価格がいくらなのかなど、追求できていなかったところを本事業で県、全農、生産者等が一体となり、チームとして進めるということでしたので、本事業への参画を希望しました。生産コストなどが上がるなか、JA長崎せいひは若手農家の新規参入に力を注いでいる地域でもあるため、地域活性化の一助になればという思いもありました。

実証テストに取り組んだのは、1月下旬~2月上旬にかけて。試験的に6分、7分、8分と着色歩合を変えて収穫し、どの着色歩合であれば、イチゴの傷みが少なく、現地ニーズに合う品質を保持できるかを検証しました。結論から言うと、この時期に収穫するイチゴは8分着色がいちばん良好だと判断されたそうです。

「私たちとしては、早採りしたイチゴのロス率の方が低いだろうと想定していましたが、テストでは6分着色でも傷みが出ていました。現地の輸入商社の方を含め、外観の確認や試食をしていただいたところ、シンガポールで求められるのは現地で8分着色以上になっているイチゴだとわかり、7~8分着色で収穫されたものが望ましいという結果になりました」と田崎さん。輸送の段階でイチゴの追熟が進み、現地に着く頃にようやく現地ニーズに合う色合いや品質になるだろうと考えられていましたが、実証テストによって想定よりも追熟が進んでいなかったことが分かりました。

流通経路として選択したのは、県内の青果市場から福岡国際空港を経由し、シンガポールやタイまでコールドチェーンで運ぶルートです。タイについては、本事業でチームを組んだ商社を経由した新たなルートでの輸出が長崎県の取組となります。東京や大阪まで陸路で輸送する場合、店頭に並ぶのは収穫から約4日後。福岡国際空港を経由すれば、ほぼ同じ日数で輸出先国でも店頭に並べることができると分かり、輸出拡大の可能性を感じることができました。一方、慢性的に交通渋滞問題を抱えるタイ現地の国内輸送の現状を知り、解決策を模索するなど、将来的な輸送イメージを描くこともできました。

事業実施主体(長崎県)の今後の展望

冷凍保存技術を活用し、輸送技術と掛け合わせて高単価での出荷を目指す

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海外市場で使用しているパッケージデザイン

本事業では、海外市場で目を惹くパッケージデザインの開発に取り組むほか、輸出先で異なる規制に対応すべく、残留農薬検査に関するノウハウを蓄積。さらには、輸出量が減少する時期でも流通を可能とする新たな冷蔵保存技術の貯蔵実証テストを行うなど、さまざまな課題に向けた実証が進み、大きな収穫を得ることができました。具体的には、イチゴを0℃、湿度95%で保存すると約1カ月新鮮なまま保存できたという研究成果を持つ冷蔵庫を活用し、「冷蔵庫ごと船便に積み込み、新鮮なまま輸出する」または「出荷時期を延長し、需要が高まる時期に出荷する」など、冷凍保存技術を活用した実証を進めていくことになりました。

本事業が採択されたのは2024年6月。7月から実施され、3月までにさまざまな取組が進められてきましたが、イチゴに関していえば、もう数カ月実証テストを続けることができたらという現場の意見もあるそうです。

「3月や4月は国内でもイチゴが多く出荷される時期となり、価格も低下していく時期になります。一方、11月や12月はイチゴが不足している時期で、国内でも価格が高騰する時期。生産者側からすると、輸出によりそのリスクを分散したい部分もあるため、国内が飽和状態になる時期に輸出にチャレンジしたい気持ちもあります」と事業に参画するイチゴ農家の平利樹さんは話します。

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イチゴ農家の平利樹さん

これまでは、関西や関東をメインに国内へイチゴを出荷していたという平さん。関西からイチゴを海外に輸出していると聞いたこともあり、いつか輸出してみたいという気持ちもあったそうですが、高齢化で生産者が減る一方、国内需要が増加し、価格が安定しているイチゴでは、差し迫っての必要性は感じていなかったといいます。しかしながら、物資の高騰など、さまざまな課題が次々と押し寄せる中、海外への輸出販路を開拓することで安定収入を得ることができれば、生産者にとって嬉しいことだと平さんは話します。

イチゴ農家
平さん

イチゴが痛まないよう空輸できる技術はこれからも進んでいくと思うので、長崎のおいしいイチゴを、海外でもそのままの品質で味わってもらえると嬉しいですね。

イチゴのケースを見ても、輸出拡大に向けて一歩前進したという本事業では、4つの輸出対象品目を合わせて、タイとシンガポールでプロモーションを展開し、日本を代表する農林水産県「NAGASAKI」をPRすることもできました。タイでは、現地の有名シェフの協力を得て料理をホテルなど飲食業者に振舞い、長崎の農産物や水産物の栽培ストーリーや県の風土、歴史などを伝え、品目横断的にアピール。シンガポールでも小売店や量販店で試食会を行い、味やパッケージの印象などについてアンケート調査を実施したほか、その成果をイチゴの生産者研究会にフィードバックするなど、産地と情報共有しながら取り組みを進めたことで、産地の意識醸成に繋がりました。また、プロモーションの成果として、海外のホテルやレストランで長崎の新鮮でおいしい農作物を使ったフェアが開催されるなど、輸出拡大に繋がる機会創出となりました。

「新鮮でおいしいと喜んでいただいた長崎のイチゴをさらに多くの人に認知してもらい、量販店や飲食店などへしっかり輸出できるようにしていきたいですね。今後も生産地や流通事業者と一体となり継続して取り組みを進めたいと思います」と園田さんは輸出拡大の未来を見据えます。

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